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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第十章・開眼式典開幕8
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人間界の山間に魔界の軍旗がはためいていた。
魔界の軍勢は遺跡一帯を見渡せる丘に陣を張ったのである。
ハウストは腕を組んで丘に立ち、人間界の連合軍が総攻撃を仕掛けたのを見ていた。
「やはり地下には届いていないようだな」
総攻撃を受けた遺跡一帯はもうもうと砂埃が舞い上がるが、攻撃が地下まで届いている様子はない。
地上の遺跡は瓦礫と化して周囲の街や村も破壊されたが、今の攻撃では地下通路すら破壊することは難しいだろう。
神殿の地下自体が頑丈な造りになっていることもあるが、なにより勇者の防壁が発動している。地下では魔力すら使えなくなっているのだ。現在、イスラとゼロスが教団内部に侵入しているが地下ではあの二人でさえ魔力発動は不可能だろう。
だからといって、今ハウストが仕掛けることは出来ない。理由は二つ、神殿の地下にはブレイラが囚われているということと、もう一つは同胞の魔族がまだ地下の最深部から救出されていないからである。
本当はハウストも今すぐイスラ達のように地下に向かいたかったが、魔王として軍を指揮して同胞を助けなければならない。
ハウストは静かに連合軍の総攻撃を見ていたが、その時。
――――ピカリッ!
遺跡の奥にある神殿が光ったと思った、次の瞬間。
光の衝撃波が広がり、連合軍の前線部隊や周辺の街や村さえも飲み込む。
そして次に襲って来たのが音を置き去りにする猛烈な爆発と爆風だった。
ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
全ては一瞬である。
「勇者の力を使いだしたか」
ハウストがいる丘の近くまで更地になった。
魔界の軍旗やハウストの外套が爆風ではためく。
魔王ハウストは腕を組んで微動もしないが、丘の木々が反りかえって根こそぎ飛んでいった。
これが勇者の力。目の当たりにした人間たちに動揺が走る。
だがそうしている間にも、また神殿がピカリッと光った。第二波である。
しかし。
「不快だ。ブレイラが悲しむだろ」
ハウストが右手を前に出した。
すると光の衝撃波が停止し、ハウストの手中に急速に集約して点となる。そのまま強く握り潰して消滅させた。それは一瞬のこと。
そう、四界の王である勇者の力に対抗できるのは同格の王のみ。
ハウストは不機嫌に目を据わらせる。
非常に不快だった。ブレイラはイスラをとても大切に思い、勇者の宿命に胸を痛めることがある。それなのに勇者の力がこんなことに使われたと知ったら悲しむではないか。
ふと、特殊部隊兵士が本陣に姿を見せた。
兵士はハウストと控える将校級に最敬礼する。
「魔王様、ご報告です」
「なんだ」
「特殊部隊より任務完了報告が入りました。地下最深部で囚われていた者達の救出が完了いたしました。薬を使われて錯乱状態の者もおりましたが眠らせて連れ出し、今は治療にあたっております。しかしながら、みずからの意志で教団を信仰した者のなかには救出を拒んだ者もおり、連れ帰ることは叶わず……」
「ご苦労だった。自分の意志で教団に残った者はそのままでいい。俺に剣を向けてこようと、それがみずからの意志なら受けて立つまでだ。薬を使われていた者の治療はフェリクトールの指示を聞け。イスラに協力して解毒剤の開発に関わっている」
「はっ、承知いたしました」
兵士が報告を終えて立ち去った。
ハウストはまた神殿に視線を戻す。
教団が勇者の力を使いだしたが、意に沿わぬまま教団に囚われていた同胞の救出は完了した。
そう、ハウストはこれを待っていた。
教団に囚われた同胞を放っておくことはできない。その為、魔界の特殊部隊と精霊界の部隊が共同で救出作戦を決行していたのだ。
しかし特殊部隊がブレイラを救出することは難しい。ブレイラは魔界の王妃という利用価値の高さから危害を加えられることはないが、最も危険な位置に置かれる筈だからだ。
ハウストは神殿を見据えて命じる。
「魔法部隊二部隊を配置し、いつでも防壁を発動できるように準備しておけ! 陸軍と精鋭部隊を遺跡周辺に展開しろ!」
「はっ、直ちに!」
「承知いたしました!」
命令を受けて上級士官たちが動きだした。
神殿を睨んだままのハウストの後ろに、陸軍将軍と大隊長の三人が起立して控えた。
「俺はここを離れる。おそらく教団は勇者の力を使って禁術を完成させようとするだろう。お前達は教団から目を離すな」
ハウストはそう命じると踵を返して歩きだした。
教団は禁術を完成させようとするだろう。イスラとゼロスが地下神殿に侵入しているが、ハウストもここで黙って見ているつもりはない。ブレイラは魔王の妃、自分の手で取り戻したいのだ。
◆◆◆◆◆◆
魔界の軍勢は遺跡一帯を見渡せる丘に陣を張ったのである。
ハウストは腕を組んで丘に立ち、人間界の連合軍が総攻撃を仕掛けたのを見ていた。
「やはり地下には届いていないようだな」
総攻撃を受けた遺跡一帯はもうもうと砂埃が舞い上がるが、攻撃が地下まで届いている様子はない。
地上の遺跡は瓦礫と化して周囲の街や村も破壊されたが、今の攻撃では地下通路すら破壊することは難しいだろう。
神殿の地下自体が頑丈な造りになっていることもあるが、なにより勇者の防壁が発動している。地下では魔力すら使えなくなっているのだ。現在、イスラとゼロスが教団内部に侵入しているが地下ではあの二人でさえ魔力発動は不可能だろう。
だからといって、今ハウストが仕掛けることは出来ない。理由は二つ、神殿の地下にはブレイラが囚われているということと、もう一つは同胞の魔族がまだ地下の最深部から救出されていないからである。
本当はハウストも今すぐイスラ達のように地下に向かいたかったが、魔王として軍を指揮して同胞を助けなければならない。
ハウストは静かに連合軍の総攻撃を見ていたが、その時。
――――ピカリッ!
