ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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最終章 湖面の誓い

幸せのグライダー

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 爽やかな秋晴れの空を見上げると、上昇氣流が渦を巻いて、雲が生まれていく。

「素敵~♫」

 すぐ後ろから、ヤマネ姫の声が聞こえる。
 水野さんと、空を指差し合っているようだ。

「諏訪湖からの上昇氣流ですね。」

 東山さん、何年、見続けても、いいものはいい、といった様子。

「あ!あれ、グライダーとちがう?」

 そう、声を上げた理夢ちゃんの視線を、全員が目で追う。

 青空を優雅に舞う、白い翼、エンジン音は聞こえて来ない、グライダーだ!

「一帯に豊かな上昇氣流が発生し、グライダーの飛行に適している霧ヶ峰は、日本グライダーの発祥の地でもあります。」

 小林さんの解説。

「へぇ~、いいわね~。佑夏ちゃん、空から、八島ヶ原湿原や、車山を見てみたいわね?きっと最高よ。」

「ア、アハハ。そ~ですね~。」

 水野さんに、同意を求められたヤマネ姫は、冷や汗をかいている。

 そんな彼女に、ルミ子さんが容赦なく、関西人得意の「突っ込み」を。

「白沢先生、何、そないにひきつってるんです?こんなん、めっちゃ好きそうやのに?」

 うう、佑夏が高所恐怖症であることをバラしたい衝動に駆られる!しかし、ここは男だ!

「白沢さんは、帰ったら、俺とグライダーに乗る約束してるんですよ。」

 助かった!といった表情のヤマネ姫。

「あ、は~い!そーなんです~♪仁助さんが誘ってくれて。」

「なんや、そうでしたか。こらホンマに婚約者ですなぁ。」

「うふふ♪ありがとーございますー!」

 何の疑いも無く、信じ込んだルミ子さんに、僕と本物の婚約者と言われて喜んでいる。
 これは、やっぱり???いや、楽観は禁物だ。(しかし、僕も嬉しい彼女のリアクション)

 アランが、幸福論で言うには、友情には素晴らしい喜びがあり、喜びは伝染性のもので、喜びを目覚まさせるには、一種の弾みが必要なのだそうだが、グライダーの登場で、図らずも、その通りになっている。

「皆さん、あちらのカフェで、休憩にします。」

 最後尾から、ディーンフジオカ添乗員が、前方を指し示す。

 これは、出発時に聞いていた。

 前に見えて来た、地図にも載っていない小さな木造のカフェ。

 一人1ドリンクは、ツアー料金に含まれていて、無料だと。追加注文は各自負担になる。
 東山さんとは親しくて、かなり割引してもらっているようだ。

「ここにはね。東山わたしの本が、たくさん、置いてあるんですよ。」

 写真家先生を先頭に、僕達は、店の中へと入って行く。

 まだ、山田さんでさえ、疲労の色はまるで無い。
 本当に歩きやすい高原だな。
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