悪役令嬢の兄に転生した俺、なぜか現実世界の義弟にプロポーズされてます。

ちんすこう

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16【弟はNTR絶許だが!?】

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 薄暗い物置きの中で四肢を拘束されて、俺は着ていたシャツをビリビリに引き裂かれ、上裸に剥かれている。


 これは、俗に言う【絶体絶命】というやつである。


 後ろから抱き締めてくるデイビッドは、外気に晒された俺の体に手を這わせながら恍惚とした溜め息を零した。

「はあ、なんて滑らかな肌なんだろうね」
「ひぅっ……」

 ぢゅ、と首筋を食まれて、ぬめった舌を這わされる。
 ちゅ、ちゅう、と首やうなじ、肩に吸い付かれながら、胸を柔らかく揉み込まれた。

「ユーリ、東セントレアを焼けと命じたのに、どうして言う通りにしなかったのかな?」

 びくりと肩を揺らす。
 胸の先を捏ねられたからではなく、その言葉に反応したからだった。

 ユーリは自分の意志じゃなく……この変態に『村を焼け』と言われてそうしたのか?

 意識を取り戻す前、夢で見たユーリの記憶を思い返す。

 お父さんを喪って当主を受け継いだプレッシャーに苦しんでいたユーリに、デイビッドは自分の言う通りにすればいい、と囁いていた。

 身内以外の者を踏み潰してしまえと。


「できるわけないだろう。村一個なんて焼いたら何百人が死ぬか分からないんだぞ」

「関係ないよね? 僕らに」


 ちゅっ、と最後に一回首筋にキスを落としたデイビッドは、今度は耳に息を吹き込むようにして囁きかけてくる。


「何度も話したよな? あそこの村はよその商家と癒着しているんだ。
 あのまま放っておけば商人と結託して、僕らに納めるべき税を市場に横流しする。
 するとそのぶん僕たちの取り分が減ってしまうから、その前に潰す必要があるんだよ。

 奴らは他の管轄領にたいする見せしめなんだから、皆殺しでちょうどいいんだ」


 よくもまあそんな畜生発言を、人の乳首をこねくり回しながら言えるもんだ。
 ぐりぐりと長い指で乳首を転がされる嫌悪感に身をよじると、何を勘違いしたのか奴が俺の顎を掴んだ。

「感じてるんだ、いやらしい子」

 は???
 いやらしいのはお前の顔と手つきだろうが!!
 勝手に人をスケベ扱いすんな!!

「……感じてなんか、な……っ」

 ――と言いたいところだけど、抵抗できない状態でこの変態を刺激するのはまずそうだ。

「恥ずかしがってるのかい? 可愛いなぁ……っ!」

 弱々しい否定でとどめると俺の真意は全く伝わらなかったようで、男は興奮の証を俺の太腿に擦り付けてきた。
 ひぃいいゴリッてしたぁ……。

「っはぁ、ユーリ、今日こそは抱くからね。前回は邪魔が入ったから」

 パンパンと服を着たまま緩く腰を打ち付けて、俺のズボンに手をかけてくる。
 前を乱され、もちろん勃っているはずもないそこをすりすりと撫で上げて、もう片方の手で尻をぐにぐに揉まれる。

「前回……?」
「それも忘れてしまったのか」

 残念そうに声のトーンを落として、デイビッドは嘲った笑い声を上げる。

「君のところの執事だよ」
「エドワードか?」
「そんな名前だったっけ」

 言って、俺の額に手を翳してくる。

「な、なにを――」
「僕との思い出まで忘れられたら悲しいからさ。全部思い出させてあげる」
「やめ……っ!」


 きぃん、と小さい魔法陣が発光して、頭が白飛びする。
 鋭い眩暈に襲われて反射的に目を瞑ると、閉じた瞼の裏に見覚えのない映像が流れ始めた。


◇◆◇


 ユーリが、また小部屋の椅子でデイビッドと向き合っていた。

『デイビッド、俺は……取り返しのつかないことをした』
『僕がそう命じたからだろう?』

 デイビッドはユーリの手を取って、執拗に撫でている。

『君はホワイトハート家の領地を守るため、あの小賢しいスペンサー公爵を消したんだ』
『俺が人を手にかけたなんて、家族が――父様が知ったら』
『リチャードはもういない。
 だから後ろめたく思う必要はないさ。
 君はただ、言われた通りに手を汚せばいいんだ』

 脳がチリッと弾けて、別の映像が流れ込んでくる。

 ユーリは月もない暗い空の下で、激しい雪風にさらされながら血のついた剣を握り締めていた。
 ……これは、彼がはじめて人を殺したときの記憶だったんだ。


 そして、ユーリに最初の罪を犯させたのは。


『気に病むことはないんだ。君の父親もやっていたことだよ』

 映像があの小部屋に戻る。

『父が……?』
『そう。
 たまに僕たちが二人で出かけることがあっただろう?
 ああいうときに、僕とリチャードは両家の繁栄の邪魔をする連中を掃除して回ってたんだ』

 見た目も真っ黒なら、やることも真っ黒だ。
 ユーリを通して愕然と男を見つめていると、シャツのボタンに手をかけられた。

『難しく考えなくていい。君は僕のモノになれば……』

 一番上のボタンが外されたとき、部屋の扉を叩く者があった。

『誰だ』

 固まっていたユーリが弾かれたように立ち上がる。

『エドワードでございます。
 ユーリ様、少々よろしいでしょうか』
『……ああ。入れ』

 ボタンを留め直しながら、二人は視線を交わらせる。
 そこには罪深い者同士にしか伝わらない、共犯のような空気が流れていた。


◇◆◇


「あのときは彼のせいで歯痒い思いをさせられたよ」

 デイビッドは冷笑を浮かべ、俺のものを撫で擦る。
 気持ちよくはない。敏感な部分に触れられているので、変な感触だ。

「だから今日は、ちょっとした仕返しをしてやったんだ」
「エドワードに何をした?」

 庭で見失ったあの人を思い出して、きつく尋ねる。
 デイビッドは「妬けるなあ」と意味不明なぼやきを零して笑った。

「ちょっと君のところの裏庭で眠ってもらっただけだよ。今ごろはもう目覚めてるんじゃないかな。
 それより」

 俺の目を真横から覗き込むようにして、デイビッドが訊く。


「親子揃って僕の命令に背いた罰を与えなければ。
 君はどうお仕置きされたい?」


 身体が総毛立ち、本能的に察した。

 東セントレアの虐殺はデイビッドが持ちかけたもので、前ホワイトハート子爵はそれを断っていたんだ。
 書斎に残されていた彼の遺書を思い出す。まるで自分が死ぬと知っていたかのようだ、って……。


 つまり――ユーリの父親は、事故で亡くなったんじゃない。

 ――消されたんだ。この男に。


 俺いま、殺人鬼と密室で二人きりなんだ。

 気付いたと同時にゾッとする。


 事件は会議室じゃなく、洋館の大階段の踊り場でもなく――
 なんかよくわからん薄暗い倉庫みたいな場所で起こる! 俺は死ぬ!


「い、嫌だ……っ死ぬのは嫌だ……!」


 男の手が俺の首にかけられて、つつ、と皮膚をなぞっていく。



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