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第26話 サトウ霊廟
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熊型の魔物を倒したミューレンさんはまた怖がりに戻ってしまい、俺の後ろにぴったり張り付いた。アリュゼさんも同様だ。
なんで一番非力な俺が、前を歩いてるんですかね。まあ、肝試しで美女2人に頼りにされてるみたいで、優越感が凄いけど。
さて、改めて霊廟に……ん?
「えっと……あれ、こっちでしたっけ?」
やべ、魔物の戦いに見惚れて、方向がわからなくなった。
ずっと同じ森の景色だから、目印になるようなものもないし……。
「やれやれ……おい男。あっちだよ」
呆れ顔のアリュゼさんが、俺の指した方とは反対を指さした。
「アタシはコウモリだからな。暗闇でも目が聞くし、音で大体の場所を把握できるんだ」
「す、すごいですねっ。そんな能力があったら、暗闇でも大助かりです!」
「そ……そんな褒めんなって、何も出ねーぞ。あ、クッキー食うか?」
「いただきますっ」
べた褒めが嬉しかったのか、にへらと口角を緩めたアリュゼさん。なるほど、こういうタイプの人なのね。
実際、ありがたい。もしランタンの火が消えたら、俺やミューレンさんは動きを制限されるからな。
「イブキ様、イブキ様」
「はい?」
背中を引っ張られて振り返ると、目をキラキラさせたミューレンさんが、超至近距離にいた。「私は? 私は?」とでも言うように。なんか、褒められ待ちの大きな犬みたいで……。
「可愛い」
「ふぇっ!? い、いや、違くて……でも違わないとうか、そのっ……!?」
瞬間湯沸かし器のように、一気に顔を赤くした。あれ、間違った?
「ミューさん、戦いのことを褒められたかったんだと思うぞ」
「あ、そうか」
「それ以上に、お前からの可愛い攻撃の方が嬉しそうだけどな。この人、アタシらからはカッコいいとしか言われねーし」
確かに……普段のミューレンさんは、他の人からしたら圧倒的にカッコいいんだろう。今の戦いだって、実際カッコよかった。
でもそれ以上に……可愛いんだよなぁ、やっぱり。
褒められてニマニマしている2人を連れ、霊廟へと進む。おかげで、恐怖心はだいぶ和らいでくれたみたい。よかった。
そのまま進んで行くと、少しずつ岩石と人工物が増えてきた。
破壊された建物に石像に、コケが生えている。いったい、どれだけの時間放置されてきたのか……。
「もしかしてここ、都市だったんですか?」
「よくわかりましたね。そういう記録も、残っています」
建物の間隔や形からして、明らかに住んでいた感じはするもん。けど時間が経ちすぎているから、当時の生活の様子はわからない。専門家でもないし。
これを考古学者が見たら、大興奮して調査するんだろうな。
「男、見えてきたぞ」
「え?」
滅んだ町並みを見ていると、アリュゼさんが遠くの方を指さした。
「あれが……霊廟……?」
目を見張った。王宮のような外観。周囲を囲む舗装された川。月光の下に咲く花々。その周囲を、色とりどりの蝶々が舞っている。
……全く、壊されていない。それどころか、コケすら生えていない。数百年か、数千年か……当時のまま、完全な形で残されていた。
周りがこれだけボロボロなのに、そんなことありえるのか? 何か、特別な力が関係しているんじゃ……?
「あれが亡霊の守る霊廟……サトウ霊廟です」
「サトウ……え、佐藤?」
聞き覚えのある名前というか、苗字というか……?
「中に安置されている者が、そう呼ばれていたようです。英雄の武器も、そのサトウが使っていたとか」
…………。
「もしかして佐藤って、異世界人?」
「え? いえ、そのような記録はありませんが……」
ふぅむ……じゃあ偶然の一致……か?
「男、なんでそう思うんだよ」
「佐藤って、俺のいた日本では一番多い苗字なんです。だから、もしかしたらと思って」
「ほぉん……確かに、偶然にしちゃできすぎだな。この世界にサトウって奴は、ここの英雄以外に聞いたことがねぇし」
これは……いよいよ、日本人の可能性が出てきたぞ。
もしかしたら、何か手記を残しているかもしれない。どうして俺たちがここに飛ばされたのか、情報があればいいんだが……。
「行きましょう」
「あ、イブキ様、ストップ!」
え?
ミューレンさんが止める前に、霊廟と外界を区切る橋へ足を掛けた。
直後――霊廟から、緑色の光が迸る。地響きが鳴り、静かに流れていた川も大きく揺らいだ。
「な、な、な……!?」
「チッ……! アリュゼ、イブキ様をお護りしろ!」
「うっす、ミューさん!」
2人が俺の前に踊り出て、剣を抜く。
どうすればいいかわからず困惑していると……霊廟が紫色の濃い霧に包まれた。
地響きが止まる。が、気味が悪いくらい静かだ。
……いや……足音……? 行進の音が聞こえる気が……。
ザッ……ザッ……ザッ……。
霧の向こうに、何かが見える。あれは……?
「ヒッ……!」
「で、出やがった……!」
2人の反応を見るに……あれが亡霊か。
全員ボロボロの身なりだが、軍服を着ている。
腕が捥げている者。脚が無く這っている者。頭が半分吹き飛んでいる者。骸骨や腐り掛けの者まで……無数に現れた。
た、確かに……怖い。
『去れ……』
『去れ、侵略者ァ……』
『我ら、英霊を護りし者……』
『命令は絶対』
『去れェ』
虚ろで、生気のない軍隊が剣に手を掛ける。
もしかしてこれ、想像以上にまずい……!?
