ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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最終章 湖面の誓い

祝福

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「佑夏ちゃん、俺からも、お願いがあるんだけど......。」

「え?」

 涙が溢れる、美しい瞳が僕を見上げる。

「あのさ、その”仁助さん”って呼び方、もう元の”中原くん”に戻さないで欲しいんだ。」

「どうして?」

「このタカラガイ、俺と佑夏ちゃんの物にしないか?」

 僕は、二つの貝殻が入った、彼女に持たれたままの掌を、彼女の目の高さに上げる。

「ええ!?鈴村さんは?」(千尋に申し訳ないと、言いたげな表情)

「鈴村さんは、ただの俺の弟子だよ。武術の世界じゃ、師匠は教え子に手を出したり、しないもんだって。

 でも、そんな仕来りなんか無くてもさ、俺は鈴村さんを、どうするつもりも無いよ。」

「そ、そうなの?」

 ハッと、目を見開き、驚くヤマネ姫。

「うん。俺こそ発表見たら、言おうと思ってたんだ。俺、ずっと、君のことが......。」

 お互い、両手で繋がったまま、僕は、全てを佑夏に話す。

 知り合って二年目から、君に特別な感情が芽生えたこと、

(まさか、ぽん太の口から、彼女がアイツを保護した経緯を聞いたのが決定打となった、と言っても、到底、信じてもらえないだろうから、デブ猫ぽんたや、従妹の幼児モナちゃんの世話をかいがいしくしてくれる優しい心に打たれて、という表現で。)

 だけど、教員採用試験きょうさいに向けて頑張っている君を見て、余計な負担はかけたくなくて、発表を見るまで、胸に秘めておくことにしていたことも、何もかも.....。

 佑夏の大粒の涙が、さらにドッと流れ出し、湖の光を浴びた笑顔が煌めく

「ずっと、待っててくれたの......?二年も.........?仁助さん.........、嬉しい..........!」

 僕の掌を握っていた手を離し、彼女は、両手を広げて僕の胸の中に飛び込んでくる。

 タカラガイを右手に持ち換え、ヤマネ姫の細い背中に両腕をそっと回し、僕は、髪の真帆さんの白い貝殻に軽く、額を付ける。

「真帆さん、今まで、この子を守ってくれて、ありがとうございます。
 これからは、俺が彼女の側にいます、貴女も、俺達とずっと一緒にいて下さい。」

 と、感謝と誓いを込めて.......。

「あ!真帆姉ちゃん!」

 佑夏が、こめかみに手を当てる。これは、潮の香り。

 と、彼女の髪の白い貝殻が光を放ち、温かい白い波が流れ出して、僕達をグルグル包み込んでいく。

 今は、僕にも、佑夏にも真帆さんの波がハッキリ見える。

 春に見た、無数のシーグラスは、さらに量を増して輝いている、真帆さんが、僕達二人を祝福してくれているのか.......。

 こうして、僕と佑夏は結ばれたのである。

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