やっぱりやらねば(続)

Anastasia

文字の大きさ
6 / 45
アイラと廉

その3-01

しおりを挟む
 最初のデートを終えたアイラは、その週の週末の昼間に、廉との次のデートをしていた。

 手作りの壷や置物のマーケットがあると言うので、それを見に行きがてらランチを済ませ、街をぶらぶらして、その日は夕方に終わっていた。

 特別、何かが変わったのでもなく、進展したのでもなかったが、本人はまだ“デート”をするらしく、次のデートは、会社を終えての軽い夕食だった。
 着飾ってちゃんとしたデートではなく、会社帰りに、夕食にレストランに立ち寄ったものなのである。

 互いに見知っている時間が長いので、今更、男と女のデート――と一転するのも難しいものだったが、相手の廉もそこら辺は抜け目がなく、デートしている間に、必ず、友達の付き合いではないことを、きちんとアイラに思い出させていた。

 年がら年中、暖かい土地柄ではあるが、5月が明けてくる頃には日差しが強く、夏の到来を告げていた。

 今夜は映画のデートらしく、カジュアルに、廉もスーツは着ていなかった。
 アイラは赤いサマードレスを着て、お揃いの、赤いリボンのついたサンダルを履いていた。
 特別、華美なドレスでもなく、ここ一番の勝負に賭けるドレスでもなく、シンプルな綿のドレスだったが、膝上でスカートがフワフワと舞っていて、四角い襟口のその上に、三角に肩にかかるものだった。

 だが、ヒールがあるサンダルを履いているアイラは、廉と並んでも、その背丈が負けないものである。
 体の線が優しく出ているドレスの下で、足がスラリと伸びていて、それで、シンプルなドレスを着ようが、どこにいても、必ず目立つ、目が引く様相だった。

「結局、髪の毛を切らなかった?」

 廉がアイラの長い髪の毛先を、つん、と引っ張るようにした。

「切ったわよ。毛先だけ揃えたの。バッツリ切って、って言ったのに、今回は勿体無いから、毛先だけ揃えてアレンジしましょう――ってね」

 その言葉の通り、下のほうは柔らかいパーマがかかっているようだった。

「その髪型は色気を振りまいているよね」

 ジロッと、アイラが冷たく廉を睨め付ける。

「そう見えるんだから、仕方がない」

 廉はアイラの冷たい視線の先で、握っている髪の毛を口元に近づけていって、そっと、その髪の毛にキスをした。

 アイラはその廉を無視して、ドアの鍵を開けて行く。

「おやすみ」
「そうだね。でも、定番を外したくはないから」

 ドアを開けて中に入っていくアイラを止めて、廉がそのままアイラにキスをする。
 すぐに、廉の両手がアイラの顔を包み込んで行き、少し押し返したアイラを無視して、廉がキスを強めていった。

 こうやって、何度も、何度も、アイラがただの友達ではないことを証明してみせるので、ここ何回かのデートでも、アイラの意思が揺らぎ始めていた。

 癖になるキスをする方が間違っている――とアイラは思うのだが、体の反応は止められるものでもない。

 もちろん、アイラだけ反応しているのも負けたような気分で腹立たしいので、廉の隙を突いて、アイラも廉に仕返しすることは忘れない。大体、アイラの性格で、やられっぱなし、相手のペースに乗せられっぱなし――であるというのが間違っている。


「また、それをやる」


と、廉は嫌そうにアイラを見ていたが、先に誘ってくる方が悪いのである。

 それで、アイラがちょっと仕返しをしようが、アイラの知ったことではなかった。

「――部屋には、誘ってくれないの?」
「それは、考慮中」
「どうして?」
「このまま進んだら――本当に後戻りはできなくなるわね」

 それで、廉は少しだけ唇を離し、アイラを真っ直ぐに覗き込んだ。

「もう無理だよ。後戻りはできない。ただの友達には、戻れない」

 アイラは珍しく、それには何も言わず、廉と同じように、廉を真っ直ぐ見返していた。

「俺は、友達と、女と意識している衝動を一緒にできるほど、器用じゃない」
「澄ました顔で何でもやってるじゃない」

「できることと、できないことがある。一緒にはできないから、もう、後戻りはできない。それとも――そうやって、見本を見せないと判らない?」
「見せてるじゃない」
「それは仕方がない。アイラが相手だから」

 アイラはまだ考えていたのか、迷っていたのか――

「知り合いだし、手の内もバレてるし、コーヒーを勧めてお話ししましょう――なんて今更だから、それは素っ飛ばすわね」
「それはいいね。賛成だ」




* * *




 アイラの部屋に入るなり、もう戸惑いはなかったかのように、アイラが廉に向いていた。

 バッグを後ろの椅子に放り投げて、サンダルを脱ぎながら、アイラがその腕を伸ばす。
 そして、アイラの唇が廉の唇に届くや否や、廉もアイラを抱き締めていた。

 抱き締めたままで、アイラの頭を上げさせ、その上を向いた口元に、廉が更に深く唇を押し付けて行った。
 アイラは廉の頭を包み込むように廉を引き寄せ、思いのままに、自分の唇を押し付ける。

 廉の唇の動きに刺激され、舌をからめながら、唇の合間から、アイラの艶かしい吐息が漏れて出していた。

「――……は、ぁ……――」

 本気になってアイラを抱いてくる気なのだろう。

 さっきから、アイラに呼吸させる暇さえも与えず、廉の唇がアイラの唇を塞ぎ、キスが襲い掛かってくるのだ。
 キスだけでもその気になるのは十分だし、体がうずき始めるのにも十分だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...