【完結】 婚約破棄された弱小令嬢の仕返し

碧井 汐桜香

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「ルリアーナ・サントス。ここに出てこい」

 学園の全生徒の集う朝礼で、シジャールが突然声をあげた。教師たちが注意しようとするのをデシャンティ先生が止めてシジャールに問うた。

「ダンテ伯爵令息。何があったのだ」

「デシャンティ先生、聞いてください! ルリアーナ・サントス男爵令嬢は男爵令嬢の身でありながら、私のディーをいじめたのです」

「……そういうことは家庭内でやりなさい。婚約者として同じ屋敷に住まわせているのだろう? それとも学内での問題行動を訴えているのか? 私の元にはそのような報告はきていないが?」

 ため息をついて腕を組んだデシャンティ先生に、シジャールが反論した。

「いや、我が屋敷の敷地に住んでいますが、同じ屋敷ではありませんよ! ディーをあんな男爵令嬢と同じ空間にいさせるなんてするわけがないじゃないですか!」

「屋敷でない……? ならば、サントス男爵令嬢はどこに住んでいるのだ? 男爵家といえども、別の貴族の令嬢をお預かりしているのだろう?」

 首を傾げたデシャンティ先生が、ルリアーナに声をかけて答えさせた。

「サントス男爵令嬢。君はどこに住んでいるのだ?」

「はい。わたくしは以前庭師の方が使っていた小屋を一つ借りております」

 ルリアーナが違和感もなくそう答えると、生徒たちがざわりと騒いだ。シジャールがルリアーナを睨みつけるが、ルリアーナが気がつく前にアストライオスが座る姿勢を変えるようにして、ルリアーナの視界からシジャールがうつらないように位置を変えた。

「令嬢を使用人の小屋に?」
「庭師の使う小屋に他家の令嬢を?」
「使用人が入りきらないじゃない」

「あ、庭師の方が使っていたので、畑も併設されておりますから、食事もきちんととれていますし、問題ありませんわ」

 生徒たちの様子を見て慌てたルリアーナがにっこり笑って付け加えると、より一層騒ぎが大きくなった。ルリアーナはその様子を見て首を傾げた。


「ありえませんわ! 食事を与えないなんて、虐待じゃないの!?」
「この口ぶり、サントス男爵令嬢が自分で食事の準備をしているってことじゃないか!」
「ダンテ伯爵家って、他家のご令嬢に食事も与えられないくらい困窮しているってこと!?」

「……静粛に。後ほど陛下に報告しておく。ダンテ伯爵家は令嬢の虐待行為に以後気をつけるように」

「いや、あの、きちんと使用人はつけています!」

 慌てたシジャールが付け加え、フィラルディーアも胸に手を当てて立ち上がって言った。

「そうですわ! それに、今回お義兄様が言ったルリアーナさんのわたくしへの問題行動は、学園でも起きておりますの! わたくし、こわくってこわくって……」

 目を潤ませたフィラルディーアに、一部の男子生徒が同情をみせ、女子生徒は冷たい表情を向けた。フィラルディーアは目を潤ませながらルリアーナを睨みつけるという器用な技を見せた。

「フィラルディーア様がいじめられてるって……可哀想だよな」
「家族から引き離されて、食事も使用人も与えられなかったら、暴れたくもなりますわ」
「またあの女、同情を引こうとしているわ」

「サントス男爵令嬢。使用人はついているのか? どんな使用人がついているのだ?」

「はい! 門番と下級メイドが一人ずつ、ついてくれていますわ。二人とも大変そうですが……」

 笑うルリアーナに、デシャンティ先生は絶句し、生徒たちの騒ぎも大きくなった。

「やはり、ダンテ伯爵家には余裕がないのでは?」
「下級メイドって……掃除婦や洗濯係でしょう? わたくし、あまり話したこともないわ」
「門番って……」

「……これは正式に陛下に話しておく。ダンテ伯爵令嬢への学内での問題行動は、こちらで一度調査することにする。以上を以て解散だ。……ダンテ伯爵令息、ダンテ伯爵令嬢はこちらに残りなさい。事実関係が確認できるまでルリアーナ嬢はダンテ伯爵家に帰らない方がいいな……今すぐ一度荷物を取りにいって、その後は……」

「はい! 先生。わたくしの屋敷でお預かりいたしますわ!」

 喜んで手を上げたマルシュアに、アストライオスが眉間を押さえた。

「マルシュア!」

「いいでしょう? お兄様! お父様もお母様もルリアーナのことをとても気に入っていたもの!」

「はぁ……マルシュアとルリアーナ嬢は友人同士らしいので、我が家で引き受けます」

 フィラルディーアの前だからか困った様子を崩さず、アストライオスは承諾したのだった。そんなアストライオスの様子を見て、フィラルディーアはルリアーナを鼻で笑い、嘲笑を含んだ表情を見せるのだった。
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