【完結】イケメン転校生の今夜のおかずは、俺なんですか!?

古井重箱

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04. カルぺ・ディエム

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 昼休み、弁当を食べ終えた俺と高瀬は、進路指導室に向かった。
 扉を開けると水岡先生が待ち構えていた。長机の上にプリントの山が積まれている。

「今度、卒業生による講話があるだろ? その資料なんだ」
「分かりました。じゃ、早速」

 俺は一種類ずつプリントを取ると、長机の上でトントンと形を整えた。高瀬がすかさずプリントの束を受け取って、ホチキスで留める。俺たちは黙々と作業に没頭した。
 終わりが見えてきたところで、高瀬が口を開いた。

「諒って困ってる人を放っておけないんだね。優しいんだなあ」
「お節介なだけだ」
「長男でしょ」
「いや、兄がいる」
「そうなの? 意外だな」

 高瀬にも兄貴がいるらしい。

「司法修習生なのか? すごいな」
「昔から曲がったことが大嫌いだったからね、俺の兄ちゃん。法律家に向いてると思う。ねえねえ、諒は小さい時、どんな感じだったの?」
「今と変わらない。周りから浮いてた。人間はどうして最後は死んじゃうんだろう。それなのに、なんで医者にかかるんだろうって考えてた」
「メメント・モリってやつ? 諒は哲学に興味があるんだ」
「まあな」

 そっちはどうなんだと水を向けると、高瀬はおどけてみせた。

「俺は断然カルぺ・ディエム派。その日の花を摘めっていう意味らしいんだけど、楽しいことが大好きな俺にはぴったりの言葉だよ」
「プリント作り、付き合わせて悪かったな」
「謝らないで。俺、諒と話せてよかった」

 作業が完了した。
 水岡先生を呼びに行こうとしたところ、タイミングよく先生の方からやって来てくれた。
 
「ありがとう。これ、ほんのお礼」

 グミキャンディの小袋を渡された。俺はグレープ味で、高瀬はソーダ味だった。感謝を伝えるために頭を下げると、水岡先生の眉がハの字になった。

「もっといいものを用意できたらよかったんだけど。あいにく安月給でね、ごめんね」
「そんな。充分、嬉しいですよ! 諒、あとで一緒に食べよう」
「うん」

 無邪気に喜ぶ高瀬の姿は微笑ましかった。こいつ、イケメンなのにまるで気取ったところがないな。
 俺は高瀬十悟という男を好ましく思った。
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