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しおりを挟む数日後、手続きのためにベルの叔父にあたるサイラスという男をヘミング侯爵家に呼んだ。
サイラスはベルを見て、いきなり怒鳴りつけた。
「リザベルっ!お前は全く連絡も寄越さず、ずっと心配していたんだぞ!!」
「ごめんなさい、叔父様。迷惑をかけたくなくて。」
「前カトレス伯爵夫人にお前を任せたっきりになってしまい申し訳なかったが、まさかあの方まで亡くなっていたとは。一人になったのならコッソリ領地で匿ってやったものを。」
「一人じゃないわ。息子がいたから。」
「デリックが未婚で妊娠したお前の籍を抜いたと言っていたが子供がいるのは事実なんだな。」
「ええ。カイルっていうの。叔父様、ヘミング侯爵夫妻がお待ちになっているの。お話はまた後で。」
「そうだった。ひとまず元気そうなお前を見て安心したよ。」
ベルとサイラスのやり取りを少し離れたところで見ていたディーゼルは、ベルのことを心配してくれている親戚がいたのだと少しホッとした。
ベルの義父になるサイラスに、挨拶をした。
「初めまして。ヘミング侯爵家嫡男ディーゼルと申します。リザベルとカイルのことは私が守っていきますのでご安心ください。」
「よろしくお願いします。」
サイラスはディーゼルに深々と頭を下げた。
彼はベルを守れなかったことで負い目を感じているようだ。
両親の待つ応接室に案内し、ベルがサイラスの養子になる手続き、サイラスがオックス伯爵になる届け出、そしてディーゼルとベルの婚姻届の全てにサインし終えた。
「今になって伯爵になるとは思いもしませんでした。王都を離れて長いですし。」
サイラスは苦笑してそう言った。
「リザベルの兄デリックは伯爵になっても何もせず、あなたがオックス伯爵領を守ってきたと聞いています。伯爵家が落ちぶれなかったのはあなたの功績と誇ってください。何か困ったことがあれば頼ってくださって構いません。」
「感謝いたします。」
父の言葉にサイラスはホッとしたようだ。
爵位は父のほうが上だが、年齢はサイラスの方が上らしい。
サイラスの息子もディーゼルよりも年上だというから、息子が伯爵位を継ぐのも遠くないだろう。
「リザベルをデリックから守っていただき、ありがとうございました。アイツはどうしてあんなに歪んでしまったのか。
兄夫婦が亡くなり、リザベルを領地に連れ帰りたかったのですが、リザベルを連れて行くなら領地から出て行くように言われ、領地管理をアイツに任せれば領民が大変な目に合うのがわかりきっていたため、リザベルを守ることを諦めました。本当に申し訳なかった。」
領民と姪では、領民を選ぶのが貴族として正しい。
「叔父様が謝ることではないわ。それに、お祖母様に知らせてくれたから兄と離れられたもの。感謝しています。」
ベルは微笑みながらそう言った。
サイラスは、ベルの母方の両親のうち、父親が亡くなったことで母親は隠居暮らしになると思い、ベルの近況を知らせ、助けを求めたらしい。
ベルの祖母は、カトレス伯爵家を出て、ベルと住むことを選んだ。
サイラスは十分、ベルを守ってくれたと思う。
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