ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第七章 嵐の夜に

ヤマネは天使

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 東山さんが回想する。

「お話を聞きまして、水野さんが、大変、私に熱心に会いたいと思われているご様子が伝わって来たんです。
 今まで、子供対象の自然観察会と、研究者のみの現地説明会は実施したことはあったのですが、一般の読者の方との、触れ合いも、一度くらい、いいかな?と。
 それで、しばらく考えてから、お引き受けすることにしたんです。」

「東山先生、本当にありがとうございます!」

 水野さんが手を合わせ、目を閉じて、お礼を言っている。

 カメラマン氏は恐縮し、

「いえいえ、私も、今日はとても楽しかったです。
 貴重な体験になりました。やって良かったと思いますよ。
 こちらこそ、ありがとうございます。」

 ここで、小林さんが、紅茶に一口、口をつけた後、

「しかし、水野さん。
 横浜より、箱根が好きなのであれば、どうして、箱根で暮らさないのですか?」

 うん、これは、僕も、そう思う。

「急患が間に合わないんです。
 交通事故なんかの命に関わる重傷患者は、箱根より横浜の方がずっと多くて。一人でも多くの患者さんをお救いするには、横浜市内の病院でないと。」

「そやさかい、横浜に住んでんですか。そら、大変ですなぁ。」

 水野さんの答えに、ルミ子さんは同情の表情を浮かべている。

「とても献身的に自分を犠牲にされて、都会で働き、神経をすり減らしている方だと、出版社からは、私の方に、話があったんです。」

 東山さん、だから会ってあげたくなったのか。

 ん~、佑夏と理夢ちゃんは、まだか?
 こんな時、姫がいれば、うまく場を盛り上げてくれるのに。


 水野さんの目には涙が滲み始め、再び、東山さんにお礼を言う。

「先生、本当に本当に、ありがとうございます。」

「いいえ、私は何もしていません。霧ヶ峰の自然とヤマネにお礼を言ってあげましょう。
 今日の霧ヶ峰はいかがでしたか?水野さん?」

 人格者は謙虚、を地で行く東山氏。何だか、暖かい人だ。

「は、はい。素晴らしかったです!
 自然と触れ合うのが、こんなにも癒されるなんて、しばらく忘れかけてました。」

 その水野さんも、少し、紅茶を飲んでから

「以前、ミラノの病院に見学に行ったことがあるんです。
 イタリアでは、ミラノみたいな大きな街でも、市街地は小さ目になってて、駅から車で少し走れば、山や海や湖みたいな、自然溢れる場所に行けます。」

 お喋りなルミ子さんが、出されたリンゴをポリポリ食べながら、話に聞き入っている。
 長野ほんば物は旨そうだ、僕もリンゴに手を伸ばす。
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