悪役令嬢の兄に転生した俺、なぜか現実世界の義弟にプロポーズされてます。

ちんすこう

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25【奏の推理】

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「あんたが犯人だろう、エドワード」

「な……何言ってんだよ、カイ」


 スピーチの途中で突然エドワードに矛先を向けた弟に、俺は思わず席を立った。

「こんなときに何言い出すんだ、お前は!
 犯人って、なんのことだよ」
「兄ちゃん、前に話をしたよね。
 俺たちがこの世界に生まれ変わったのはなぜか。
 誰が俺たちを『けど恋』の世界に招いたのかって」

 どうしてここでその話をするのか――そう尋ねようとして、はっと気付く。

「それって」
「そう。俺は、エドワードが手引きしたんだと思ってる」

 状況を把握しきれないまま、エドワードと奏の顔を交互に見つめる。周りの人たちは俺以上に何が起きているのか分からないだろうに、いいんだろうか。

 奏は他の招待客や王様たちに見向きもせず、話を続けた。


「俺と兄ちゃんは、元の世界では普通に死んだんだ。その魂を呼び戻すためには、誰かが召喚術の類を使う必要がある。
 わざわざそんなことをするのは、そうする理由がある人間だけだ。
 俺たちをこの世界に呼んで、物事の筋書きを変えたいと願うのは……悪役サイドのヤツだろう」


 以前、奏がこの世界のことを『けど恋』の世界とは少し違う、次元の狭間にある場所じゃないかと話していたのを思い出す。
 キャラが個々に自我を持てる世界だという話だ。
 その仮説が本当なら、エドワードが行動を起こしたと考えてもおかしくはない。


「それにね。
 兄ちゃんには話してなかったけど……ここに来る前、俺は死ぬ直前に、誰かの声を聞いたんだ。

 『この世界から消えてしまいたいと願うか』、って。その声が、今思えばエドワードのものに似ていた」

「消えて……」


 呟いた瞬間、じくじくと目の奥が熱を帯びる。
 開かれた瞳孔の裏に、真っ黒な闇が広がった。

 ――父さんと母さんの顔だ。

 マーカーで塗り潰されたような黒、あれと同じ闇が。

 その中に、別の光景がちらつく。


「……っ!」


 俺と奏が、手を取り合ってどこかから落下する。
 視線の先に真っ黒に塗りたくられた母さんの顔があって、どんどん遠退いていく……。


 走馬灯はパチンと唐突に弾けて消えて、また今の風景に戻った。
 奏が続けて話す。


「俺はその問いに『消えたい』と答えた。
 ゆうが死んでいなくなる世界なら、俺も消えたいと」

「そんな……ことを言うなよ」

「本音だったから。
 ……答えた途端に、周りの景色ががらっと変わったんだ。
 気がつくと、俺はこの世界に転生していた。兄ちゃんとは一度引き離されちゃったけど」


 奏は、表情の変わらないエドワードに尋ねる。


「あんたの目的は何だ?
 『ユーリ』に執着があるのは分かる。けど、兄ちゃんは渡さないからな」


 黙って奏の考察を聞いていたエドワードが、そこでやっと口を開いた。


「……一つ、訂正したい箇所がございます。よろしいですか」


 そう言い置いてから、エドワードは奏を正面から見つめ返す。

 その顔にはずっと変わらない微笑を浮かべているけれど、それが却って不自然だった。普通は、何をとんちんかんな話をしているのかと顔を曇らせるところだろう。

「どうぞ。俺の推測に間違いがあるなら」

 勧めた奏に、エドワードは軽くお辞儀してから言った。


「奏様の見立てが誤っているわけではないですが……私が我欲のため、独断でやったことではないと知っていただきたい。

 この計画の発案者は、ユーリ様です」


 自分のことを言われたのかと思って、ちょっとびっくりする。
 が、すぐにそうではなく、本物のユーリのことを言っているんだと分かった。


「ユーリが?」

「そうです。あのお方は、ご自分の運命を知っておられた。
 そして、それが我々の力では不可変のものであることも。
 この世界には、神が作った運命さだめがある。
 しかし、坊っちゃんはそれでもどうにかデイビッドに一矢報いたかったのです」


 ユーリの目的はデイビッドへの復讐。
 伯爵は父親を殺した仇で、自分が誤った道を進むことになった元凶と言える。憎んで当然だ。


「どうやっても坊っちゃんでは伯爵に歯が立ちませんでした。
 ですが、どんなに綿密に練られた物語でも、どこかに綻びはあるものです。
 あらかじめ定められた運命も、その裏をかくことはできる」

「それで、俺たちをここに呼んだのか……?」


 俺が訊くと、エドワードは確かにうなずいた。


「坊っちゃんの命を受けて、私が術を遂行しました。
 本来ならこの世界に存在しない外部の者を招き入れれば、シナリオ通りにしか進まない運命を壊してくれるかもしれないと願って」

「そうだね。実際俺は元の話にない行動をとったし、兄ちゃんは村の虐殺を止めた。
 要所要所で起こるイベントは決まっていても、その結果を変えることはできるらしい」

「それが、まさしく我々の狙いでした」


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