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しおりを挟むベルの叔父、新たなオックス伯爵となるサイラスは、昼寝から目覚めたカイルに会った。
「初めまして、カイル。君のお祖父様だよ。」
ベルの義父となったのだから、カイルは孫だと思ってくれているらしい。
「おじーしゃま、ふたり!?」
祖父がもう一人現れて、カイルは驚いたらしい。
嬉しいのか、目を輝かせている。
「お祖母様も、いるよ。カイルに会えたら喜ぶだろう。今度、遊びにおいで。」
夫人は領地から王都に来た疲れで休んでいるらしい。
数日かけて馬車で移動するには辛い年齢だから仕方がない。
早く手続きを終えたくて、急かすように呼んだこちらが悪かった。
「叔父様、兄の子たちはどうなったのでしょうか?」
「あぁ、あの子たちは母親の実家に送り届けた。両親が身分剥奪されたことで彼らも平民だ。それでも弁えた子たちであれば大きくなるまで面倒を見ようかと思ったが、あれはダメだ。デリックそっくりだ。」
ベルの兄デリックの子は、上が11歳で下が9歳になっている。
親を見て育った二人は横柄な態度だったらしい。
「孤児院よりも母親の実家がいいと言うから、その通りにしてあげただけだ。あの子たちとは絶縁したから、もうオックス伯爵家とは無関係だ。」
サイラスには罪人となった甥の子たちの面倒を見る必要はない。
不憫に思い、平民として生きていけるようになるまでは世話をしてやろうと思っても、子供たちが受け入れなければ意味がない。
11歳と9歳なら、両親が悪いことをして平民になったので子供である自分たちも平民になったのだと言えばわかるだろうに、『俺が今から伯爵だ!』と偉そうに大人に命令する姿を見て、サイラスは矯正不可能と判断したようだ。
領地の孤児院に行くか、母親の実家に行くか。
そう聞いたところ、母親の実家に連れて行けと嬉しそうに命令したという。
「サフィニア様って実家と仲が良かったかしら?」
ベルは首を傾げている。
ベルの記憶によると、かつての義姉は実家と疎遠だったようだ。
「あぁ、ルベル伯爵はここ何年か、デリックに金を借りていたらしい。それを知らない子供たちは、優しい祖父母の家に行けば可愛がってもらえると思ったんじゃないか?」
孫を孤児院に入れるのは体裁が悪い。
かと言って、息子の養子にして貴族に戻したところで価値もなければ、金がかかるだけだ。
おそらく、子供たちは使用人としてタダで働くことになるのではないか。
平民となった彼らが身の回りのことを自分でできるようにするために、そして、一通りの仕事を身に着けさせるために働かせる代わりに衣食住の面倒を見ていることにすれば、賃金を払わずに済む。
まぁ、無賃金の大切な労力なのだから虐待はされないだろう。
反抗的な態度をとらない限りは、おそらく。
『結婚おめでとう。幸せになれ』
そう言って、サイラスは帰って行った。
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