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第五章 天の川を一緒に歩こ!
弟君と②
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小野伸二。
この国で、ちょっとサッカーをかじっていれば、この名前を知らない者はいない。
ブラジル人顔負けのスーパーテクニックを持ちながら、少しも鼻にかけたところがなく、謙虚な性格で、受け手に取り易い、優しいパスを出すことで知られる。
日本代表として、三回もW杯に出場しているが、小野が出場し、日本で行われた日韓大会では、僕も、隼君も、まだ生まれてもいない。
従って、全盛期の小野のプレーは、二人とも、記録映像でしか、見たことはない。
それでも、小野伸二はインパクトのある選手である。
「今日、中原さんのプレー見て、姉ちゃんの言うこと、本当だと思いました。
すごく緩い、取りやすいパスなのに、相手チームからは絶対に届かない位置に出しますよね?
それも、バックスピンかけて、バウンドしてから、味方の足元にピタリ戻っていって。
裏に出したゴロのパスが減速して止まったり、俺、感動しました。」
小野もまた、母子家庭の貧しい生まれなのだという。
やはり、生い立ちがピッチでの姿にも出るのだろう。
敵味方の選手達が乱闘になりかけた時、小野はどちらの選手も笑顔で宥め、乱闘を鎮めた映像を観たことがある。
興奮している敵チームの選手の頭を、笑いながら撫でている彼の顔は、ハッとするほど男らしかったのを覚えている。
あれは、やたらエリート意識の強いプロ野球選手では、まず、見られないのではないだろうか?
こんな素晴らしい漢に、よりにもよって佑夏に似ていると言われ、嬉しくないはずはない。
だが、ここで、どうしても、彼女の実家でのお姉さんぶりが氣になってしまう。
「佑夏さん、家では、どんなお姉さんなの?」
僕の唐突な問いに、怪訝な顔も見せない隼君。
「姉ちゃんですか?俺が物心ついた時から、いつ見ても勉強してました。
家でテレビ観たり、ゲームしてるとこ、見たことないです。」
「そんなに、勉強ばっかりしてたの?」
「はい。言葉では言い表せないくらい、凄かったです。
勉強してる姉ちゃんは、なんていうか、......、その、氣迫が怖いくらいで、」
隼君はドギマギしている。
「氣迫?」
「そうなんです。俺、もう、声もかけられないくらいでした。」
隼君は、少し、震えているようだ。
そんなに、凄かったのか?
「お姉さん、もう、その頃から、先生になりたいと思ってたの?」
「多分、そうだと思います。
小学生の内から、先生になることしか考えてませんでしたから。」
一体、何が佑夏をそこまでさせるんだ?
「あの、髪の白い貝殻、俺が生まれたあたりから、ずっとしてるみたいで。
時々、勉強しながらアレを握りしめて、涙流してるの、見たことあります。」
「涙?どうして?」
僕は身を乗り出してしまう。
「さあ?なんか、怖くて。俺、姉ちゃんに聞いたことないんです。」
これは、僕も簡単には聞けないな........。
この国で、ちょっとサッカーをかじっていれば、この名前を知らない者はいない。
ブラジル人顔負けのスーパーテクニックを持ちながら、少しも鼻にかけたところがなく、謙虚な性格で、受け手に取り易い、優しいパスを出すことで知られる。
日本代表として、三回もW杯に出場しているが、小野が出場し、日本で行われた日韓大会では、僕も、隼君も、まだ生まれてもいない。
従って、全盛期の小野のプレーは、二人とも、記録映像でしか、見たことはない。
それでも、小野伸二はインパクトのある選手である。
「今日、中原さんのプレー見て、姉ちゃんの言うこと、本当だと思いました。
すごく緩い、取りやすいパスなのに、相手チームからは絶対に届かない位置に出しますよね?
それも、バックスピンかけて、バウンドしてから、味方の足元にピタリ戻っていって。
裏に出したゴロのパスが減速して止まったり、俺、感動しました。」
小野もまた、母子家庭の貧しい生まれなのだという。
やはり、生い立ちがピッチでの姿にも出るのだろう。
敵味方の選手達が乱闘になりかけた時、小野はどちらの選手も笑顔で宥め、乱闘を鎮めた映像を観たことがある。
興奮している敵チームの選手の頭を、笑いながら撫でている彼の顔は、ハッとするほど男らしかったのを覚えている。
あれは、やたらエリート意識の強いプロ野球選手では、まず、見られないのではないだろうか?
こんな素晴らしい漢に、よりにもよって佑夏に似ていると言われ、嬉しくないはずはない。
だが、ここで、どうしても、彼女の実家でのお姉さんぶりが氣になってしまう。
「佑夏さん、家では、どんなお姉さんなの?」
僕の唐突な問いに、怪訝な顔も見せない隼君。
「姉ちゃんですか?俺が物心ついた時から、いつ見ても勉強してました。
家でテレビ観たり、ゲームしてるとこ、見たことないです。」
「そんなに、勉強ばっかりしてたの?」
「はい。言葉では言い表せないくらい、凄かったです。
勉強してる姉ちゃんは、なんていうか、......、その、氣迫が怖いくらいで、」
隼君はドギマギしている。
「氣迫?」
「そうなんです。俺、もう、声もかけられないくらいでした。」
隼君は、少し、震えているようだ。
そんなに、凄かったのか?
「お姉さん、もう、その頃から、先生になりたいと思ってたの?」
「多分、そうだと思います。
小学生の内から、先生になることしか考えてませんでしたから。」
一体、何が佑夏をそこまでさせるんだ?
「あの、髪の白い貝殻、俺が生まれたあたりから、ずっとしてるみたいで。
時々、勉強しながらアレを握りしめて、涙流してるの、見たことあります。」
「涙?どうして?」
僕は身を乗り出してしまう。
「さあ?なんか、怖くて。俺、姉ちゃんに聞いたことないんです。」
これは、僕も簡単には聞けないな........。
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