ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第十一章 波に乗った男

ハクナマタタ

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「一馬さんね、アフリカの楽器ができて、スワヒリ語の歌も歌えるの。
 ケニアむこうで、現地人の先生に習ってね。

 それで時々、日本やアメリカや、ヨーロッパの国をライブして回ってて、お金には困ってないのよ。
 一馬さんのオリジナルの曲、素敵よ~!」

「ええ~!?サーファーで、教師で音楽家なの?」

「それだけじゃないのよ。一馬さん、○大、現役合格してストレートで大学院まで卒業して、まだ三年目なのに、しょっちゅう、日本中の大学から講演で呼ばれてて、そっちの収入もあるから。
 ”帰国してウチの教授になって欲しい”っていう誘いも、多いみたい。」

「何だって~!?」

 な!な!な!何なんだよ!?このスーパーステータスのオンパレードは!?
 ○大!?日本最高学府じゃないか~!?

 そこを、父親もいないのに、現役合格して、大学院まで行っただと~!?
 この男、一体、何者なんだ!?
 
 おまけに、サーファーで音楽家!?
 しかも、20代の若さで教授のオファーって!?日本一の学歴に加え、スラムで暮らした貴重な経験があるからか!?

(こいつぁ~、オレの予知以上だ。終わったな!ジンスケ!)

(黙れ~!ぽん太~!)

「どうしたの?中原くん?顔が真っ青よ?あ!」

 手に持っていた紅茶のカップを、僕は、危うく落としかけてしまう。
 だが、氣を取り直し、

「い、いや。その潮崎さんって人、すごく魅力的な人だね。」

「そーなのよ!お話もとっても面白いの♪一馬さんとお喋りすると、あんまり楽しくって、時間いくらあっても足りないくらいだったわ。」

 ガ~ン!ガ~ン!ガ~ン!(精神的ショックが僕の頭を叩く音)

(ジンスケ。恋愛ホルモンだぜ。)

(ああ、分かってる。)

 ........、佑夏ちゃん.......。

「一馬さんと一緒に、ルオーで授業させてもらったんだけど、一馬さん、数学も理科も英語も、みんな完璧なのよ。
 私、ついていくのがやっとだった。
 
 教え方も上手くて、分かり易くて、飽きちゃう子は一人もいないの。
 みんな、目を輝かせて、授業に集中してたのよ。」

 この男、本人が頭脳優秀なだけでなく、スラムの子供達にも優しい。
 驕り高ぶらない人間性まで、兼ね備えている。

「一馬さんね、英語だけじゃなくて、スペイン語と、フランス語と、アラビア語もペラペラなの。
 アフリカの北部に行くと、使うから覚えたんだって、簡単だったって、笑ってたわ。
 当たり前だけど、スワヒリ語もできるのよ。」

 アラビア語?あんな難しい言語が簡単......?
 どういう頭脳してんだ!?

「.....ハクナマタタ......。」

「え?」

 ふいに、佑夏の口から出たスワヒリ語。
 意味など分からないのに、僕は分かった氣がする。

「スワヒリ語で、”大丈夫。心配ない”っていう意味。ケニアむこうの人達、これ、すごく良く使うの。
 何でだろ?今、中原くんの顔、見てたら、言いたくなっちゃった!
 そんな、ゾンビが除霊されてるみたいな顔しないでよ、どーして?アハハ!」

「お、俺、そんな顔してないよ!」



 いつものように、彼女につられて、僕も笑顔になってしまう。

「ねえ、中原くん、手拍子して!ルオー代表ちあきさんと一馬さんに教えてもらったの。」

 佑夏は立ち上がり、軽快なステップを刻み始める。

「ジャンボ~!ジャンボブワナ~!」

 歌い始めたのは、おそらく普通の日本人でも知っている唯一のケニア民謡「ジャンボブワナ」。
 これは、僕でも聞いたことがある。とても元氣の出る曲だ。

「ジャンボ」はスワヒリ語の挨拶、「やあ!」とか、そういう意味らしい。

 佑夏の美しい歌声が響き、僕と、ぽん太と、楓とレオナは笑顔で聴き惚れる。

「ジャンボ~♪ハクナマタタ~♫」


「葉月ゆく 何処に向かう 恋心?」
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