ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第十二章 3月11日

白い貝殻と

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「その時に、真帆姉ちゃんの、お部屋に入ったら、この白い貝殻があったのよ。
 カーテンに付いてたわ。」

「もしかして、一目で氣に入ったの?」

「そーなのよ!私、大声上げて、“ゆーか、この貝、かみにつけて、じんじゃいくー!“って、騒ぎ立てたわ。
 真帆姉ちゃん、楽しそうに笑って、私の髪に付けてくれた。」

 無理もない。だって、出来が良すぎる。小二の女の子が欲しがるのは、当たり前だ。

「神社に着いても、私、ずっと真帆姉ちゃんにベッタリで、手を引いてもらってた。
 はやとが、まだ生まれたばっかりで、お母さんが抱っこして、手が塞がってたの。
 だから、“お父さんはやだ~!マホねえちゃんがいい~!“って。

 お父さん、寂しそうだったな、ふふ。」

「じゃあ、その七五三で、この貝殻、真帆さんに貰ったの?」

「そうなるのかな?
 私、“マホねえちゃーん!コレちょーだい!“って言ったら、
 お母さんには“ダメ!真帆ちゃんに返しなさい!“
 なんて叱られたんだけど、真帆姉ちゃん、少しも惜しそうな顔しないで、
 “ユーちゃん、貰ってくれるの?ありがとー!“だって!」

「本当に優しい人だね!信じられない!」

 僕は、驚愕の声を上げる。

「うん、うん。そーなのよ。私、有頂天になっちゃて、それから、もう、寝る時と、お風呂入る時以外、付けっ放し。
 学校にも、そのまま。初詣も、これ付けて、潮騒神社行って、真帆姉ちゃんと一緒に写真撮って、楽しかったな~。」

「はは、良かったね。」

 潮崎さんには、悪いが、やっぱり少女時代の佑夏の、正月の晴着姿も見たい!

 しかし、僕は、さっきから氣になっている。

 なぜ、佑夏は、真帆さんの存在を、全て過去形で話す?
 就職か結婚で、遠い地方か、海外に行ってしまったのだろうか?

「でも、そんな、いい人だったんなら、隼君も、すごく懐いたんだろうね?」

 ちょっと、探りを入れるっぽい言い方に......。

「ううん。隼は、真帆姉ちゃんの記憶は無いの。」

「え?」

「私、バカだけど、こんな綺麗な物、無理やり貰って、ずっとそのままなのが、何だか、真帆姉ちゃんに申し訳無い氣持ちになってきたのよ。
 飽きたんじゃないの、これ付けてると、ホントに心も晴れるしね。」

「ふぅ~ん、それで、どうしたの?」

「雛祭りに、真帆姉ちゃん、私の家に来てくれてね。その時は、白い貝殻これ付けてたわ。
 いっぱい写真も撮って、歌を歌って、ひなあられ食べて、とっても幸せだった。」

 なんか、この前の若葉寮の雛祭りを思い出すな。
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