ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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最終章 湖面の誓い

森のカフェにて

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 カフェは、室内席と外のデッキにも丸いテーブルがあり、自由に行き来できる。

 中の本棚に、山関係の雑誌、写真集などがあるのが、見て取れるけど。

 しかし、やはり、せっかく、こんな景色のいい所に来ているのである、全員が外の席に座り、東山さんを中心に、それぞれ、コーヒー、紅茶、ジュースなどを飲んでいる。

 そこに、カフェの女性スタッフが、一冊の本を手にして、そっと囁く。30代、半ばくらい?

「大悟さん......。」

「あー、これですか。」

 彼女から受け取った本を、東山さんは、テーブルの上に置く。

 子供向けの児童書のようだ。

 題名は「生き物のアルバム ヤマネのせいかつ」とあり、著者名は、もちろん、東山大悟。

 表紙の写真は、アケビの実に乗っている、ヤマネの愛くるしい姿だ。

東山わたしね~、ずっとアケビに乗ったヤマネを撮りたかったんですよ。
 挑戦してから成功するのに、五年かかりました。」
 


「五年ですか!こないに上手う撮れて、苦労したかいがおましたなぁ。」

 ルミ子さんが言うように、やはりカメラによる静止画像には、芸術作品のような趣があるな。

「文章も、先生が書いたんですか?」

 全員で回し読みしながら、水野さんが尋ねる。

「そうですよ。この本ね、全国の小学校の図書室には、どこにでも、必ずあります。
 子供用に書いたつもりだったんですが、”分かりやすい”って言われましてね。一般の方にも好評です。」

 小学校!そう聞いて、隣の佑夏がピクッと反応する。

 やがて、僕にも回って来る。

 写真集から流用されている写真も一部あるが、この本、オリジナルの写真もある。

 ちょうど、季節が今頃の、落ち葉舞う森の写真など、実に見事である。

 なんだか、読み込んでしまいたくなるが、一冊しかないし、そういう訳にはいかないな。

「佑夏ちゃん、読んでよ!」(女性の声・言ったのは、僕じゃない)

「ええ!?そんなぁ~?」

 水野さんの突然のご指名に、ヤマネ姫は、やや拒否の姿勢。

「そうですね。白沢さんが適任でしょう。白沢さん、朗読、お願いします。」

 作者の東山さんに、こう言われては断れないだろう。
 本来、場を盛り上げるのが大好きな彼女だ。

「アハハ、そーですか?それじゃ、白沢わたしで良かったら、読ませていただきま~す♪」

 パラパラと、ページをめくり、本物の小動物のように目を輝かせた佑夏は、読む箇所を決めたらしく、その唇から森の精霊のような、美しい声が漏れ始める。

「国の天然記念物のヤマネは、冬はボールのように丸くなって冬眠します。」

 そして、佑夏は、いかにも学校の先生といった動作で、本を立てて全員に向け、ページ上の冬眠するヤマネの写真を左手で指差しながら、ニッコリ!

「木の葉やコケをしきつめた巣の中で冬眠しているヤマネ。まんまるになったヤマネは、ゴルフボールより、ちょっと大きいくらいです。」

 何て優しく、潤いのある癒しの声だ.....。
 本当に、大地の女神が、僕達に語りかけているかのようだ。



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