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最終章 湖面の誓い
清廉
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「仁助さん、手を出して.......。」
彼女に言われるまま、僕は両方の掌を合わせて差し出す。
白魚のような佑夏の手から、そこに置かれた物を見て、僕は思わず、「あっ!」と声を出してしまう。
それは、そのくらい、美しいのである。
「綺麗でしょ?クロユリダカラの貝殻よ。去年、一馬さん達と種子島に行った時に拾ったの。
この、シーグラスも一緒に、その時。
それでね、真帆姉ちゃんのお父さんに、作ってもらったのよ。
発表、見た後、貴方に渡そうと思ってたわ。」
今、僕の掌の上にあるのは、二つ一組の貝殻のアクセサリー。
佑夏の髪に着いている白い貝殻と同じ造りだ。
「タカラガイは、東北じゃ、あんまり見られないから、種子島に行く前から、楽しみにしてたの。」
デコボコの無い、卵型の美しい貝。大きさは六㎝弱くらいか。
鮮やかなオレンジ色に、雪の舞いのようなホワイトスポットが散りばめられており、それに、星型にカットされた、半透明のエメラルドグリーンのシーグラスがそれぞれ三個ずつ付いている。
やはり、五月の地震の時に佑夏から、真帆さんの貝殻を借りた時に見た、重厚な趣を持つ、金属の留め金も、見て取れるな。
出発前、大学の礼拝堂の石畳で、翠が何か言いたそうにしていたのは、これのことだったのか......!
「でも、どうして俺に?それも二つも?」
僕が疑問を口にすると、彼女は、暖かく温もりのある両手で、貝殻を持った僕の掌を、そっと包み、頬に涙をつたらせながら、微笑む。
「貴方と.....鈴村さんに......。髪にも、服にも付けられるわよ。
私、屋久島にいる時も、種子島にいる時も、ずっと貴方のこと、考えてたの。
仁助さんが、鈴村さんと一緒に喜ぶ顔が見たくて、サーフィンもしないで、ビーチでゴミ拾いして、貝殻を探してたのよ、おかしいでしょ?ふふ。
一馬さんにも、呆れられちゃった.....。」
ええ~!?千尋が、僕の恋人だと思っているのか?何か、勘違いしてないか!?
しかし、僕の弟子に嫉妬する訳でもなく、ふてくされることもなく、ずっと僕達の幸せを考え続けていてくれていたのか........。
なんて.....なんて......なんて.....、優しい......
いや、「優しい」という言葉一つでは片付けられない、清らかで美しい心......、佑夏ちゃん、君って子は.....。
先刻承知のことではあったが。
「去年の合氣道の大会、鈴村さんとの、仁助さんの演武、素晴らしかったわ!
この人、どうして、こんな動きができるの?って、胸が震えて涙が止まらなかった........。
そして、二人の演武が、あんまり美しくて、素敵で、もう、貴方達の間には、私の居場所は無い、と分かったの。」
「佑夏ちゃん、それは.......。」
あの演武は、君に見て欲しかったから、招待したんだ、そう言いかけると、彼女の目からつたっていた涙が、大粒に変わり、とめどなく流れだす。
「でも、このツアーの日程見て、信じられないくらい、嬉しかった.......。
発表の日、貴方と二人きりになれる、一緒に発表、見れる........。
こんなことあっていいの?飛び上がりたくなったわ。」
そりゃ、俺は合格発表の日に合わせたツアーを探してたからね。
それにしても、そんなに喜んでいてくれていたとは。
僕の掌の中にある、秋の陽光と、湖の照り返しで輝く、二つのオレンジ色に煌めく貝殻を両手で包み込み、彼女の唇から優しい美声が漏れ続ける。
「ヤマネの棲み家が見たかったのは嘘じゃないの、信じて.....。
この二日間、本当に楽しかった.......、ありがとう、仁助さん......、私、一生、忘れられないわ.....。」
午前中の、朗読の時も思ったが、女神の詠唱と形容して、差し支えないと思う。
声だけで、感動すら覚える美しさだ。
「ごめんなさい。みんなの前で、弟の名前まで出して、二日間も、本当の貴方の婚約者のように振る舞って。
でも、ほんの二日だけでも、貴方の婚約者になれて、嬉しかった.......。
まだ、あと一日、鈴村さんから、貴方を借りれる.....、何だか夢みたい。」
流れる涙を拭おうともせず、僕の掌を強く握ったまま、佑夏は微笑む。
