同期×ライバル=恋?

古井重箱

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本編その15

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 その後、時間があっという間に過ぎていった。
 もう4月の第二週の金曜日だ。
 俺は市場分析の資料をまとめていた。竜岡は隣の席で企画書を作成している。安価だけれども機能性が高いエントリーモデルというのが俺たちの企画のコンセプトである。
 
「進捗はどうだ?」
「16時には完成しそう。虎ノ瀬さんは?」
「俺もあとは誤字脱字をチェックするだけだ」

 順調にいくかと思ったその時、メールが届いた。沢木企画課長からだった。

『トライヴァースの新作に関する情報共有です。5月上旬に安価ながらも機能性を備えたエントリーモデルを発売するそうです』

 俺はメールの末尾に添えられたリンクをクリックした。トライヴァースのプレスリリースが表示される。
 低めの価格帯、機能性という付加価値。若者をターゲットにしたエントリーモデル。すべての要素が俺と竜岡の企画と被っている。
 竜岡が言った。

「先を越されてしまったなぁ」
「そうだな。どうする? このまま企画を進めるか?」
「僕らのプランが商品化できたとしても、最短で半年はかかるよね。その頃にはトライヴァースが一定のシェアを獲得してるんじゃないかな」
「別の案を出そう」

 俺と竜岡は打ち合わせテーブルに座った。
 ブレストを行っていると、体格のいい男性が企画課のオフィスに現れた。
 沢木企画課長がにこやかに男性を出迎える。

「鳥谷開発課長。お疲れ様です」
「疲れているのは、おたくたちのせいだ。トライヴァースのプレスリリースを見たか? なぜあの程度の企画が考えられない?」
「エントリーモデルの案は昨年度にも出たけれども、コスト面で難しいという判断になったじゃないですか」

 鳥谷開発課長は「ふん」と鼻を鳴らした。

「研究所のレポートを読んでいないのか? 最近、新素材が開発されたらしい。製品に用いた場合、製造コストがだいぶ下がるそうじゃないか。やはりプロダクトアウトで商品を考えるべきだ」
「ですが、それでは従来のやり方と同じになってしまいます。経営戦略室が打ち出している、新規ビジョンをご存知でしょう?」
「マーケットインか。そんなのは幻想だよ。商品開発は結局、実際にモノを作れるかどうかにかかっている」

 大きな体が俺と竜岡がいる打ち合わせテーブルに近づいてくる。鳥谷開発課長が言った。

「きみたちは新人か?」
「今年の四月から企画課に配属になりました」
「そうか。アイディア千本ノックだなんて非効率的なことをする必要はない。研究所の話をよく聞いて、私たち開発課との根回しを大事にすれば商品を世に送り出すことができる」
「……お言葉ですが、それでは企画課という部署の存在意義がないのではありませんか?」

 俺は鳥谷開発課長を見上げた。

「私たちは市場分析を通して知ったお客様の声をもとに、ゼロベースで新商品を考えたいと思っております」
「そうです。あくまでマーケットインを貫きます」
「きみたち、名前は」
「虎ノ瀬と申します」
「僕は竜岡です」
「私の意見に反論するとは、ふたりともなかなか度胸があるな」

 鳥谷開発課長はニヤリと笑った。俺も微笑んだ。

「怖いもの知らずなのは若輩者の特権かと存じます」
「面白い。きみたちがどんな企画書を出してくるか楽しみにしてるよ。企画が採用になる保証はどこにもないがな」

 豪快な笑い声を上げると、鳥谷開発課長は去っていった。
 沢木企画課長がため息をついた。

「売られたケンカ、買っちゃったわね」
「大丈夫ですよ! 社内から反発が出るぐらいのインパクトがある商品の方がヒットするって言いますし」
「私も竜岡さんと同様、負ける気はありません」
「分かったわ、タイガー&ドラゴン。ミヨシギアに革命を起こしてちょうだい」

 俺と竜岡は声を合わせて言った。

「承知しました!」
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