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本編その20
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休日のオフィスは閑散としていて、いつもとは違う雰囲気だった。
竜岡はデスクに座ると苦笑した。
「僕、休日出勤なんて一度もしたことなかったのに」
竹谷さんたちから寄せられた意見を早いうちにまとめたくて、俺たちは出社することにした。
竜岡が企画書のテンプレートを開いた。
「虎ノ瀬さん、名前は何にする?」
「そうだな、ダンスに関連して、ステップという言葉をつけたい」
「羽のように軽いから、ウィング・ステップ……ダメだな。それだとVバードを連想しちゃう」
「シンプルで覚えやすくて、耳なじみのいい言葉……」
俺は思いついた意見を言った。
「『ステップ・アロー』は? 観客のハートを射抜くステップができるシューズという意味だ」
「おお、いいねぇ。強そうな語感で、インパクトがある」
検索エンジンでサーチしてみたところ、類似する品名はないようだ。
「それじゃ、『ステップ・アロー』ということで!」
「竜岡さん。ありがとう」
「どうしたの、いきなり」
「休日出勤に付き合わせてしまった。でも俺、竜岡さんと仕事をしてるのが楽しいんだ」
「僕もやで」
竜岡が微笑む。
かつて、こいつは俺のライバルだった。倒すべき敵だった。でも、今は違う。誰よりも俺のことを分かってくれる、大事な相棒だ。
「さーて! パパッとまとめて、美味しいもの食べに行こう」
「そうだな」
俺たちはパソコンに向かった。
「まあ、こんなもんか」
16時になった。
資料がまとまったので、俺は顔を上げた。竜岡もひと段落ついたようである。
「なあ、虎ノ瀬さん。デパートに寄っていかない?」
「いいけど、なんで」
「社内コンペの日、お揃いのネクタイをしていこう」
「そういえば、クラスのTシャツとか、高校生の時に作ったなぁ」
「気合い入りそうじゃない? どう?」
ちょうど新しいネクタイが欲しいと思っていたところなので、俺は話に乗った。
「いらっしゃいませ」
デパートの紳士服売り場にて、俺と竜岡はネクタイを選んだ。
「ピンクにしよ!」
「悪目立ちしすぎだろう」
「じゃあこれは?」
竜岡が指差したのは、矢絣模様のネクタイだった。青と緑の二種類がある。
「虎ノ瀬さんは青が似合うな。僕は緑にしようっと」
「矢絣模様って、不幸を取り除いて、幸運を射抜くっていう意味があるらしいな」
「さすが、博識やね。縁起のいいネクタイつけて、コンペに勝とう」
レジに向かおうとした時、竜岡が言った。
「虎ノ瀬さんのネクタイは僕が買う。それで、僕のネクタイは虎ノ瀬さんが買って」
「贈り合う形にしたいのか」
「うん。ダメかな」
なんでわざわざそんな真似をしたいのか竜岡の胸中を図りかねたが、値段は青も緑も同じである。俺は素直に応じることにした。
ラッピングと会計が終わった。
竜岡が俺にネクタイを渡してきた。
「はい。僕の気持ちや」
「ありがとう。俺からも、どうぞ」
「虎ノ瀬さん、ネクタイを贈る意味って聞いたことがない?」
「いや。何か説があるのか?」
「……あなたに首ったけ。そういう意味やで」
俺は竜岡に笑顔を向けた。
「ふたりとも女っ気がないからな。そういう遊びで心を慰めたくなる気持ち、分からなくもないよ」
「僕は……本気や」
「え?」
「なんでもない。帰ろう」
地下鉄に乗り込んだあと、竜岡は終始無言だった。
竜岡は俺と話している時、たまに傷ついたような顔をする。俺は何か不快な思いをさせているのだろうか。
答えが見つからないまま、あざみ野駅に着いた。
竜岡はデスクに座ると苦笑した。
「僕、休日出勤なんて一度もしたことなかったのに」
竹谷さんたちから寄せられた意見を早いうちにまとめたくて、俺たちは出社することにした。
竜岡が企画書のテンプレートを開いた。
「虎ノ瀬さん、名前は何にする?」
「そうだな、ダンスに関連して、ステップという言葉をつけたい」
「羽のように軽いから、ウィング・ステップ……ダメだな。それだとVバードを連想しちゃう」
「シンプルで覚えやすくて、耳なじみのいい言葉……」
俺は思いついた意見を言った。
「『ステップ・アロー』は? 観客のハートを射抜くステップができるシューズという意味だ」
「おお、いいねぇ。強そうな語感で、インパクトがある」
検索エンジンでサーチしてみたところ、類似する品名はないようだ。
「それじゃ、『ステップ・アロー』ということで!」
「竜岡さん。ありがとう」
「どうしたの、いきなり」
「休日出勤に付き合わせてしまった。でも俺、竜岡さんと仕事をしてるのが楽しいんだ」
「僕もやで」
竜岡が微笑む。
かつて、こいつは俺のライバルだった。倒すべき敵だった。でも、今は違う。誰よりも俺のことを分かってくれる、大事な相棒だ。
「さーて! パパッとまとめて、美味しいもの食べに行こう」
「そうだな」
俺たちはパソコンに向かった。
「まあ、こんなもんか」
16時になった。
資料がまとまったので、俺は顔を上げた。竜岡もひと段落ついたようである。
「なあ、虎ノ瀬さん。デパートに寄っていかない?」
「いいけど、なんで」
「社内コンペの日、お揃いのネクタイをしていこう」
「そういえば、クラスのTシャツとか、高校生の時に作ったなぁ」
「気合い入りそうじゃない? どう?」
ちょうど新しいネクタイが欲しいと思っていたところなので、俺は話に乗った。
「いらっしゃいませ」
デパートの紳士服売り場にて、俺と竜岡はネクタイを選んだ。
「ピンクにしよ!」
「悪目立ちしすぎだろう」
「じゃあこれは?」
竜岡が指差したのは、矢絣模様のネクタイだった。青と緑の二種類がある。
「虎ノ瀬さんは青が似合うな。僕は緑にしようっと」
「矢絣模様って、不幸を取り除いて、幸運を射抜くっていう意味があるらしいな」
「さすが、博識やね。縁起のいいネクタイつけて、コンペに勝とう」
レジに向かおうとした時、竜岡が言った。
「虎ノ瀬さんのネクタイは僕が買う。それで、僕のネクタイは虎ノ瀬さんが買って」
「贈り合う形にしたいのか」
「うん。ダメかな」
なんでわざわざそんな真似をしたいのか竜岡の胸中を図りかねたが、値段は青も緑も同じである。俺は素直に応じることにした。
ラッピングと会計が終わった。
竜岡が俺にネクタイを渡してきた。
「はい。僕の気持ちや」
「ありがとう。俺からも、どうぞ」
「虎ノ瀬さん、ネクタイを贈る意味って聞いたことがない?」
「いや。何か説があるのか?」
「……あなたに首ったけ。そういう意味やで」
俺は竜岡に笑顔を向けた。
「ふたりとも女っ気がないからな。そういう遊びで心を慰めたくなる気持ち、分からなくもないよ」
「僕は……本気や」
「え?」
「なんでもない。帰ろう」
地下鉄に乗り込んだあと、竜岡は終始無言だった。
竜岡は俺と話している時、たまに傷ついたような顔をする。俺は何か不快な思いをさせているのだろうか。
答えが見つからないまま、あざみ野駅に着いた。
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