ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第七章 嵐の夜に

幸せな葛藤

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「金こそ全て」とする、須藤の主張は、分からなくはない。
 というより、その通りだろう。

 しかし、やはり、彼は佑夏という女性の本質を知らず、少しテレビの観すぎではないか?と思えることを口にする。

「佑夏ちゃんと結婚することになったら、どうすんだ?
 あんな可愛い子が、田舎のボロ屋なんかで納得するかよ!一緒に住んでくれないって!」

 姫は田舎の古民家フェチである。

「新卒でも、駅前の新築のタワマンじゃなかったら、絶対、怒るに決まってるぞ!」

 佑夏は、極度の高所恐怖症で、それを恥ずかしがっている。
 それにもまして、彼女の怒った顔など、見たことが無い。

「30代で、ネオタウン(市内一の高級住宅街)に新築の一戸建て持てなかったら、出て行かれるぞ!
 少なくても、大卒初任給の平均以上は必ずクリアしなきゃならないだろ!」

 給料のことは、確かに無視できないが、姫はまるっきり正反対なことを夢見ている。

「あのね、中原くん、県教大ケンキョーの先輩でね、女の人なんだけど、現役で教員採用試験きょうさい受かって、どんぐり村の小さな分校に赴任した人がいるの。うん?小学校よ。」

 今も昔も、新卒の若い教師でコネ無しだと、僻地に配属されることが多い。
 どんぐり村は、県内で最も人口の少ない自治体だ。

「その人、一年目は教員住宅に住んでたんだけど、二年目から、地元の人の紹介で、明治時代に建てられた古民家に引っ越したのよ。
 キッチンと、お風呂と、お手洗いは、今風に改装してあったわ。
 お部屋の中、とっても素敵だった♡」

 今でも時々、この人の家に、佑夏は足を運んでいる。

「その先輩ね、どんぐり村がすっかり、氣に入っちゃったの。風景も、暮らしも、お祭りも、みんな大好きだって。
 出身は県庁所在地こっちなのにね。
 それで、分校が廃校になって、転勤の話が出たら、教師辞めて、どんぐり村に残ることにしたのよ。」

 どんぐり村は、古くから藍染めが盛んだ。
「藍染め祭り」に、この先輩と一緒に行った佑夏は、すごく楽しかった!と喜んでいた。
 僕は、ネットでしか見たことはないが、確かに、あれは美しい。

「先輩、今度、分校の生徒のお父さんと結婚するの。奥さんは何年も前に病気で亡くなってて。
 生徒さんは男の子よ。ずっとお父さんと男の人、二人だけで暮らして来たから、先生がお母さんになってくれることになって、生徒さんも、大喜びしてるわ。
 いいお話よね~、小説か映画みたい!」

 佑夏は、美しい容姿を鼻にかけてなんかいない。
 須藤の言うような、テレビに出てくる都会の女性とは違う。

 現に、彼女はこうも言っている。

「どんぐり村には、もう学校は無いけど、私も、山や島の小さな分校で教師生活、送れたら、どんなにいいか、って、いつも思うの。
 悲しいお話だけど“二十四の瞳“、とかやっぱり好きで。
 教師じゃないD◯コトーにまで憧れちゃうわ。」


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