第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵

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第15話 逆高嶺の花

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 その後も色んな動画を撮りつつ、2人で動画を楽しんでいると、バッテリー残量が少し減ってきてしまった。残念だけど、これ以上は節約しないとな。


「むぅ……私の声、違くないですか?」
「人の聞く声と自分の聞く声って違うみたいですよ。俺の声は動画と今と同じでしょ?」
「た、確かに……え、私って皆から、こんな声だって思われているんですか?」


 自分の喉に手を当てて、あーあーと発声を繰り返すミューレンさん。わかるわかる。俺も、最初自分の声を聞いた時違和感だらけだったもん。
 2人並んでソファに座りながら、彼女の淹れてくれたお茶を飲む。独特な風味だ。飲み慣れていないだけかもしれないけど、結構うまい。
 なんだかチルい雰囲気になっていると、不意にミューレンさんがぽつりと独り言ちた。


「イブキ様、心細くはないですか?」
「え?」


 これまた、急にどうしたのだろうか。
 目を見開いて彼女を見ると、お茶を手に少しもじもじとしていた。


「貴方様のお話を聞いていると、いつの間にか知らない土地に放り出されたようで……私なら、心細くて塞ぎ込んでしまいそうです」
「あぁ、そういうこと……確かに、そう思う時はありますよ。心細いというか、両親はどうしてるのかなとか。でも……あんまり考えないようにします」


 向こうの世界からしたら、俺は失踪扱いになるんだろうか。色んな人に迷惑を掛けるなぁ。ニュースになったりするんだろうか。せめて、向こうの情報を仕入れられたら嬉しいんだけど……当たり前だが、ここでは圏外だ。諦めるしかない。


「自分の世界に帰りたいとか思わないんですか?」
「ちょっとだけ思いますけど……まあ、向こうの世界よりこっちの方が、トータルとしては幸せなのかなって」


 テレビも無い。ゲームも無い。漫画も、ラノベも、その他娯楽が一切ない世界。だけどそれを抜きにしても、四六時中絶世の美女たちに囲まれる生活は幸せだろう。
 体を鍛えるのもいいし、簡単な勉強くらいならできる。魔法も使えなくても、知識だけは詰め込めるかもしれない。
 やりようによっては、いくらでも暇を潰せるだろうな。


「……強いですね、イブキ様は」
「はは……男なんで、綺麗な女性の前では強く見せてるだけです」
「? 何故男はそうなんですか?」
「さあ……地球では、世界共通でこんな感じですよ」


 少なくとも、インターネットで観測した範囲では。今では地球の裏側の情報でさえ、秒で手に入る時代だからな。


「ちきゅー……差し支えなければ、イブキ様のいた世界のことを聞いても? かがくぎじゅちゅというのも、気になります」
「科学技術、ですね。ええ、もちろん。いくらでも……ん?」


 なんて言っていると、遠くから鐘の音が聞こえてきた。これは……?


「あぁ、夕食の時間ですね。食堂に行きましょうか」


 もうそんな時間か。……よく考えると、かなり腹が減ってた。こっちに来てから、飲み物しか口にしてなかったからな。
 ミューレンさんと家を出て、反対側の食堂へ向かう。広場には松明で火が灯されていて、仕事を終えた女騎士たちも、ぞろぞろと向かっていた。
 それと入れ違うように、寮から見慣れない亜人たちが出てくる。みんな眠そうに目を擦っているし、あれは……?


「彼女たちは夜行性の亜人です。起床と食事を済ませ、我々と交代で任務に当たります」
「夜でも仕事があるんですね」
「山賊や盗賊は、夜でも活動します。更に夜行性の魔物もいるので、彼女たちの存在が必須なんですよ」


 あ、そうか。それは理にかなってる気がする。
 すれ違いざま、夜行性の皆さんを見ていると、急に数人の獣人が鼻をひくつかせた。


「──雄の匂いッ!!」
「「「「「えっ??」」」」」


 ギュンッ。うおっ、一斉にこっち見てきた……!
 ひぇっ、怖い。昼間はまだ皆さん理性的だったけど、夜の皆さんは、昼の人より本能に忠実な感じがする……! どっちかっていうと、山賊に近い気が……!
 俺とミューレンさんを囲む人集り。が……それ以上は近付いてこない。なんで……?


「きっと、他の隊長が釘を刺したんです。私と貴方様がまぐわなければ、彼女らもイブキ様を襲えないので」


 あ、なるほど。ありがとう……マジでありがとう……!


「男……!」
「男だッ」
「あれが隊長の言ってた雄……!」
「あぁ、雄の匂い♡」
「男ォ……男ォ……!!」
「いい匂いがするわねぇ」


 ……男子校の学祭に来る女子校生の気持ちがわかった。怖いわ、これ。逆高嶺の花とはこのことか。
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