ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第五章 天の川を一緒に歩こ!

幸せの温泉

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 夕方となり、ヒグラシが鳴き始めている。

 現在、18時。
 今は一年で最も日の長い時期で、東北地方とはいえ、まだまだ明るい。

 今夜、天の川が、その姿を現すのは20時頃の予定だ。

 既に、佑夏達が作ってくれた地元の特産品「冷やしそうめん」を食べた後。
 いかに美味しく、爽やかな味だったか、今さら説明するまでもないかと思う。

 この麺は、江戸時代初期から400年に渡って、この地で作られて来て、普通のそうめんよりずっと短く、油を使わない製法により、子供の身体にもいい、優しい味が特徴である。

 ただでさえ、料理上手な佑夏との相性は抜群であり、彼女は子供の頃から、この食材を知りつくしているのだ。

 従って、極上料理スキル+食材への熟練、が組み合わされたこの夕食は、食べ終わると何か清々しい氣分になり、幸せに満ち足りたような心持ちにさえさせてくれる。

 一緒に添えられた、翠の実家で録れた野菜を使った漬物が、またスーパーのものとは比較にならないくらい美味いことに、子供達は喜び、ボリボリ音をたてて、貪る姿が微笑ましい。

「みんな~!暗くなったら、川にホタルが出て来るよ~!帰ったら、観よーね!」

 午前中に歩いた沢を指差しながら、子供達に、佑夏が呼びかける。

 翠も、付け加えたくなったようで、

「帰りは、遅くなるから、ホタル観るのは、少しだけだよ~!」

 子供が、こんな指示に簡単に従うなら、苦労はないが。

 まだ時間はある。
 運動で汗を流した後でもあり、先に公衆浴場の温泉に入りに行くのである。

 そして、次は、いよいよ山の高原に、天の川を観に行くのが、今回のメインだ。
 天気が悪ければ中止だったが、晴れて良かった。

 すぐに、佑夏のお父さんが運転するバスが再び現れ、全員で嬉々として乗り込む。
 温泉までは、10分の距離である。

 まだお盆の観光ハイシーズン前、温泉はあまり混んではいなかった。
 女湯から聞こえてくる、女子達と、その引率をする佑夏の声が、どうしても氣になってしまう。

 なにしろ、佑夏と一つ同じ屋根の下で、お風呂に入っているのである。
 ドキドキ感が止まらない。

 湯船の中でも、子供達と、彼女は何かゲームをしているようだ。
 実に楽しそうな声、地元の女性が若葉寮の生徒達に「お嬢ちゃん達、どこから来たの?」と話しかけている声も聞こえる。

 そんな、華やかな女子の盛り上がりに比べ、我々、男性陣は負けていると言わざる得ない。

 それでも、隼君は、若葉寮の同年代の生徒とすっかり打ち解けて、楽しそうに談笑している。

 また、施設の子供達は当然だが、親がいない。

 それで、父性を感じるのか、小さい子は、佑夏の父親に群がっていく。
 温泉初体験の子供だっているだろう。

 佑夏のお父さん、一人一人に温泉の入り方など、丁寧に教えてあげている。 
 やはり、佑夏と親子というのは頷ける。

 湯船に背の立たなそうな子も、中にはいる。
 彼らが溺れてしまったりする事故が無いように、僕も氣をつけなくては。

 さあ、そして。
 天の川が待つ、山の頂きに出かけよう。
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