悪役令嬢の兄に転生した俺、なぜか現実世界の義弟にプロポーズされてます。

２３【弟、お兄ちゃんに惚れ直す】

　うぐぐと呻いて俺に手を差し出してくる。


「可愛、綺、く……っけ、結婚してください……」

「いや、だから結婚するんだろ？」


　悶絶というか、苦悶の表情を浮かべて項垂れていた。
　どうしてそんな顔になる。


「勢いあまってまたプロポーズしちゃった……」

「プロポーズっていうより、それ発砲された奴のポーズなんよ」


「実質撃たれたようなもんだし」と唸りながら奏はよろよろと立ち上がり、一歩近付いてくる。
　実験は終わったのか、結んでいた髪はほどいて眼鏡も外している。
　その目を涙で潤ませながら、俺に抱き着いてきた。


「わっ」

「すげぇいい。似合ってるよ、ゆう」

「ドレスじゃなくてよかったのか？」


　奏は俺を抱く力を強めて、うん、と首を振る。


「兄ちゃんなら何着たって似合うよ。
　とにかく、俺の花婿になる姿が見られただけで、幸せ」


　そして、耳元で俺にだけ聞こえる声で囁いた。


「体が他の誰かのものであっても」


　その言葉に鼓動が弾む。

　こいつは俺の服の種類どころか、外の皮が違ったって構わないんだ。


「兄ちゃんが兄ちゃんであれば、なんでも」

「……そうかよ」


　笑って、しがみつく奏の背中を優しく叩く。

　そっと二人の体に僅かな隙間が開いて、髪を耳にかけるようにしながら顔を撫でられた。


「俺の旦那さんだ」

「まだだけどな」

「……本当にいいの？」


　この段階で訊くことでもないだろと思うが、頷いてみせる。

　奏は間違いなく俺にとって大切な存在だ。

　さすがにこの年で結婚なんて考えたことはなかったけど、抵抗はない。
　前世では付き合ってる子もいなかったし、なにも問題はないと思う。

　肯定の意味を込めてしっかり頷くと、奏は蕩けるような笑みを浮かべて俺に唇を寄せてきた。


「ちょ、かなっ……カイ」

「ゆう――」


　と。

　べちんっ、と何かを叩く鈍い音が響き。


「ぶふぅっ！！」

　奏が奇妙な鳴き声を上げる。……なんか、すごくデジャブを感じる。


「ウィングフィールド様。ユーリ様の服に皺が入りますので、そのあたりで」

「お前な！！！！」


　視界を塞いでいた影、エドワードの手が去っていくと、奏が鼻を抑えながら地団駄を踏んだ。
　それに対し、にぃっこりと良い笑顔を輝かせたエドワードが手の甲を拭っている。


「お前の手にちゅーしちゃっただろうが！！　俺が用があるのはお前じゃないの！　兄ちゃんなの！」

「あいにくですが、あくまで婚前ですので多少は慎みをお持ちになってください」

「ぐぬぬぬぬ……！」


　なおも俺に近付こうとする奏の足に、今度はレジーナのヒールが落とされる。


「お兄さまに触らないでこの変態ッ！！！」
「痛いっ！！！！」
「ナイスですお嬢様」
「ハァハァ、やっぱりカイ×ユーリ様が至高だわ、ハァハァ……！」

「……お前らな…………」


　こんなので結婚式当日、大丈夫か……？