【完結】 婚約破棄された弱小令嬢の仕返し

碧井 汐桜香

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「ルリアーナ嬢!? どうしたんだ。その格好は」

「あ、アストライオス様。おはようございます。その、制服が汚れてしまいまして……」

 登校する生徒の波が落ち着いた頃、馬車付き馬に着いたルリアーナがこそこそと馬車から降りると、ちょうど馬車から降りてきたアストライオスがルリアーナに声をかけた。苦笑して返答するルリアーナに、アストライオスが顔を顰めた。

「それに、怪我は治してから家に帰したはずなのに、怪我で欠席と聞いたぞ? 大丈夫なのか?」

 服の裾から見える包帯を見て、アストライオスが顔をしかめた。

「なぜ怪我が増えている? ……制服も準備してやるからついてこい」

 そう言って、強引に、しかし優しくルリアーナの手を引いて、アストライオスは馬車に戻ったのだった。







⭐︎⭐︎⭐︎
「入るぞ?」

 ピンパール公爵家でメイドたちによって手当てされ、ルリアーナがちょうど制服に着替えさせられたところで、優しくドアがノックされた。

「あ、アストライオス様。制服をお借りしてしまって申し訳ございません」

 ルリアーナが頭を下げると、アストライオスは表情も変えずに言った。

「それはルリアーナ嬢のサイズに合わせて準備してある。予備の分と合わせて受け取ってくれ」

「そ、そんな! 受け取れません!」

 慌てたルリアーナにアストライオスは優しく微笑んで言った。

「マルシュアも着られないし、私の個人資産から出しているから私が好きなように使って問題ない。むしろ使い所がなくて困っていたんだ。恩を感じてくれているのなら、何も言わずに受け取ってくれ。私たちが資金を循環させることで、国民が潤うのだから」

 ちょうどルリアーナたちが学んだばかりの経済と貴族の関係についての単元の内容を出され、ルリアーナは困ったように笑うのだった。

「ありがとうございます。では、いつか何らかの形で恩返しさせてください」

「あぁ、楽しみにしている。……しかし、あの女は想像以上だな。これから学園に向かうが、私が一緒じゃない方がいいだろう。馬車を二台準備させよう。それとこれ……受け取ってもらえるか?」

 アストライオスがいつの間にかルリアーナに握らせていた小箱には、輝くブレスレットが入っていた。

「魔術具だ。君の安全を守るものだ。私が作ったものだから、動作は保証しよう。必要だと思った時にここを撫でると周囲の状況が音声付きで記録される」

 ルリアーナが開けた小箱からブレスレットを取り出したアストライオスは、ルリアーナの腕につけながら操作を説明した。

「私が君と関わることであの女の暴走が悪化するかもしれない。このような形でしか力になれないが、君のことをいつも思っている者がたくさんいることを忘れないでいてほしい」

「アストライオス様……ありがとうございます。そういえば、毒薬にお詳しいですか? 食事に毒が入っていないか見分ける方法を教えていただきたくて……」

「食事に毒まで!? そこまで腐ったのか、シジャール……。なんでもない、毒薬が入っていないか見分ける魔術具にちょうど余りが出ているから、持って行きなさい」

「まぁ! ありがとうございます!」



 いつかのために、それからルリアーナはシジャールやフィラルディーア、ダンテ伯爵家での暴力や虐待を記録するのであった。たまに差し仕入れられるようになった食事も安全に取れるようになったのだった。



「なんですって!? ルリアーナがあの女にまた怪我をさせられたですって!?……もうわたくし許せませんわ! 奥の手を使ってやりますの!」

 息巻くマルシュアを残しながら。
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