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第十一章 波に乗った男
幸せの富士山
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ヤマネが空を飛ぶ!こりゃ、驚いた!
動物写真家、東山大悟氏を中心に、霧ヶ峰の夜は更けていく。
「それで、この山小屋のご主人なんですが、東山が若い頃、ここで働いていた頃は、富士山の頂上の観測隊をやっておられましてね。」
「それで、今度は南極ですか?えらい冒険心のある人ですなぁ。」
ルミ子さんが笑い、何やら観念したように、このご主人の妻である、宿の女将さんが、観測隊について話してくれる。
「富士山の頂上は、時折、地上とは比べ物にならない強風が吹くんです。
人間なんか数十メートル、簡単に吹っ飛ばされてしまいます。
隊員の交代の時に、今まで、たくさんの人が亡くなってるんですが、主人は止めても無駄でした。」
「風がある時の交代は、ほふく前進で行くんですよね?それも命がけです。
動けなくなって、そのまま、ということもありますからね。」
東山さんが付け加えると、佑夏はひどく驚いて
「風のある日は止めて、風の無い日に交代しちゃダメなんですか?」
女将さんは、手を左右に振り、
「規定で、交代予定日には、どんな悪天候でも、絶対に交代しなくてはならないんです。」
これを聞いた小林さんは、不満を隠さない。
「大変な、お役所体質ですね。隊員の安全を最優先にすべきです。」
「ホンマや、信じられへんわ~。」
やっぱり、優しい理夢ちゃんが、泣きそうな顔になってしまい、僕達も頷く。そりゃね~。
ふいに、水野さんが、
「あの、先生、霧ヶ峰から撮った、富士山の写真は、お持ちではないですか?」
「ありますよ。ご覧になりますか?」
東山さんは、スマホを取り出す。
そこに映し出される富士山の画像は、まさに絶景!
たまに、撮りに来るのではなく、やはり、定住している地元民でなくては撮れないような、見事な作品ばかりだ。
「これ、凄いですね~!」
僕はつい。声を上げてしまったが、特に素晴らしいのは、帽子のような大きな雲を被った富士山の画像だ。
「あ~!富士山が帽子、被ってる~!」
佑夏達が、同時に声を立てて、大騒ぎだ。
「それは、笠雲と言いましてね。出現する条件があって、なかなか撮れないんですよ。」
これ、ちょっと、実際に見てみたいな。
「ぜひ、また、今度は主人のいる内に来て下さい。来年、南極から帰って来ますから。
主人はお客様と、お話するのが、大好きなんです。」
「す、すいません。ご主人様に、ウチの保護猫カフェに講演に来ていただくことは、できませんか?」
「あ~!ありがとうございます。あの人、喜ぶと思います!」
山田さんの申し出に、快諾する女将さん。
繋がる人の縁。
僕も、来年、今度は南極帰りのご主人のいる時に、またここに戻って来たい。
南極の話と、笠雲を被った富士山は楽しみだ。
だが、多分、佑夏はもういない。僕一人で来ることになるだろう。
きっと、明日の合格発表の後、彼女は僕に告げる。
潮崎一馬の元に去る、と。
動物写真家、東山大悟氏を中心に、霧ヶ峰の夜は更けていく。
「それで、この山小屋のご主人なんですが、東山が若い頃、ここで働いていた頃は、富士山の頂上の観測隊をやっておられましてね。」
「それで、今度は南極ですか?えらい冒険心のある人ですなぁ。」
ルミ子さんが笑い、何やら観念したように、このご主人の妻である、宿の女将さんが、観測隊について話してくれる。
「富士山の頂上は、時折、地上とは比べ物にならない強風が吹くんです。
人間なんか数十メートル、簡単に吹っ飛ばされてしまいます。
隊員の交代の時に、今まで、たくさんの人が亡くなってるんですが、主人は止めても無駄でした。」
「風がある時の交代は、ほふく前進で行くんですよね?それも命がけです。
動けなくなって、そのまま、ということもありますからね。」
東山さんが付け加えると、佑夏はひどく驚いて
「風のある日は止めて、風の無い日に交代しちゃダメなんですか?」
女将さんは、手を左右に振り、
「規定で、交代予定日には、どんな悪天候でも、絶対に交代しなくてはならないんです。」
これを聞いた小林さんは、不満を隠さない。
「大変な、お役所体質ですね。隊員の安全を最優先にすべきです。」
「ホンマや、信じられへんわ~。」
やっぱり、優しい理夢ちゃんが、泣きそうな顔になってしまい、僕達も頷く。そりゃね~。
ふいに、水野さんが、
「あの、先生、霧ヶ峰から撮った、富士山の写真は、お持ちではないですか?」
「ありますよ。ご覧になりますか?」
東山さんは、スマホを取り出す。
そこに映し出される富士山の画像は、まさに絶景!
たまに、撮りに来るのではなく、やはり、定住している地元民でなくては撮れないような、見事な作品ばかりだ。
「これ、凄いですね~!」
僕はつい。声を上げてしまったが、特に素晴らしいのは、帽子のような大きな雲を被った富士山の画像だ。
「あ~!富士山が帽子、被ってる~!」
佑夏達が、同時に声を立てて、大騒ぎだ。
「それは、笠雲と言いましてね。出現する条件があって、なかなか撮れないんですよ。」
これ、ちょっと、実際に見てみたいな。
「ぜひ、また、今度は主人のいる内に来て下さい。来年、南極から帰って来ますから。
主人はお客様と、お話するのが、大好きなんです。」
「す、すいません。ご主人様に、ウチの保護猫カフェに講演に来ていただくことは、できませんか?」
「あ~!ありがとうございます。あの人、喜ぶと思います!」
山田さんの申し出に、快諾する女将さん。
繋がる人の縁。
僕も、来年、今度は南極帰りのご主人のいる時に、またここに戻って来たい。
南極の話と、笠雲を被った富士山は楽しみだ。
だが、多分、佑夏はもういない。僕一人で来ることになるだろう。
きっと、明日の合格発表の後、彼女は僕に告げる。
潮崎一馬の元に去る、と。
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