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しおりを挟む実の孫がいるかもしれないと知った母は、まだ確定してもいないのに先のことを考えている。
「リザベルさんは、自分の手元で子供を育てたいと言ったのよね?」
「ええ。15歳くらいまではそうしたいと言っていました。ここで育てるとなるとアイリスが母親ということになるが、夫の浮気相手が産んだ子を育てたくはないだろう、とも。」
「そうね、そうかもしれないわ。大きくなってからの方がアイリスにとってもいいわね。
一緒に暮らせないなんて、悲しいわ。残念だわ。でも仕方のないことよね。
じゃあ、こちらから教育係を送るということ?私も会いに行ってもいいかしら。」
母はもう、カイルを認知する気でいるらしい。
まだカイルに会っていないというのに。
「息子と確定すればそうなるでしょうが、アイリスにはどの時点で話すべきでしょうか。
カイルを息子として認知した時点か、15歳で引き取るまで素性を隠すか。
私がカイルに会いに行っているつもりでも、傍から見れば愛人の元に通っているように見えるでしょう。
ならば、認知した時点で伝えた方が理解されるのではないかと思うのですが。」
内心ではベルとカイルのことをアイリスに知らせたくはない。
だが、秘密にするにも限界はある。
他者からアイリスの耳に入るよりも、ディーゼルの口から言うべきではないかと思っている。
「お前、彼女を愛人にする気はないのか?」
父の言葉にディーゼルは驚いた。
まるで、愛人を容認するように聞こえたからだ。
父も、一夜の浮気程度は何度かあるだろう。
だが愛人を持ったことはなかったはずだ。
祖父の愛人問題に振り回された父は、『分別のある愛人を見極めないと妻と修羅場になる』と学んだらしく、ディーゼルが女の体を知った時も『相手は選ぶように』と忠告をした。
もちろん、手短にいる令嬢を抱くような愚かなことはしたことがない。
「カイルができたのだから、リザベルさんとならまた子供ができるかもしれないわね。」
母までベルを愛人にすることを望んでいるのか?
「しかし、愛人を持てばアイリスのプライドを傷つけるでしょう。」
アイリスは子供ができないのはディーゼルのせいだと思っている。
ディーゼルがベルを愛人をし、しかもまた子供を産ませるとなると許せるはずもない。
カイルだけであれば親族の子だと誤魔化せるかもしれないが、弟妹がいれば、ディーゼルの愛人が産んだのだと気づかれるだろう。
そうなると、不妊の原因はアイリスにあったと知られることになる。
プライドの高いアイリスの癇癪を受け止めるのも耐え難いほどになりそうだ。
「だが、リザベルがうちの親族ではない時点で、カイルがお前の実子だと気づかれるだろう。そうなればリザベルは愛人と思われて当然だ。彼女がそう思われたくないのであれば、カイルをうちに渡すべきだ。
どうしてもカイルを手元で育てたいのであれば、お前の愛人になることを受け入れさせればいい。
そしてアイリスがどう言おうと、これはヘミング侯爵家の血筋の問題だ。文句があるなら離婚して出て行けばいい。」
父はアイリスを気遣うことをやめる気らしい。
不妊の原因がアイリスだとわかり、強く出る気になったようだ。
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