勇者ファリンと絶望の巣穴~オークの繁殖奴隷にされた村娘の末路~

たまやん

文字の大きさ
3 / 34
森の娘、夢の第一歩

村の外へ、夢の第一歩

しおりを挟む
クロウウッド村の夜は静かで、暖炉の火がパチパチと鳴る音だけが響いていた。
ファリンは床に座り、父親の形見のショートソードを膝に置いて磨いている。
古びた刃には小さな傷が刻まれ、彼女の手が触れるたび、父の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「ファリン、お前ならどんな敵だって倒せるよ」と語ったあの声が、今も耳に残る。
彼女は剣を手に立ち上がり、暖炉の明かりに照らされた影を見ながら呟く。
「父ちゃん、あたし、勇者になるよ。約束だよ。」
緑がかった瞳が炎に映り、決意が宿る。そこへ、母親が鍋を手に台所から顔を出す。
「ファリン、もう寝なさい。明日も早いんでしょ?」と優しく言うが、ファリンは首を振る。
「ううん、お母さん、聞いて! あたし、冒険者になるって決めたんだ!」
声に熱がこもり、母親の手が止まる。
きっかけは数日前だった。村に立ち寄った旅の吟遊詩人が、広場で歌いながら語った物語。
「外の世界ではモンスターが猛威を振るい、村や街が次々と襲われている。勇者を求める声が上がってるんだよ」と、弦を弾きながら歌った物語に目を輝かせた。その言葉がファリンの胸に突き刺さり、眠っていた夢に火をつけた。
「あたしがその勇者になるんだ!」と心が叫び、以来、彼女の頭はその思いでいっぱいだった。
母親は鍋を置き、眉を寄せて娘を見つめる。
「冒険者? ファリン、そんな危ないこと…お前、村を出る気なの?」と声が震える。
ファリンは目をキラキラさせ、
「うん! シルバーホールドって街に冒険者ギルドがあるんだって。そこに行って登録するよ! モンスターを倒して、いつかはみんなを守る勇者になるんだ!」と胸を張る。
母親は目を伏せ、「お父さんが死んだのに…お前までそんな目に遭ったら…」と呟く。だがファリンは笑い、
「お母さん、心配しないで! あたし、村じゃ一番強いんだから! 父ちゃんの剣もあるし、絶対大丈夫だよ!」と手を握る。母親の心配は届かず、彼女の無知な自信が勝る。
翌朝、ファリンは準備を始めた。小さな革鞄に干し肉と水筒、予備の布を詰め込む。革鎧を着直し、スカートを整え、剣を腰に吊るす。
「よし、完璧!」と笑う。母親が台所で小さな包みを手に立ち尽くし「ファリン、本当に決めたの?」と聞く。
ファリンは頷き「うん! あたし、行くよ。勇者になるためだもん!」と答える。
母親は涙をこらえ、包みを渡す。
「せめて…これ持って行きなさい。干しパンと果物よ。無茶しないでね」と言う。
ファリンは「ありがとう、お母さん!」と抱きつき、笑顔で受け取る。
村の入り口に立つと、高齢者たちが集まってきた。
おばあちゃんが「ファリンちゃん、どこ行くの?」と聞き、トム爺が「まさか出てくんじゃねえだろうな?」と目を丸くする。ファリンは鞄を肩に担ぎ、大きな声で宣言する。
「あたし、勇者になるため冒険者になるよ! みんな、見ててね! すごい勇者になって戻ってくるから!」
その声に、村人たちは驚きと笑顔を浮かべる。おばあちゃんが「お前ならできるよ」と手を振ると、トム爺が「おい、外じゃ死ぬなよ。気をつけろ」と心配そうに言う。母親は後ろで涙を拭い、ファリンは「じゃあ、行ってくるね!」と手を振る。赤髪が朝陽に揺れ、彼女は森の道へ一歩踏み出す。
村を背に歩き始めると、心臓がドキドキした。
「これが冒険の第一歩だ! シルバーホールドまで頑張るよ!」と独り言。
足元の土が柔らかく、鳥のさえずりが遠くに聞こえる。母親の涙も村の静けさも背に置き、ファリンは情熱だけを頼りに進む。道の先に広がる未知の世界に、彼女の夢が膨らむ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...