第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵

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第24話 男に飢えた女たち

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 午前中の巡回警備は、さっきの魔物以外の敵は出てこなかった。今は別ルートを通り、六華隊本部へと戻っている。
 どうやら魔物は、頻繁に現れるものでもないらしい。それよりも、山賊や盗賊の捕縛や、俺みたいな迷子の保護なんかが主な仕事ということだ。あんな化け物が、頻繁に出て来るような場所じゃなくてよかった。
 ミューレンさんの後ろで揺られながら、俺も辺りを見渡す。
 馬の背中って、意外と高い。ここからだと、かなり遠くまで見渡せる。
 と……先頭が、ほぼ直角に右へと進路を変えた。後続も、特に何も言わずについて行く。
 多分場所的に、このまま真っ直ぐいった方が本部は近いと思うんだけど……?


「ミューレンさん。真っ直ぐ行かなくていいんですか?」
「ええ、まぁ……ちょっと、事情がありまして」
「事情?」


 鎧越しに、ミューレンさんの体が強張るのを感じる。周囲からも、どことなく緊張感が伝わってきた。


「事情って、聞いてもいいですか?」
「……あの先には、霊廟があるんです。いつ、誰のために作られたかわからない、厳かな霊廟が」


 霊廟……亡くなった偉人や王族を祀る建物のことだよな。所謂、お墓だ。
 そんなものがあるなら、是非とも見てみたい。けど……皆さんの反応を見るに、霊廟は避けて通るらしい。


「霊廟は巡回しないんですか?」
「したいのは山々なんですが……」


 言葉を濁し、言うか言うまいかと口を開いては閉じる。
 けど、直ぐに意を決したのか、横目で霊廟のある方向を見た。


「……出るんです。霊が」
「……え?」


   ◆◆◆


 特に何事もなく巡回を終え、六華隊本部へ戻ってきた。
 俺たちは広場の一角に固まり、昼食を食べながらさっきの霊廟のことを話していた。


「ここにいる者で、霊廟に出る亡霊の噂を聞いた者はいるか?」


 ミューレンさんの問いに、全員が手を挙げた。


「では、実際に見た者は?」


 数人が下ろしただけで、ほぼ全員が手を挙げている。中には、顔を青白くさせている隊員もいた。
 このリアクション……本当、なのか……?


「このように、ほぼ全員が亡霊の姿を目にしているのです。皆恐ろしくて、滅多なことがない限り近付きません」
「そ、そうですか……」


 魔法があり、魔物がいて、まさか幽霊まで出るなんて……異世界、侮りがたし。


「霊廟には、かつての英雄が使っていた武器が眠っていると言われています」
「英雄の武器? どんなものなんですか?」


 聞くが、ミューレンさんは首を横に振った。


「あくまで噂です。亡霊の軍勢が行く手を阻み、中へ入れないのです」


 なるほど……。
 亡霊の軍勢が護るほどの、英雄が使っていた武器……男としては、めちゃくちゃ気になる。


「皆さんはその武器を取りに行こうとして、亡霊に返り討ちにされたという訳ですか」
「あー……いや、そのぉ……」


 ……なんでそんな言いづらそうにしてんですか。
 他の人も、目を逸らしたり顔を伏せたりして、こっちを見ようとしない。なんで?
 首を傾げると、クレンさんが指をモジモジさせながら、ぼそりと呟いた。


「……とこなんです」
「え?」
「……男、なんです。亡霊……」


 …………。


「まさか男が見たいという理由だけで、霊廟に行ったんですか?」
「「「「「ギクッ」」」」」


 ギクッて口にする人初めて見た。
 ミューレンさんも、完全に俺から顔を逸らしている。ほほーん、この人もか。
 亡霊だろうと男を見たいって理由だけで、そんな所に行くかね、普通。やれやれ。
 ……いや、逆の立場で考えてみろ。女が少なくて、女に飢えて仕方ない状況で、女の幽霊が見れるって知ったら……俺も行っちゃうだろうなぁ。


「まあ、事情はわかりました。でも亡霊ってことは、実態が無いんですよね? 無視して進めばいいのでは?」
「それが……あるんです。実態が」


 ……なんだって?


「それ、本当に亡霊なんですか? 魔物ではなく?」
「はい。こちらの攻撃は尽くすり抜け、向こうの攻撃は実体を伴う。恐ろしい奴らです」


 この中の何人かは心当たりがあるのか、身を震わせている。
 どうやら、英雄の武器を手に入れるのも、一筋縄ではいかないらしい。


「けど……英雄の武器っていうのは、気になりますよね?」
「そうですね。実在するのであれば、是非とも見てみたいです」


 ふぅむ……。


「行ってみようかな、その霊廟」
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