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第八章
陰鬱な一日
しおりを挟むその日は、まるで太陽の光さえ翳って見えるようだった。
セラは朝から薬草園に身を置いていたが、心が落ち着くことはなかった。露を湛えた葉に触れても、緑の匂いを胸いっぱいに吸い込んでも、胸の奥に沈む不安は少しも晴れない。セラは毒消しになりそうな薬草を摘み、早々に私室に戻った。
昼過ぎ、宰相ランベールが訪れた。痩せぎすの体を黒い外套に包み、深いしわを刻んだ顔には重苦しい色があった。
「妃殿下、陛下の容態についてご報告を」
セラは思わず立ち上がる。
「陛下は……」
「意識はまだ戻られません。高熱と吐き気が続いておりますが、医師団が懸命に治療を続けています」
セラは胸の前で手を組みしめた。――懸命な治療を受けている。そう言われても、胸の痛みは和らがない。
ランベールは声を潜めた。
「そして、犯人についてでございます。昨夜の宴で給仕をしていた男の一人が行方不明になっております。身元を偽り潜り込んでいたらしく、先の反乱軍の生き残りである可能性が高い。復讐のため毒を盛ったのでしょう」
「……そうですか」
セラは小さく頷いた。確かに筋は通っている。頭では納得できた。
だが同時に、胸の奥に鋭い棘のような違和感が刺さったまま抜けなかった。
――なぜ、その給仕が王の杯に近づけたのか。
――偶然にしては出来すぎている。
疑念は形を持たぬ影のように胸に居座り、冷たい痛みを残す。
「陛下のお命は必ず守ります。どうかご安心を」
そう言ってランベールは深く頭を下げ、足早に去っていった。
宰相の姿が消えると、王宮の静けさがいっそう重くのしかかってきた。
大理石の床は冷え、黄金の燭台や鮮やかな壁画は、いつもの華やぎを失っている。女官たちの姿もほとんどなく、回廊にはまるで人がいないかのように静寂が満ちていた。
広大な宮殿全体が、ひとつの息を潜めている牢獄のように思えた。
セラは窓辺に立ち、曇天を仰いだ。
王妃として気丈に振る舞わねばならないのは分かっている。
だが、胸の奥で囁く声は消えなかった。
――本当に、犯人はその給仕なのだろうか。
頭では納得している。セラは心と頭を落ち着かせるため机に戻りペンをとった。
なぜ、誰が、どうして。
心の抜けぬ棘に苛まれながら、自分の思いを綴った。
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