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第七章
守り手
しおりを挟むセラの忙しい日々が始まった。
朝は薬草園に立ち、女官と共に止血の膏薬や解熱の煎じ薬を作る。昼には孤児院を訪れて子どもたちを見舞い、夕刻には備蓄品を細かに点検させ、夜には城門の警護について報告を受ける。
戦場には赴けなくとも、王都を支える道は幾つもある。セラは老いた体を惜しまず、ただひたすらに歩みを止めなかった。
そんな折、王妃の間に二通の手紙が届けられた。
一通はガストン卿の娘オリヴィアから。もう一通は、かつて側室候補とされながら辞退した貴族令嬢ローズからであった。
『妃殿下。私も役立ちたく存じます。どうかお力添えをお許しくださいませ』
『この王都を守るために、私どもにもできることがございます。お話を聞いていただきたく思います』
セラは手紙を読み終えると、ふっと目を細めた。
「リゼット。二人を茶会に招きましょう。……今度は本音で語り合えそうだわ」
数日後、王妃の間に小さな茶会が開かれた。
卓には秋薔薇と銀の器が飾られ、三人だけの親密な場が整えられている。外の風は冷たさを増しつつあったが、部屋の空気は真剣で温かかった。
最初に口を開いたのはローズだった。
「妃殿下。私は騎士の妻や娘たちとともに、自警団を組織しようと考えております。皆、親兄弟から剣の扱いを教えられております。残された私たちが町の治安を守らねばなりません」
凛とした声音に、セラは深く頷いた。
「立派なお考えです。民は不安に暮らしております。あなたたちの逞しさから、きっと安心を与えられるでしょう」
続いてオリヴィアが身を乗り出した。
「私は貴婦人たちを集めますわ。皆、夫や息子を戦地に送り、泣いてばかりおりますの。私、そんな暇があれば“できることをなさい!”と言いたいのです。貴族の屋敷には大なり小なりハーブが植えられております。そこで、みんなで持ち寄り、煎じ薬や湿布に仕立てる方法を、ぜひ妃殿下に教えていただきたいのです」
その軽やかな少女の厚意と真剣さに、セラの胸は熱くなった。この王都を守ろうとしている。
「なんと心強いこと。私の知識を惜しむつもりはありません。皆で薬草を分け合い、王都を守る備えを整えましょう」
宣言すると、オリヴィアの顔はぱっと明るく輝き、ローズは静かに頷いた。
セラは若い二人と真の友情を結べたことに、うれしさを隠さない。
「私たちが王都を守る。それは戦地で戦う兵たちの盾となるでしょう――さあ、皆の心を一つに」
秋の陽が窓辺に差し込み、三人の影を温かく包み込む。
その日、王都を守るために立ち上がる女性たちの絆が、静かに結ばれたのである。
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