なんで一番非力な俺が、前を歩いてるんですかね。まあ、肝試しで美女2人に頼りにされてるみたいで、優越感が凄いけど。
さて、改めて霊廟に……ん?
「えっと……あれ、こっちでしたっけ?」
やべ、魔物の戦いに見惚れて、方向がわからなくなった。
ずっと同じ森の景色だから、目印になるようなものもないし……。
「やれやれ……おい男。あっちだよ」
呆れ顔のアリュゼさんが、俺の指した方とは反対を指さした。
「アタシはコウモリだからな。暗闇でも目が聞くし、音で大体の場所を把握できるんだ」
「す、すごいですねっ。そんな能力があったら、暗闇でも大助かりです!」
「そ……そんな褒めんなって、何も出ねーぞ。あ、クッキー食うか?」
「いただきますっ」
べた褒めが嬉しかったのか、にへらと口角を緩めたアリュゼさん。なるほど、こういうタイプの人なのね。
実際、ありがたい。もしランタンの火が消えたら、俺やミューレンさんは動きを制限されるからな。
「イブキ様、イブキ様」
「はい?」
背中を引っ張られて振り返ると、目をキラキラさせたミューレンさんが、超至近距離にいた。「私は? 私は?」とでも言うように。なんか、褒められ待ちの大きな犬みたいで……。
「可愛い」
「ふぇっ!? い、いや、違くて……でも違わないとうか、そのっ……!?」
瞬間湯沸かし器のように、一気に顔を赤くした。あれ、間違った?
「ミューさん、戦いのことを褒められたかったんだと思うぞ」
「あ、そうか」
「それ以上に、お前からの可愛い攻撃の方が嬉しそうだけどな。この人、アタシらからはカッコいいとしか言われねーし」
確かに……普段のミューレンさんは、他の人からしたら圧倒的にカッコいいんだろう。今の戦いだって、実際カッコよかった。
でもそれ以上に……可愛いんだよなぁ、やっぱり。
褒められてニマニマしている2人を連れ、霊廟へと進む。おかげで、恐怖心はだいぶ和らいでくれたみたい。よかった。
そのまま進んで行くと、少しずつ岩石と人工物が増えてきた。
破壊された建物に石像に、コケが生えている。いったい、どれだけの時間放置されてきたのか……。
「もしかしてここ、都市だったんですか?」
「よくわかりましたね。そういう記録も、残っています」
建物の間隔や形からして、明らかに住んでいた感じはするもん。けど時間が経ちすぎているから、当時の生活の様子はわからない。専門家でもないし。
これを考古学者が見たら、大興奮して調査するんだろうな。
「男、見えてきたぞ」
「え?」
滅んだ町並みを見ていると、アリュゼさんが遠くの方を指さした。
「あれが……霊廟……?」
目を見張った。王宮のような外観。周囲を囲む舗装された川。月光の下に咲く花々。その周囲を、色とりどりの蝶々が舞っている。
……全く、壊されていない。それどころか、コケすら生えていない。数百年か、数千年か……当時のまま、完全な形で残されていた。
周りがこれだけボロボロなのに、そんなことありえるのか? 何か、特別な力が関係しているんじゃ……?
「あれが亡霊の守る霊廟……サトウ霊廟です」
「サトウ……え、佐藤?」
聞き覚えのある名前というか、苗字というか……?
「中に安置されている者が、そう呼ばれていたようです。英雄の武器も、そのサトウが使っていたとか」
…………。
「もしかして佐藤って、異世界人?」
「え? いえ、そのような記録はありませんが……」
ふぅむ……じゃあ偶然の一致……か?
「男、なんでそう思うんだよ」
「佐藤って、俺のいた日本では一番多い苗字なんです。だから、もしかしたらと思って」
「ほぉん……確かに、偶然にしちゃできすぎだな。この世界にサトウって奴は、ここの英雄以外に聞いたことがねぇし」
これは……いよいよ、日本人の可能性が出てきたぞ。
もしかしたら、何か手記を残しているかもしれない。どうして俺たちがここに飛ばされたのか、情報があればいいんだが……。
「行きましょう」
「あ、イブキ様、ストップ!」
え?
ミューレンさんが止める前に、霊廟と外界を区切る橋へ足を掛けた。
直後――霊廟から、緑色の光が迸る。地響きが鳴り、静かに流れていた川も大きく揺らいだ。
「な、な、な……!?」
「チッ……! アリュゼ、イブキ様をお護りしろ!」
「うっす、ミューさん!」
2人が俺の前に踊り出て、剣を抜く。
どうすればいいかわからず困惑していると……霊廟が紫色の濃い霧に包まれた。
地響きが止まる。が、気味が悪いくらい静かだ。
……いや……足音……? 行進の音が聞こえる気が……。
ザッ……ザッ……ザッ……。
霧の向こうに、何かが見える。あれは……?
「ヒッ……!」
「で、出やがった……!」
2人の反応を見るに……あれが亡霊か。
全員ボロボロの身なりだが、軍服を着ている。
腕が捥げている者。脚が無く這っている者。頭が半分吹き飛んでいる者。骸骨や腐り掛けの者まで……無数に現れた。
た、確かに……怖い。
『去れ……』
『去れ、侵略者ァ……』
『我ら、英霊を護りし者……』
『命令は絶対』
『去れェ』
虚ろで、生気のない軍隊が剣に手を掛ける。
もしかしてこれ、想像以上にまずい……!?
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