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しおりを挟む結婚相手は誰なのか、とリザベルに聞くと彼女は困った顔になった。
「……相手はいないわ。結婚していないの。」
カレンは驚愕した。隣に座っている母もだろう。
「未婚の母よ。」
リザベルは、それでも幸せそうにそう言った。
「子供の父親とは一緒になれなかったの?」
「ええ。あの人が悪いわけじゃないの。私が勝手に産んだだけよ。」
少し、ホッとした。
誰も知らない男に襲われて身籠ったことも想像したから。
「え……勝手にって、まさか子供がいることを相手の人は知らないの?」
「ふふ。そうね。今はもう結婚しているし。」
婚約者がいる人と恋人関係になっていたってこと?
多分、16歳で妊娠して17歳で産んでいるはず。
リザベルの結婚どころか、婚約者がいるという話も耳にしたことがなかった。
オックス伯爵は妹の婚約や結婚を考えていなかったのに、学園にも通わせていなかった?
なんだか、変。
「伯爵家に住んでいるのよね?」
「ううん。14歳であそこを出たの。母方の祖母と暮らしていたわ。少し前に亡くなってしまったけれど。」
「え!?もしかしてオックス伯爵令嬢ではないってこと?」
「ええ。カイルを妊娠したと知らせた時に伯爵家からは籍を抜かれたわ。」
そうなるわよね。
あれ?でも子供ができたときに籍を抜かれたの?
「じゃあ、どうして学園には通っていなかったの?まだ伯爵令嬢だったわよね?」
学園は15歳から。
祖母と暮らしていても通えたはずなのに。
「それは私が兄に疎まれていたからよ。両親が亡くなってからずっと兄夫婦に部屋に閉じ込められて、嫌がらせをされて暮らしていたの。祖母が連れ出してくれたけれど、保護者は兄のままだったの。だから学園には通わせてもらえなかったわ。」
オックス伯爵が閉じ込めていた?
母がふと思い出したように言った。
「そう言えば、前オックス伯爵夫妻は長男に手を焼いていると言っていたことがあったわ。伯爵夫妻がお亡くなりになられて少ししてから、うちとの事業の繋がりも切られてしまって、今の伯爵のことは存じ上げなかったけれど。」
リザベルを閉じ込めていることを気づかれないように、詮索されないように、手紙だけでなく事業まで切ったという風に感じられた。
「じゃあ、今は平民ってこと?」
それにしては、侍女(乳母?)もいるし、身に着けている物もそれなりにいいものに見える。
「いえ、祖母が嫁ぐ際に実家から与えられた子爵の身分を私がいただいたの。」
今は、リザベル・マシェーリ子爵らしい。
爵位だけでなく、家も財産も受け継いだので、日常生活に不便はないという。
「内緒にしてね。お兄様には知られたくないから。」
未婚の母になる妹を伯爵家の籍から抜いて平民にしたのに、実は貴族の身分で暮らしには困っていないと知られると何をされるかわからないからということだった。
「わかったわ。ねぇ、リザベル。ヘミング侯爵家のディーゼル様って知ってる?」
カレンはリザベルの反応を確かめようとして、唐突に聞いた。
彼女は不意打ちに驚いたのか硬直し、それで確信を得た。
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