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第25話 隊長の実力
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◆◆◆
「あの……本当に行くんですか……?」
「はい、もちろん」
日が暮れ、月が天高く昇った頃。俺とミューレンさんは、ランタンを手に個宅を出た。
昼間はめちゃくちゃ止められたけど、隙を見て1人でも行くとごねたら、ミューレンさんが着いてきてくれる事になったんだ。ごめんね。
「いやー、幽霊って、昔から見てみたいって思ってたんですよね」
「そっ、そんな人いるんですか……!?」
「地球には一定数いると思いますよ」
「異世界人、恐ろしい……」
異形の魔物やドラゴンを相手にしているあなた方より、よっぽど健全だと思います。
俺の服を摘んで、若干内股になって着いてくるミューレンさん。こんな所見られたら、隊員に示しがつかないような──
「ミューさん、何してんすか?」
「ッ!?!?」
「うぉっ……!?」
び、ビビった。急に話しかけられるから。
振り返ると、二番隊隊長のアリュゼさんがいた。相変わらず眠そうなタレ目だ。
「ん? あ、男」
「い、一颯です。久我一颯」
「そっかそっか。んで、男とミューさん、2人だけでどこに行くんすか?」
あ、名前は覚えてくれないんですね。まあいいけど。
「これから霊廟の亡霊を見に行くんです。見てみたくて」
「……??」
何を言っているのかわからない、といった顔になった。けど直ぐに何かを思いついたのか、「ははーん」と愉しそうに目を細めた。
「っていう言い訳で、野外で楽しもうって魂胆? イイねぇ、アタシも交ぜてくれよ♡」
「だから違いますって。本当に霊廟に行くんです」
「…………」
今度はドン引きされた。えぇ……? 本当のことを言っただけなのに。
「お前、変わってんな」
「そうですか?」
「……ま、いいや。だからミューさん、こんなビビってんだな。この人結構ビビりだから」
とんでも情報を暴露され、ミューレンさんは一気に顔を赤くした。
「ばっ、ばばばば馬鹿を言うなッ! わ、私が怖がるはずがないだろう……!」
「強がんなくていいっすよ。昔からのメンツは、みんな知ってるっすから」
アリュゼさんの言葉に、ミューレンさんは唇を噛んで悔しそうにする。
みんなの前では気高く、2人きりだと甘えん坊で、更に怖がり。どんだけ可愛いんだ、この人。
「ミューさん、クレンとか他の奴はどうしたんすか?」
「さ、さすがに休ませている。夜まで仕事をさせる訳にはいかないからな」
「ま、そりゃそーだ」
後頭部を掻きむしったアリュゼさんは、俺たちを交互に見る。
「……はぁ……仕方ねぇ。アタシも着いてってやるよ」
「え?」
まさかの申し出。いいのだろうか、それは?
ミューレンさんも同じことを思ったのか、訝しげな顔をした。
「だがアリュゼ。お前自分の仕事があるだろう」
「二番隊は、副隊長に任せるっす。あっちより、2人の方が心配っすよ」
うっ……面目ねぇ。
けど、夜行性で夜目の効きそうなアリュゼさんが一緒なら、心強い。
よーし。行くぞ、霊廟!
……って、思ってたのに……。
「なんでアリュゼさんも怖がってるんですか」
俺の陰に隠れているアリュゼさんに、ジト目を向ける。あれだけカッコよく決めてたのに。
「バッキャロー。幽霊が得意なんて誰が言った。アタシは2人が心配だって言ったんだ」
「そういうのを屁理屈って言うんですよ……!」
はぁ……人選、ミスったかなぁ。けどオメガさんに、夜中まで着いてきてもらう訳にはいかないし……。
ランタンの灯りを頼りに、霧の濃い森の中を進む。
夜の森って不気味だ。本当、如何にも出そうな雰囲気がある。まあ、実際に幽霊が出る場所に向かってるんだけど。
「……ん?」
なんだ? 霧の向こうで荒い息遣いがする。それに、きつい獣臭まで……?
よく目を凝らし、森の奥を見る──が。
「フッ──!!」
突然ミューレンさんが前へ踊り出し、腰に提げている得物を抜剣。
同時に、霧を突き抜けて巨大な熊が現れた。
いや……熊なのか、あれは……?