遺跡の奥にある神殿が光ったと思った、次の瞬間。
光の衝撃波が広がり、連合軍の前線部隊や周辺の街や村さえも飲み込む。
そして次に襲って来たのが音を置き去りにする猛烈な爆発と爆風だった。
ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
全ては一瞬である。
「勇者の力を使いだしたか」
ハウストがいる丘の近くまで更地になった。
魔界の軍旗やハウストの外套が爆風ではためく。
魔王ハウストは腕を組んで微動もしないが、丘の木々が反りかえって根こそぎ飛んでいった。
これが勇者の力。目の当たりにした人間たちに動揺が走る。
だがそうしている間にも、また神殿がピカリッと光った。第二波である。
しかし。
「不快だ。ブレイラが悲しむだろ」
ハウストが右手を前に出した。
すると光の衝撃波が停止し、ハウストの手中に急速に集約して点となる。そのまま強く握り潰して消滅させた。それは一瞬のこと。
そう、四界の王である勇者の力に対抗できるのは同格の王のみ。
ハウストは不機嫌に目を据わらせる。
非常に不快だった。ブレイラはイスラをとても大切に思い、勇者の宿命に胸を痛めることがある。それなのに勇者の力がこんなことに使われたと知ったら悲しむではないか。
ふと、特殊部隊兵士が本陣に姿を見せた。
兵士はハウストと控える将校級に最敬礼する。
「魔王様、ご報告です」
「なんだ」
「特殊部隊より任務完了報告が入りました。地下最深部で囚われていた者達の救出が完了いたしました。薬を使われて錯乱状態の者もおりましたが眠らせて連れ出し、今は治療にあたっております。しかしながら、みずからの意志で教団を信仰した者のなかには救出を拒んだ者もおり、連れ帰ることは叶わず……」
「ご苦労だった。自分の意志で教団に残った者はそのままでいい。俺に剣を向けてこようと、それがみずからの意志なら受けて立つまでだ。薬を使われていた者の治療はフェリクトールの指示を聞け。イスラに協力して解毒剤の開発に関わっている」
「はっ、承知いたしました」
兵士が報告を終えて立ち去った。
ハウストはまた神殿に視線を戻す。
教団が勇者の力を使いだしたが、意に沿わぬまま教団に囚われていた同胞の救出は完了した。
そう、ハウストはこれを待っていた。
教団に囚われた同胞を放っておくことはできない。その為、魔界の特殊部隊と精霊界の部隊が共同で救出作戦を決行していたのだ。
しかし特殊部隊がブレイラを救出することは難しい。ブレイラは魔界の王妃という利用価値の高さから危害を加えられることはないが、最も危険な位置に置かれる筈だからだ。
ハウストは神殿を見据えて命じる。
「魔法部隊二部隊を配置し、いつでも防壁を発動できるように準備しておけ! 陸軍と精鋭部隊を遺跡周辺に展開しろ!」
「はっ、直ちに!」
「承知いたしました!」
命令を受けて上級士官たちが動きだした。
神殿を睨んだままのハウストの後ろに、陸軍将軍と大隊長の三人が起立して控えた。
「俺はここを離れる。おそらく教団は勇者の力を使って禁術を完成させようとするだろう。お前達は教団から目を離すな」
ハウストはそう命じると踵を返して歩きだした。
教団は禁術を完成させようとするだろう。イスラとゼロスが地下神殿に侵入しているが、ハウストもここで黙って見ているつもりはない。ブレイラは魔王の妃、自分の手で取り戻したいのだ。
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