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アイラと廉
その3-01
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最初のデートを終えたアイラは、その週の週末の昼間に、廉との次のデートをしていた。
手作りの壷や置物のマーケットがあると言うので、それを見に行きがてらランチを済ませ、街をぶらぶらして、その日は夕方に終わっていた。
特別、何かが変わったのでもなく、進展したのでもなかったが、本人はまだ“デート”をするらしく、次のデートは、会社を終えての軽い夕食だった。
着飾ってちゃんとしたデートではなく、会社帰りに、夕食にレストランに立ち寄ったものなのである。
互いに見知っている時間が長いので、今更、男と女のデート――と一転するのも難しいものだったが、相手の廉もそこら辺は抜け目がなく、デートしている間に、必ず、友達の付き合いではないことを、きちんとアイラに思い出させていた。
年がら年中、暖かい土地柄ではあるが、5月が明けてくる頃には日差しが強く、夏の到来を告げていた。
今夜は映画のデートらしく、カジュアルに、廉もスーツは着ていなかった。
アイラは赤いサマードレスを着て、お揃いの、赤いリボンのついたサンダルを履いていた。
特別、華美なドレスでもなく、ここ一番の勝負に賭けるドレスでもなく、シンプルな綿のドレスだったが、膝上でスカートがフワフワと舞っていて、四角い襟口のその上に、三角に肩にかかるものだった。
だが、ヒールがあるサンダルを履いているアイラは、廉と並んでも、その背丈が負けないものである。
体の線が優しく出ているドレスの下で、足がスラリと伸びていて、それで、シンプルなドレスを着ようが、どこにいても、必ず目立つ、目が引く様相だった。
「結局、髪の毛を切らなかった?」
廉がアイラの長い髪の毛先を、つん、と引っ張るようにした。
「切ったわよ。毛先だけ揃えたの。バッツリ切って、って言ったのに、今回は勿体無いから、毛先だけ揃えてアレンジしましょう――ってね」
その言葉の通り、下のほうは柔らかいパーマがかかっているようだった。
「その髪型は色気を振りまいているよね」
ジロッと、アイラが冷たく廉を睨め付ける。
「そう見えるんだから、仕方がない」
廉はアイラの冷たい視線の先で、握っている髪の毛を口元に近づけていって、そっと、その髪の毛にキスをした。
アイラはその廉を無視して、ドアの鍵を開けて行く。
「おやすみ」
「そうだね。でも、定番を外したくはないから」
ドアを開けて中に入っていくアイラを止めて、廉がそのままアイラにキスをする。
すぐに、廉の両手がアイラの顔を包み込んで行き、少し押し返したアイラを無視して、廉がキスを強めていった。
こうやって、何度も、何度も、アイラがただの友達ではないことを証明してみせるので、ここ何回かのデートでも、アイラの意思が揺らぎ始めていた。
癖になるキスをする方が間違っている――とアイラは思うのだが、体の反応は止められるものでもない。
もちろん、アイラだけ反応しているのも負けたような気分で腹立たしいので、廉の隙を突いて、アイラも廉に仕返しすることは忘れない。大体、アイラの性格で、やられっぱなし、相手のペースに乗せられっぱなし――であるというのが間違っている。
「また、それをやる」
と、廉は嫌そうにアイラを見ていたが、先に誘ってくる方が悪いのである。
それで、アイラがちょっと仕返しをしようが、アイラの知ったことではなかった。
「――部屋には、誘ってくれないの?」
「それは、考慮中」
「どうして?」
「このまま進んだら――本当に後戻りはできなくなるわね」
それで、廉は少しだけ唇を離し、アイラを真っ直ぐに覗き込んだ。
「もう無理だよ。後戻りはできない。ただの友達には、戻れない」
アイラは珍しく、それには何も言わず、廉と同じように、廉を真っ直ぐ見返していた。
「俺は、友達と、女と意識している衝動を一緒にできるほど、器用じゃない」
「澄ました顔で何でもやってるじゃない」
「できることと、できないことがある。一緒にはできないから、もう、後戻りはできない。それとも――そうやって、見本を見せないと判らない?」
「見せてるじゃない」
「それは仕方がない。アイラが相手だから」
アイラはまだ考えていたのか、迷っていたのか――
「知り合いだし、手の内もバレてるし、コーヒーを勧めてお話ししましょう――なんて今更だから、それは素っ飛ばすわね」
「それはいいね。賛成だ」
* * *
アイラの部屋に入るなり、もう戸惑いはなかったかのように、アイラが廉に向いていた。
バッグを後ろの椅子に放り投げて、サンダルを脱ぎながら、アイラがその腕を伸ばす。
そして、アイラの唇が廉の唇に届くや否や、廉もアイラを抱き締めていた。
抱き締めたままで、アイラの頭を上げさせ、その上を向いた口元に、廉が更に深く唇を押し付けて行った。
アイラは廉の頭を包み込むように廉を引き寄せ、思いのままに、自分の唇を押し付ける。
廉の唇の動きに刺激され、舌をからめながら、唇の合間から、アイラの艶かしい吐息が漏れて出していた。
「――……は、ぁ……――」
本気になってアイラを抱いてくる気なのだろう。
