いちばん好きな人…

麻実

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初めての旅行

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道行く人にダウン姿が増えた頃
「雪子さん、温泉に行かないか?」
隆道から誘いがあった。

ふと、夫が出雲に女と旅行に行ったことが頭をよぎる。けれど、すぐにそんな気持ちを押しやった。
「素敵ね。私、温泉に行ったことないわ」
「そうなの?じゃあ、温泉デビューだね。行き先を考えておくよ」
隆道は嬉しそうに答えた。



雪子と隆道は、豊橋に程近い駅に降り立った。

東京から2時間近く新幹線と在来線を乗り継いだ。こんなに遠く迄旅行するのは修学旅行以来だ。

新幹線ではビールを買いに行く隆道
が、雪子の為にコーヒーを買ってきた。
飲み終わった後のごみも捨てに行く。
スーツケースも段差がある所ではさっと持つ。
海外生活が長いだけではない、優しさを感じた。

何気無く、旅館に行くシャトルバスに乗る人達を見ていると
家族の物であろう女物の手荷物も抱えている男性が多いことに気が付いた。
小柄な雪子が重い荷物を持っていようと手を貸すこともなかった夫。

夫に愛されて居なかったことが、身に沁みた。

⭐⭐


二泊する温泉宿では、廣いロビーで食事処の説明を受けた後、露天風呂付きの部屋に案内された。
「まあ! 素敵ね」
「うん、まあ寒いから、先ずは大浴場だね」

ふたり共に観光に興味がない。なので翌日も温泉三昧、昼寝をし、ゆったりと過ごした。
せっかくの露天風呂だったが、明るい所で裸を晒す勇気がない雪子同様、シャイな隆道も一緒に部屋の露天に入ろう、とは言わず結局使うことはなかった。

「僕らに露天は少々ハードルが高かったね」

そんな隆道が、只、好ましかった。


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