「お願い......、あと一日だけ、貴方の婚約者でいさせて......。帰ったら、もう二度と、二人の邪魔はしないわ.......。」
彼女に言われるまま、僕は両方の掌を合わせて差し出す。
白魚のような佑夏の手から、そこに置かれた物を見て、僕は思わず、「あっ!」と声を出してしまう。
それは、そのくらい、美しいのである。
「綺麗でしょ?クロユリダカラの貝殻よ。去年、一馬さん達と種子島に行った時に拾ったの。
この、シーグラスも一緒に、その時。
それでね、真帆姉ちゃんのお父さんに、作ってもらったのよ。
発表、見た後、貴方に渡そうと思ってたわ。」
今、僕の掌の上にあるのは、二つ一組の貝殻のアクセサリー。
佑夏の髪に着いている白い貝殻と同じ造りだ。
「タカラガイは、東北じゃ、あんまり見られないから、種子島に行く前から、楽しみにしてたの。」
デコボコの無い、卵型の美しい貝。大きさは六㎝弱くらいか。
鮮やかなオレンジ色に、雪の舞いのようなホワイトスポットが散りばめられており、それに、星型にカットされた、半透明のエメラルドグリーンのシーグラスがそれぞれ三個ずつ付いている。
やはり、五月の地震の時に佑夏から、真帆さんの貝殻を借りた時に見た、重厚な趣を持つ、金属の留め金も、見て取れるな。
出発前、大学の礼拝堂の石畳で、翠が何か言いたそうにしていたのは、これのことだったのか......!
「でも、どうして俺に?それも二つも?」
僕が疑問を口にすると、彼女は、暖かく温もりのある両手で、貝殻を持った僕の掌を、そっと包み、頬に涙をつたらせながら、微笑む。
「貴方と.....鈴村さんに......。髪にも、服にも付けられるわよ。
私、屋久島にいる時も、種子島にいる時も、ずっと貴方のこと、考えてたの。
仁助さんが、鈴村さんと一緒に喜ぶ顔が見たくて、サーフィンもしないで、ビーチでゴミ拾いして、貝殻を探してたのよ、おかしいでしょ?ふふ。
一馬さんにも、呆れられちゃった.....。」
ええ~!?千尋が、僕の恋人だと思っているのか?何か、勘違いしてないか!?
しかし、僕の弟子に嫉妬する訳でもなく、ふてくされることもなく、ずっと僕達の幸せを考え続けていてくれていたのか........。
なんて.....なんて......なんて.....、優しい......
いや、「優しい」という言葉一つでは片付けられない、清らかで美しい心......、佑夏ちゃん、君って子は.....。
先刻承知のことではあったが。
「去年の合氣道の大会、鈴村さんとの、仁助さんの演武、素晴らしかったわ!
この人、どうして、こんな動きができるの?って、胸が震えて涙が止まらなかった........。
そして、二人の演武が、あんまり美しくて、素敵で、もう、貴方達の間には、私の居場所は無い、と分かったの。」
「佑夏ちゃん、それは.......。」
あの演武は、君に見て欲しかったから、招待したんだ、そう言いかけると、彼女の目からつたっていた涙が、大粒に変わり、とめどなく流れだす。
「でも、このツアーの日程見て、信じられないくらい、嬉しかった.......。
発表の日、貴方と二人きりになれる、一緒に発表、見れる........。
こんなことあっていいの?飛び上がりたくなったわ。」
そりゃ、俺は合格発表の日に合わせたツアーを探してたからね。
それにしても、そんなに喜んでいてくれていたとは。
僕の掌の中にある、秋の陽光と、湖の照り返しで輝く、二つのオレンジ色に煌めく貝殻を両手で包み込み、彼女の唇から優しい美声が漏れ続ける。
「ヤマネの棲み家が見たかったのは嘘じゃないの、信じて.....。
この二日間、本当に楽しかった.......、ありがとう、仁助さん......、私、一生、忘れられないわ.....。」
午前中の、朗読の時も思ったが、女神の詠唱と形容して、差し支えないと思う。
声だけで、感動すら覚える美しさだ。
「ごめんなさい。みんなの前で、弟の名前まで出して、二日間も、本当の貴方の婚約者のように振る舞って。
でも、ほんの二日だけでも、貴方の婚約者になれて、嬉しかった.......。
まだ、あと一日、鈴村さんから、貴方を借りれる.....、何だか夢みたい。」
流れる涙を拭おうともせず、僕の掌を強く握ったまま、佑夏は微笑む。
「お願い......、あと一日だけ、貴方の婚約者でいさせて......。帰ったら、もう二度と、二人の邪魔はしないわ.......。」
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