老聖女の政略結婚

那珂田かな

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第二章

初夜

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豪奢な宴が終わると、セラは侍女たちに導かれ、王宮の奥へと進んだ。
 長い回廊を抜け、厚い扉が開かれる。そこは新たな寝所――国王と王妃のために用意された部屋だった。
 壁には金の装飾が施され、天蓋付きの大きな寝台が壁に沿って据えられている。香炉からはむせかえるような甘い香が漂い、窓は閉じられていた。豪奢であるはずの部屋は、重苦しく息苦しい。
「お休みの支度を」
 侍女たちが手際よくドレスを脱がせ、薄い寝間着に着替えさせる。鏡に映った自分は疲労困憊で、十歳以上老け込んで見えた。白粉は仮面のように張り付き、その下の表情を覆い隠している。
 やがて扉が再び開き、エドモンドが入ってきた。濃紺の礼装を脱ぎ、簡素なシャツ姿となった彼は、セラに視線を向けずに言った。
「今夜は、お疲れだろう。ゆっくり休むように」
 その声は丁寧だが、温度を感じさせない響きだった。
「お気遣い、感謝いたします」
 セラは礼を述べながらも、同じ寝台を共有することを思うと、胸がざわめく。
 半世紀を神殿で過ごし、男女の営みなど知らないに等しい。それなのに、隣に横たわる若い王の存在を意識せずにはいられなかった。
 寝台の上で横になると、エドモンドも淡々と隣に身を横たえた。距離は腕一本分ほど。しかし、その間には重く分厚い壁があるかのようだった。
 天蓋の布越しに、外の月明かりがぼんやりと差し込む。言葉を交わさぬまま、時間だけが過ぎていく。
(ああ、太陽神ソレイユよ。なぜあの時、嫁ぐことを止めてくださらなかったのですか)
 思わず神に憤りをぶつけたくなり、セラは小さく首を振った。
(……いえ、決めたのは自分)
 心の中で大きくため息をつく。眠りは浅く、やがて夜明けを告げる鐘の音が鳴るまで、煩悶は続いた。

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