編み物魔女は、狼に恋する。〜編み物好きOLがスパダリ狼さんに夢と現実で食べられる話。

兎希メグ/megu

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八章 彼女が彼と、住む理由。

七話 長い夢から覚めて(3)

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「もう……母がこの通りで済みません」
「いえ。変に気構えられるよりも逆に過ごしやすいですよ」
「そうよねぇ。白銀君とはもう一日一緒に過ごした仲ですもの」
 あはは、と明るく笑う母の豪快ぶりときたら、この人がこんな気の細い娘をよく産んだなと、生命の神秘を感じるぐらいだ。

(まあ、私の気の細さはお父さん譲りかも知れないけど……)
 などと、伊都はここに居ない父を思う。
 超出ずっぱりで、仕事のお付き合い最優先なのもその気の弱さ故なのである。誘われたら断れないのだ。今日だってどうせ、お得意様の誘いを断れずに接待に行っている筈。
 そんな気苦労症の性格の父へ同情の念を送りつつも、何だか既に入り婿の如く母に気を使っている白銀を、はらはらと見守る伊都。
 母は基本的に人を使うのをためらわない人だ。職場で上長として部下を鍛えている関係か、日常でも父や祖父母へためらわず助力を乞うてきた。
 ……その究極が、実母たる祖母へ娘を託した事になるのだが。

(白銀さん、絶対お母さんにマークされているわ。休みの度に使われないように、後で釘を刺しておかなきゃ)
 過去の例を考え母の悪癖を阻止すべく、珍しくも、伊都は母に反抗する意志を高めていた。
 そんな娘の心配などよそに、婿(?) と義母(?) は仲良く話している。
 頭の回転の早い二人は気が合うのか、昨今の少子高齢化問題や医療系のニュースなどを肴に、ひどく滑らかに言葉を継いでいた。

 それは、昨日今日出会ったばかりとは思えない様子で。
(まあ、コミュ力の鬼な白銀さんと、遠慮を知らないお母さんならありえる話よね)
 伊都は胃に優しい白湯を飲みながら一人頷く。

 実家は築二十年を越えるのだが、近頃LDK部分は改装したばかりで、お洒落なアイランドキッチンが作り付けられている。
 日曜のサラリーマンお父さんの如く、家にいるとテレビか新聞ばかり見て、母を放りっぱなしの父の顔を見られるようにと、母の一念で作ったというが、確かに顔を見ながら作業出来るのは良いなと感じる。

(それにしても……どうしよう。同棲の件、受けるべきかしら?)
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