大きさが左右非対称の前脚。頭部には複数の目玉。腹が縦に大きく裂け、牙と舌が飛び出ている。
明らかに異形の姿だが、ミューレンさんは臆さない。
「ゴルアアアアアァァァッッ──!!」
「────」
咆哮と共に振り下ろされた、巨大な爪。
完全に見切っているのか、ミューレンさんは余裕を持って躱し、熊を足場にして頭上へ跳び上がる。
「剛の太刀・参式──シュート・エテルネル」
頭上から止めどなく落ちてくる滝のように……連撃に次ぐ連撃と、剣技に次ぐ剣技が、怒涛の如く熊の体を斬り刻む。
時間にして数秒。だけど、数えるのも嫌になるほどの剣撃により、熊は声も発さず息絶えた。
「……つよ……」
「ミューさんは、剣技だけなら六華隊でもトップクラスだ」
マジかよ。
呆然と彼女を見ていると、返り血ひとつ付いていないマントをはためかせ、こっちに戻ってきた。
「ミューレンさん。そんなに強いなら、幽霊も怖くないでしょう」
「殺せる魔物と、殺せない亡霊。後者の方が断然怖いです」
「わかる」
ミューレンさんの呟きに、アリュゼさんも深々と頷く。この人たちの基準がわからん。
「あの……本当に行くんですか……?」
「はい、もちろん」
日が暮れ、月が天高く昇った頃。俺とミューレンさんは、ランタンを手に個宅を出た。
昼間はめちゃくちゃ止められたけど、隙を見て1人でも行くとごねたら、ミューレンさんが着いてきてくれる事になったんだ。ごめんね。
「いやー、幽霊って、昔から見てみたいって思ってたんですよね」
「そっ、そんな人いるんですか……!?」
「地球には一定数いると思いますよ」
「異世界人、恐ろしい……」
異形の魔物やドラゴンを相手にしているあなた方より、よっぽど健全だと思います。
俺の服を摘んで、若干内股になって着いてくるミューレンさん。こんな所見られたら、隊員に示しがつかないような──
「ミューさん、何してんすか?」
「ッ!?!?」
「うぉっ……!?」
び、ビビった。急に話しかけられるから。
振り返ると、二番隊隊長のアリュゼさんがいた。相変わらず眠そうなタレ目だ。
「ん? あ、男」
「い、一颯です。久我一颯」
「そっかそっか。んで、男とミューさん、2人だけでどこに行くんすか?」
あ、名前は覚えてくれないんですね。まあいいけど。
「これから霊廟の亡霊を見に行くんです。見てみたくて」
「……??」
何を言っているのかわからない、といった顔になった。けど直ぐに何かを思いついたのか、「ははーん」と愉しそうに目を細めた。
「っていう言い訳で、野外で楽しもうって魂胆? イイねぇ、アタシも交ぜてくれよ♡」
「だから違いますって。本当に霊廟に行くんです」
「…………」
今度はドン引きされた。えぇ……? 本当のことを言っただけなのに。
「お前、変わってんな」
「そうですか?」
「……ま、いいや。だからミューさん、こんなビビってんだな。この人結構ビビりだから」
とんでも情報を暴露され、ミューレンさんは一気に顔を赤くした。
「ばっ、ばばばば馬鹿を言うなッ! わ、私が怖がるはずがないだろう……!」
「強がんなくていいっすよ。昔からのメンツは、みんな知ってるっすから」
アリュゼさんの言葉に、ミューレンさんは唇を噛んで悔しそうにする。
みんなの前では気高く、2人きりだと甘えん坊で、更に怖がり。どんだけ可愛いんだ、この人。
「ミューさん、クレンとか他の奴はどうしたんすか?」
「さ、さすがに休ませている。夜まで仕事をさせる訳にはいかないからな」
「ま、そりゃそーだ」
後頭部を掻きむしったアリュゼさんは、俺たちを交互に見る。
「……はぁ……仕方ねぇ。アタシも着いてってやるよ」
「え?」
まさかの申し出。いいのだろうか、それは?
ミューレンさんも同じことを思ったのか、訝しげな顔をした。
「だがアリュゼ。お前自分の仕事があるだろう」
「二番隊は、副隊長に任せるっす。あっちより、2人の方が心配っすよ」
うっ……面目ねぇ。
けど、夜行性で夜目の効きそうなアリュゼさんが一緒なら、心強い。
よーし。行くぞ、霊廟!
……って、思ってたのに……。
「なんでアリュゼさんも怖がってるんですか」
俺の陰に隠れているアリュゼさんに、ジト目を向ける。あれだけカッコよく決めてたのに。
「バッキャロー。幽霊が得意なんて誰が言った。アタシは2人が心配だって言ったんだ」
「そういうのを屁理屈って言うんですよ……!」
はぁ……人選、ミスったかなぁ。けどオメガさんに、夜中まで着いてきてもらう訳にはいかないし……。
ランタンの灯りを頼りに、霧の濃い森の中を進む。
夜の森って不気味だ。本当、如何にも出そうな雰囲気がある。まあ、実際に幽霊が出る場所に向かってるんだけど。
「……ん?」
なんだ? 霧の向こうで荒い息遣いがする。それに、きつい獣臭まで……?
よく目を凝らし、森の奥を見る──が。
「フッ──!!」
突然ミューレンさんが前へ踊り出し、腰に提げている得物を抜剣。
同時に、霧を突き抜けて巨大な熊が現れた。
いや……熊なのか、あれは……?
大きさが左右非対称の前脚。頭部には複数の目玉。腹が縦に大きく裂け、牙と舌が飛び出ている。
明らかに異形の姿だが、ミューレンさんは臆さない。
「ゴルアアアアアァァァッッ──!!」
「────」
咆哮と共に振り下ろされた、巨大な爪。
完全に見切っているのか、ミューレンさんは余裕を持って躱し、熊を足場にして頭上へ跳び上がる。
「剛の太刀・参式──シュート・エテルネル」
頭上から止めどなく落ちてくる滝のように……連撃に次ぐ連撃と、剣技に次ぐ剣技が、怒涛の如く熊の体を斬り刻む。
時間にして数秒。だけど、数えるのも嫌になるほどの剣撃により、熊は声も発さず息絶えた。
「……つよ……」
「ミューさんは、剣技だけなら六華隊でもトップクラスだ」
マジかよ。
呆然と彼女を見ていると、返り血ひとつ付いていないマントをはためかせ、こっちに戻ってきた。
「ミューレンさん。そんなに強いなら、幽霊も怖くないでしょう」
「殺せる魔物と、殺せない亡霊。後者の方が断然怖いです」
「わかる」
ミューレンさんの呟きに、アリュゼさんも深々と頷く。この人たちの基準がわからん。
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