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第一章
輿入れ仕度
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カルディアへの輿入れが正式に決まったその日から、セラは聖殿の外にある館へ移された。
石造りの館は海からの潮風が漂い、窓から差し込む春の日差しが、白く反射している。
もとは巡礼に来る貴族をもてなすための場所だが、今は婚礼の支度に追われ、侍女や仕立て職人たちが忙しく行き交っていた。
衣装の採寸、宮中での作法の確認、その合間には宰相によるカルディアの歴史や情勢の講義――目まぐるしい日々が続く。
「六十にもなって嫁入りなんかするもんじゃないわ」
椅子に腰を下ろし、リゼットの差し出したお茶を一口すする。
「溜息ばかりだと、もっと老けますよ」
「じゃあ、いっそのことヨボヨボになってしまおうかしら」
「それなら杖をついてカルディア国民の前に立ちましょう。魔法使いとしてあがめられるかもしれませんね」
「ふふ、あなたは本当に冗談が上手ね」
セラが笑うと、リゼットは表情を引き締める。
「陛下も宰相も本気です。私も命懸けでお守りします」
「おおげさねえ」
「これくらいの気合がなければ、カルディアには行けません」
窓の外では、港へ向かう荷車がひしめいている。数日後、その港からカルディア行きの船が出る予定だ。
「半世紀も、神殿の外で夜を明かしたことなんてないのよ。それがこれからは異国の宮廷で、それも四十も年下の夫が隣にいるなんて」
「きっと、やっていけます」
「根拠は?」
「セラ様ですから」
まるで当然のように言うその声は、不思議と胸の奥まで響いた。
セラは祈りの間で使っていた白いヴェールを手に取り、目じりに皺を寄せて微笑んだ。
「そうね。何とかなるわね」
最後までお読みいただきありがとうございます。
※面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
石造りの館は海からの潮風が漂い、窓から差し込む春の日差しが、白く反射している。
もとは巡礼に来る貴族をもてなすための場所だが、今は婚礼の支度に追われ、侍女や仕立て職人たちが忙しく行き交っていた。
衣装の採寸、宮中での作法の確認、その合間には宰相によるカルディアの歴史や情勢の講義――目まぐるしい日々が続く。
「六十にもなって嫁入りなんかするもんじゃないわ」
椅子に腰を下ろし、リゼットの差し出したお茶を一口すする。
「溜息ばかりだと、もっと老けますよ」
「じゃあ、いっそのことヨボヨボになってしまおうかしら」
「それなら杖をついてカルディア国民の前に立ちましょう。魔法使いとしてあがめられるかもしれませんね」
「ふふ、あなたは本当に冗談が上手ね」
セラが笑うと、リゼットは表情を引き締める。
「陛下も宰相も本気です。私も命懸けでお守りします」
「おおげさねえ」
「これくらいの気合がなければ、カルディアには行けません」
窓の外では、港へ向かう荷車がひしめいている。数日後、その港からカルディア行きの船が出る予定だ。
「半世紀も、神殿の外で夜を明かしたことなんてないのよ。それがこれからは異国の宮廷で、それも四十も年下の夫が隣にいるなんて」
「きっと、やっていけます」
「根拠は?」
「セラ様ですから」
まるで当然のように言うその声は、不思議と胸の奥まで響いた。
セラは祈りの間で使っていた白いヴェールを手に取り、目じりに皺を寄せて微笑んだ。
「そうね。何とかなるわね」
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