大魔女さんちのお料理番

夕雪えい

文字の大きさ
45 / 61
06 大魔女さんと世界樹の森

巨人のコーンの焼きとうもろこし 前編

しおりを挟む
 夜が明けてからの旅は順調に進んで、僕たちは無事にガラスの砂漠の踏破に成功した。
 ここからは、いよいよ森人エルフが住むという世界樹の森に入ることになる。
 森自体は砂漠の終わり頃から視界の端の方に見えていたんだけど、今まで見た中でいちばん広大だ。いざ目の前にくるとスケールの大きさを実感してしまう。

「しろがね雪原の氷晶樹の森とは違って、なんかこう……絵に描いたような深い森って感じだね。鬱蒼うっそうとしてるし、迷ったらもう出てこられなそうで怖いよ」
「あら、ある意味ご名答よ。実際この森には目くらましの魔法が掛けられてるから、普通の人間だと迷った挙げ句に入口まで戻ってきちゃうのよね」
「えっ!? そんな厄介な森なの!?」
「ええ。エルフって人口も少ないし、他の種族とあまり交流もしないのよ。だから警戒心が強いの」

 そうだったのか……。となると、なんだか不安がますます大きくなってきた。
 僕たちが歓迎されないかもしれないのはもちろんだし、何よりルジェへの風当たりが強くないかが気になってしまう。
 僕がこれまでに出会ったこの世界の人間、それに鉱人ドワーフ獣人ワンワは結構オープンな人たちばかりで基本的には歓迎ムードだった。邪険に扱われたり、目に見えて警戒されたりすることは全然なかったから、かなり緊張してしまう。
 考えすぎなだけだと良いんだけど……。

 それにしてもトッティはエルフにもずいぶんと詳しそうだ。
 やっぱり博識だからなのかな? 本で勉強したり世界中を旅したりしてるわけだし……。
 そんなことを考える僕の心を読んだかのように、トッティが答えてくれる。

「心配しなくても大丈夫よ。この森の迷いの魔法の仕組みは、昔私の師匠に聞いてあるから。私たちは迷うことはないわ」
「師匠っていうとエデルさん……だっけ? こないだ手に入れた魔法書グリモワールの元の持ち主の?」
「そうよ。エデル師匠は世界樹の森出身のエルフなの。彼女はこの森から離れて世界を旅していて、その途中で私の師匠になってくれたのよ。もっとも何年も前にもう亡くなっちゃったんだけどね」

 トッティの師匠のエデルさん。
 以前から何度も話に聞いたことのある人。彼女もエルフだったのか。
 大魔女と呼ばれるほどのトッティの先生で、エデルさんの魔法書を受け継いだからトッティはさらに強くなったわけで……。

「エルフは魔法が上手い人が多いですからねえ! それでもってトッティ様のお師匠様なんてできるんですから、すんごい魔法使いだったに違いないですう!」
「だよね……。僕もそう思ったよ、エリーチカ」
「まあそれほどでも……あったわね、あの人の場合は」

 満場一致という感じでみんなうなずいている。
 エデルさん、めちゃくちゃすごい人なのかもしれないとは想像していたけど、やっぱり間違いなくすごいみたいだ。

「トッティさんは自分にとっても魔法の師匠っすけど、師匠にも師匠がいるってなんか不思議な感じっす」
「そりゃ私にも未熟だった時代はあるわよ。最初からなんでもできたわけじゃないわ。それとルジェ、私に師匠はやめてって言ったじゃない。堅苦しくっていけないわ」
「トッティさん、絶対そこは譲らないっすよねえ……」

 ともあれ行く前からビクビクしていても仕方がない。
 なんでもまずは当たって砕けろ、だ。実際砕けちゃったら困るけど、物事にはぶつかってみないとわからないことだってある。

「それじゃそろそろ森に入ろうか」
「はいっす! ここも自分が先導するっすよ。村までの道は大体覚えてるんで、ついてきてください。トッティさんには目くらましの魔法の中和をお任せするっす」
「ええ、任せて。世界樹の森には獣が出ることもあるし、しょくの影響で魔物だって出る可能性があるわ。みんな気をつけて進みましょう」
「みんなでエルフの村へ突撃ですう!」

 そうして僕たちはいよいよ森へと分け行っていった。
 森の中は背の高い木も多くて、昼間なのに少し薄暗いくらいだ。
 でも木のおかげで雪はあんまり積もっていなくて、歩きやすいのが助かる。何しろ森の中には道らしい道がないのだ。他の種族とあまり交流しないエルフには、必要性が薄いからなのかもしれない。

 森のどこに魔法がかけられているのかはよくわからないけど、トッティはずっと魔法杖ロッドを構えて呪文を唱えている。
 ルジェはルジェで、道なき道に突き出した枝は切ってくれるし、獣が出れば追い払ってくれる。
 二人のおかげで、こんなにつつがなく進めているんだろうなあ。エリーチカだって、もしもの時には僕も一緒に守ってくれる。本当にありがたい。
 この働きに報いるために、僕もなにか美味しい献立を考えておかなきゃ。

 そんな二人の活躍のおかげで、僕たちは広い森の中にあるエルフの集落まですんなりもとたどり着くことができた。

「エルフの女王は、村の奥にある世界樹をまつった神殿にいるっす。普段なら追い返されるかもっすけど、今は緊急事態だし、門番もさすがに止められないと思うっすよ」
「洞窟都市で聞いた話だと、世界樹になにか異変が起きてるみたいだったけど……」
「ええ。魔王か、魔王の手の者が干渉している可能性は高いわね。直接話を聞いてみましょうか、女王陛下に」

 ルジェの言う通り、門番はあっさり僕たちを通してくれた。
 でも対応としては正直あまり友好的ではなかったし、集落に入ってすれ違うエルフの眼差しも、まるで異物を見るようでチクチク痛かった。

 とはいえ、そんな態度に一喜一憂して悠長に構っている時間はない。
 ここでも異変が起きているんなら、そっちの解決が何より先なんだ。
 それにエルフの女王がどんな人なのかも気になるし、世界樹がどんな役目の木なのかも気になる。

 できる限り急いで、僕たちは村の中心――女王のいる神殿へと向かった。
 異変がおおごとになっていないことを祈りながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~

草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。 勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。 だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。 勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。 しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ! 真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。 これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...