ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第六章 幸福は義務

好き嫌い

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 そして、やはり、アランの幸福論の話になる。

「アランがね、幸福は義務、幸福な人以外は、他の人から愛されない、って言ってるんだけど。」

 佑夏が切り出す。

「うん、なんか、やる氣になる言葉だよね。」

「私、思うのよ。
 それは、絶対にお金持ちじゃなきゃいけない、とか、大きくて立派な家に住むのが義務ですよ、とか、ブランド品の高い服やバックを身に着けなさい、とか、そういうことを言ってるんじゃないって。」

「俺もそう思うよ。」

 そんな本だったら、佑夏は読まないだろう。

 膝元の楓が、落ち着いたのか、ゴロゴロと喉を鳴らしている。

「私ね、好き嫌いはあっていいと思うの。
 ”好き”はもちろんだし、”嫌い”も、こんなのは嫌だな、って感じることで、”じゃあ、何が正しいの?”、”自分だったらどうしよう?”っていう、前向きなエネルギーを生むこともあるわ。」

「ああ、そうだね。」

 いつもながら、この子のポジティブな思考には、僕は感心させられてしまう。

(ジンスケ、本当に分かってんのか?テキトーに返事してんじゃねえよ。)

(うるさい!黙れ!)

 また、変なデブ猫が余計な茶々を入れてくる。

 それでも、癒しのお姫様の声

「自分にとって、良くない出来事が起きたり、好きになれない人との出会いは必ずあるよね?
 でも、そういう時に、アランは”情念”っていうんだけど、恨み、怒り、嘆き、憎しみ、妬み、悲しみ、悔い、嫉み、蔑み、そういう負の感情を思考に載せちゃいけないのよ。

 アハッ、なんだか、恥ずかしいな。
 中原くんと二人きりじゃなきゃ、こんなこと言えないよ♪」

「い、いや、そんなことないよ。ありがとう。」

 頬を赤らめる佑夏にドキっとする。

 実際には、二人きりじゃなく、妖怪モドキのギャラリーがもう一匹、いるのだが。

(オレを邪魔だ?そいつはねえぜ、ジンスケ。)

(ぽん太!ちょっと黙ってろ!)

(へえへえ、分かりやしたよ。)

 どこまでもカワイクない猫又。

 しかし、時は秋、僕はススキが好きである。
 派手さがなく、日本的なところが、武術家として好みなのだ。
 庭に植えたススキが黄金色の穂を出し、まるで僕達を讃えるように、サラサラと揺れているのが見える。

 さて、あんな化け物は放っておいて、美しいお姫様とお話しよう。

「俺も、そう思うよ。
 武術で、無心であることは大事な極意だからね。たとえ敵にだって、憎しみや恨み、怒りを向けちゃいけないんじゃないかな。
 昔、天下を取った人達、豊臣秀吉や、徳川家康、三國志の曹操なんかも、きっと敵を憎んだりしてなかったよ。
 怒って、自分を見失った時点で負け、っていうのは、武術の世界じゃ、よく言われることなんだ。」

「やっぱり、そーよね!?
 人を憎んだり、余計なこと考えてると、みんなそっちにエネルギー取られちゃうわ。
 言うべきことが言えなくなったり、やるべきことができなくなったりするのは、だからなのよね。
 最後には、対立してる人の思う壷、言いなりになってしまうのよ。」

 僕と佑夏は、そう、お互い納得の言葉を交わす。

「愚痴言う奴に、成功したのはいないって、いうからね。」

 と、言いながら、僕は佑夏の膝の上の、ぽん太を見てみる。

 ところが、ススキでさえ、僕達を祝福しているというのに...........。

 この、丸々と太った化け猫は、寄り目をさらに細くして片目は閉じ、舌を大きく出してアカンベーをすると、さらに顔を上に向け、顎を僕に向かって突き出し、後ろ足を顔の前まで持ってきて、足先で鼻の下を掻いている。

 よく、ここまで主人を馬鹿にしたポーズができるものだ!
 この野郎!何が言いたいんだ?まだ思念で何か言われた方がマシだったりする。
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