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七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。
7ーex.間章 銀狼は奔走す(11)
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『とはいえだ。多分、そろそろ伊予さんも引継終えて帰ってくるだろ……で、それが君の素か』
その言葉に、ぎくりと彼は硬直する。
『まあ、何となく君も同類だろうなとは思っていたけどな。ふ、そっちの方が澄ました顔より付き合いやすい。以後、自分との会話はそっちで頼めるかな。いいかい? では、また連絡する。伊都の事、宜しく頼むよ白銀君』
こちらが話を挟む間もなく、そう言うとリッコはぶつりと電話を切ってしまう。
「しまった……」
思わず、あの曲者相手に素を出してしまったと気づいたのは、電話が切れた後であった。
彼が思わぬ失態に頭を抱えた後。
昼過ぎに伊予が帰ってきて「あら白銀君付き添いありがとう。お構いもせずごめんなさいね。キッチンのものは好きに使っていいから、お茶だのおやつだの好きにやってて頂戴。三時間ほど仮眠させて貰える?」 と、ラフな挨拶のあと、あくびを一つしてすぐに彼女は仮眠に入った。
色々言いたい事はあるが、夜勤明けの人には睡眠を優先して貰うべきだろうと「はい、お休みなさい」 と夫婦の寝室の扉へ送り出す。
(あの曲者を長女と言うだけあって、伊予さんも結構変わり者だよな)
幾ら伊都の婚約者だとしても、ほぼ初対面の他人をそこまで信用していいものか、と。伊都といい伊予と言い、この一族は意外と大物なのではないかと彼は内心に唸るのであった。
夕方、すっきりした顔で彼女が伊都の部屋に顔を出す。
「ああ、よく寝たわ。白銀君もわざわざ時間とらせて済まなかったわね。……あらあら、伊都はまだ寝ているの? お寝坊さんね」
「特に、辛そうにはしていないんですが……」
ベッドの横に座り伊都の様子を見ていた白銀は、伊予の顔を見てすっと立ち上がる。
伊予は側に寄ってくると我が子に手を伸ばし、伊都の額に張り付いた髪を避け、額に手を当てるとそっと微笑んだ。
「まあ、この子って昔から、辛い事があると周りを閉め出す為に一日二日お籠もりする事もあったから、それじゃないかなとは思うのよね。だって、普通に歩いてて、急に背中を押されて歩道橋から落ちるなんて怖すぎるじゃない? その内お腹が空いたら起き出すと思うのよ。そういう子なの」
伊予はそう言って、娘の顔を優しい目で見つめていた。
「白銀君もお疲れ様。本当に見守りありがとう。後は私が引き継ぐわ。貴方も大一番を決めた後だと言うじゃない。本当は疲れているのでしょう? この子が起きたら連絡するから、ご自宅に一度お帰りになって休んだら? どうしても心配なら、狭いけどお布団運んでくるけれど」
流石に伊都の部屋に泊まるのは、と。彼は慌てて辞退する。
「いえ、着替えやら何やらも持ってきておりませんので、一旦戻ります」
「あらそう? そうね。自分のお部屋でゆっくり寝た方が休まるものね」
……やっぱり、伊予は伊都の母であるとしみじみ彼は思う。
己のような狼を簡単に信用して懐に入れてしまうのだから、と。
その翌日のこと。
彼は、伊都が目を覚ましたとの報告を聞き、安堵すると共にある決心をする。
……その話をする為に、彼は再び伊都の実家へと車を走らせた。
その言葉に、ぎくりと彼は硬直する。
『まあ、何となく君も同類だろうなとは思っていたけどな。ふ、そっちの方が澄ました顔より付き合いやすい。以後、自分との会話はそっちで頼めるかな。いいかい? では、また連絡する。伊都の事、宜しく頼むよ白銀君』
こちらが話を挟む間もなく、そう言うとリッコはぶつりと電話を切ってしまう。
「しまった……」
思わず、あの曲者相手に素を出してしまったと気づいたのは、電話が切れた後であった。
彼が思わぬ失態に頭を抱えた後。
昼過ぎに伊予が帰ってきて「あら白銀君付き添いありがとう。お構いもせずごめんなさいね。キッチンのものは好きに使っていいから、お茶だのおやつだの好きにやってて頂戴。三時間ほど仮眠させて貰える?」 と、ラフな挨拶のあと、あくびを一つしてすぐに彼女は仮眠に入った。
色々言いたい事はあるが、夜勤明けの人には睡眠を優先して貰うべきだろうと「はい、お休みなさい」 と夫婦の寝室の扉へ送り出す。
(あの曲者を長女と言うだけあって、伊予さんも結構変わり者だよな)
幾ら伊都の婚約者だとしても、ほぼ初対面の他人をそこまで信用していいものか、と。伊都といい伊予と言い、この一族は意外と大物なのではないかと彼は内心に唸るのであった。
夕方、すっきりした顔で彼女が伊都の部屋に顔を出す。
「ああ、よく寝たわ。白銀君もわざわざ時間とらせて済まなかったわね。……あらあら、伊都はまだ寝ているの? お寝坊さんね」
「特に、辛そうにはしていないんですが……」
ベッドの横に座り伊都の様子を見ていた白銀は、伊予の顔を見てすっと立ち上がる。
伊予は側に寄ってくると我が子に手を伸ばし、伊都の額に張り付いた髪を避け、額に手を当てるとそっと微笑んだ。
「まあ、この子って昔から、辛い事があると周りを閉め出す為に一日二日お籠もりする事もあったから、それじゃないかなとは思うのよね。だって、普通に歩いてて、急に背中を押されて歩道橋から落ちるなんて怖すぎるじゃない? その内お腹が空いたら起き出すと思うのよ。そういう子なの」
伊予はそう言って、娘の顔を優しい目で見つめていた。
「白銀君もお疲れ様。本当に見守りありがとう。後は私が引き継ぐわ。貴方も大一番を決めた後だと言うじゃない。本当は疲れているのでしょう? この子が起きたら連絡するから、ご自宅に一度お帰りになって休んだら? どうしても心配なら、狭いけどお布団運んでくるけれど」
流石に伊都の部屋に泊まるのは、と。彼は慌てて辞退する。
「いえ、着替えやら何やらも持ってきておりませんので、一旦戻ります」
「あらそう? そうね。自分のお部屋でゆっくり寝た方が休まるものね」
……やっぱり、伊予は伊都の母であるとしみじみ彼は思う。
己のような狼を簡単に信用して懐に入れてしまうのだから、と。
その翌日のこと。
彼は、伊都が目を覚ましたとの報告を聞き、安堵すると共にある決心をする。
……その話をする為に、彼は再び伊都の実家へと車を走らせた。
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