さっきから、アイラに呼吸させる暇さえも与えず、廉の唇がアイラの唇を塞ぎ、キスが襲い掛かってくるのだ。
キスだけでもその気になるのは十分だし、体がうずき始めるのにも十分だった。
手作りの壷や置物のマーケットがあると言うので、それを見に行きがてらランチを済ませ、街をぶらぶらして、その日は夕方に終わっていた。
特別、何かが変わったのでもなく、進展したのでもなかったが、本人はまだ“デート”をするらしく、次のデートは、会社を終えての軽い夕食だった。
着飾ってちゃんとしたデートではなく、会社帰りに、夕食にレストランに立ち寄ったものなのである。
互いに見知っている時間が長いので、今更、男と女のデート――と一転するのも難しいものだったが、相手の廉もそこら辺は抜け目がなく、デートしている間に、必ず、友達の付き合いではないことを、きちんとアイラに思い出させていた。
年がら年中、暖かい土地柄ではあるが、5月が明けてくる頃には日差しが強く、夏の到来を告げていた。
今夜は映画のデートらしく、カジュアルに、廉もスーツは着ていなかった。
アイラは赤いサマードレスを着て、お揃いの、赤いリボンのついたサンダルを履いていた。
特別、華美なドレスでもなく、ここ一番の勝負に賭けるドレスでもなく、シンプルな綿のドレスだったが、膝上でスカートがフワフワと舞っていて、四角い襟口のその上に、三角に肩にかかるものだった。
だが、ヒールがあるサンダルを履いているアイラは、廉と並んでも、その背丈が負けないものである。
体の線が優しく出ているドレスの下で、足がスラリと伸びていて、それで、シンプルなドレスを着ようが、どこにいても、必ず目立つ、目が引く様相だった。
「結局、髪の毛を切らなかった?」
廉がアイラの長い髪の毛先を、つん、と引っ張るようにした。
「切ったわよ。毛先だけ揃えたの。バッツリ切って、って言ったのに、今回は勿体無いから、毛先だけ揃えてアレンジしましょう――ってね」
その言葉の通り、下のほうは柔らかいパーマがかかっているようだった。
「その髪型は色気を振りまいているよね」
ジロッと、アイラが冷たく廉を睨め付ける。
「そう見えるんだから、仕方がない」
廉はアイラの冷たい視線の先で、握っている髪の毛を口元に近づけていって、そっと、その髪の毛にキスをした。
アイラはその廉を無視して、ドアの鍵を開けて行く。
「おやすみ」
「そうだね。でも、定番を外したくはないから」
ドアを開けて中に入っていくアイラを止めて、廉がそのままアイラにキスをする。
すぐに、廉の両手がアイラの顔を包み込んで行き、少し押し返したアイラを無視して、廉がキスを強めていった。
こうやって、何度も、何度も、アイラがただの友達ではないことを証明してみせるので、ここ何回かのデートでも、アイラの意思が揺らぎ始めていた。
癖になるキスをする方が間違っている――とアイラは思うのだが、体の反応は止められるものでもない。
もちろん、アイラだけ反応しているのも負けたような気分で腹立たしいので、廉の隙を突いて、アイラも廉に仕返しすることは忘れない。大体、アイラの性格で、やられっぱなし、相手のペースに乗せられっぱなし――であるというのが間違っている。
「また、それをやる」
と、廉は嫌そうにアイラを見ていたが、先に誘ってくる方が悪いのである。
それで、アイラがちょっと仕返しをしようが、アイラの知ったことではなかった。
「――部屋には、誘ってくれないの?」
「それは、考慮中」
「どうして?」
「このまま進んだら――本当に後戻りはできなくなるわね」
それで、廉は少しだけ唇を離し、アイラを真っ直ぐに覗き込んだ。
「もう無理だよ。後戻りはできない。ただの友達には、戻れない」
アイラは珍しく、それには何も言わず、廉と同じように、廉を真っ直ぐ見返していた。
「俺は、友達と、女と意識している衝動を一緒にできるほど、器用じゃない」
「澄ました顔で何でもやってるじゃない」
「できることと、できないことがある。一緒にはできないから、もう、後戻りはできない。それとも――そうやって、見本を見せないと判らない?」
「見せてるじゃない」
「それは仕方がない。アイラが相手だから」
アイラはまだ考えていたのか、迷っていたのか――
「知り合いだし、手の内もバレてるし、コーヒーを勧めてお話ししましょう――なんて今更だから、それは素っ飛ばすわね」
「それはいいね。賛成だ」
* * *
アイラの部屋に入るなり、もう戸惑いはなかったかのように、アイラが廉に向いていた。
バッグを後ろの椅子に放り投げて、サンダルを脱ぎながら、アイラがその腕を伸ばす。
そして、アイラの唇が廉の唇に届くや否や、廉もアイラを抱き締めていた。
抱き締めたままで、アイラの頭を上げさせ、その上を向いた口元に、廉が更に深く唇を押し付けて行った。
アイラは廉の頭を包み込むように廉を引き寄せ、思いのままに、自分の唇を押し付ける。
廉の唇の動きに刺激され、舌をからめながら、唇の合間から、アイラの艶かしい吐息が漏れて出していた。
「――……は、ぁ……――」
本気になってアイラを抱いてくる気なのだろう。
さっきから、アイラに呼吸させる暇さえも与えず、廉の唇がアイラの唇を塞ぎ、キスが襲い掛かってくるのだ。
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