ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

文字の大きさ
179 / 305
第九章 ヤマネの夜

信州へ

しおりを挟む
東山わたしは19歳の時から、最初は季節労働で、霧ヶ峰で働き始め、移り住んだのは23歳の時です。

 写真の先生は、山小屋で働いている時に来られた、東京からのお客様です。」

 滋賀出身の東山先生、もう、関西なまりは全然、無いな。
 そりゃ、長野こっちに40年もいれば。

 ちなみに、この方は、最近になって、故郷・琵琶湖の写真集も出版している。

「その写真の先生は、山小屋の裏にある池に、毎年、カルガモの撮影に来られてたんです。

 初めは断れましたが、なんとか粘って、教えてもらえました。

 東山わたしは絵も下手くそですし、写真学校に入り直す余裕も無い、だから絶対に、この人に教わるしかない、と思ってましたね。」

「その方のおかげで、私達はヤマネの写真集が見られるんですね。」

 感謝いっぱいの水野さん。

「はい。今になって思えば、素晴らしい指導でした。
 半年に一回は、写真を見せに来るように言われまして、霧ヶ峰ここから東京まで、年に何回か通ったんですが。

 残念ながら、三年前に亡くなられてしまいました。
 写真には厳しくても、とても面白い方だったんですけどね。」

「今度は、先生本人、素晴らしい写真を世に伝えて、恩返ししとくれやっしゃ。」

 ちょっと、しんみりムードになってしまったところ、ルミ子さんが「関西のノリ」で勇氣付けてくれる。

 さらに、僕達に「頑張って下さい、頑張って下さい。」と口々に声をかけられ、東山さんは氣を良くして、こんな話もしてくれる。

「まだ、30歳になる前の夏、この山小屋で働いていた私に、少し変わった人が、訪ねて来たんです。

 いきなり、”君、滋賀の出身だって?私も関西だ。うちで働いてみないか?”と言われました。」

 ええ?いいのか?

「他の山小屋から、堂々と引き抜きですか?そんなの、許されるんですか?」

 僕が疑問を口にすると、宿の女将さんが笑う。

「いいんですよ。この辺りで山小屋やってる人達は、みんな仲間ですから。
 シーズンごとに、働く山小屋を変えている人は大勢います。」

 太っ腹だな。なんか、企業間の引き抜きとは、違うようだ。

「自由の国ですね~!」

 佑夏が感想を口にする、君だって教員採用試験に縛られることはないんじゃ?
 刻一刻と合格発表の時間は近づいている。

「ああ、そうですね、自由の国という言い方はピッタリです。
 東山わたしに会いに来た方は”族長”と呼ばれていて、日本人らしからぬ感性を持ってたんです。

 廃材を使って家を作り、羊、山羊、豚、牛、豚、馬を飼っていて、半自給自足の生活をしてましたね。

 族長は、特に馬が好きでした。
 映画やドラマの時代劇で、そこの馬が使われたこともありますよ。」

「キャー!仁助さん!馬だって!」

 ちょっと、佑夏ちゃん!


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。 鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。 名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。 親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。 性と欲の狭間で、歪み出す日常。 無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。 そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。 青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。   前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

処理中です...