ai -Iと蛇-

みやの

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第1章

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「しくった……っ、場所ぐれぇ聞きゃ良かったっ……」

ゼェゼェと肩で息をし、学校に着いた由伊は靴を履き変えないまま探し回る。

空き教室って言ってたよな……人が来ないような、空き教室……もしかして……。

1カ所だけ思い当たる場所があった。
呼吸が乱れ肺が痛むが、また走り出す。動かし過ぎた足が震える、けど、そこに居るかもしれない傷ついた想い人を救いださなくてはいけない。

世界で1番大切な彼を。

再び駆け出して、特別棟の3階の1番奥、光も当たらないような暗い場所にある、空き教室。

たしか今はもう、壊れた椅子や机があるだけのはず。

あたりをつけた由伊はその教室の前に立ち止まり、耳を澄ます。

「………………っあ」

少しだけ、こぼれてくる濡れた声。苦しそうに掠れたその声と、僅かに聞こえる布の擦れる音で確信した。

躊躇なく思い切り、施錠されたドアを蹴破った。

「宮村!!」

怒鳴り込むと、「は!?」と驚いた声を出し彼に跨っていた男が由伊を見た。

「よォ、 

由伊は、律にまたがっていた男の胸ぐらを掴み壁に押し付ける。

素行不良で生徒会と風紀の間で度々名前が上がっていたが、まさかこんな形で影響してくるとは思わなかったな。

「……な、お前、誰だよ」

由伊は、尚も強気で反抗してくる男の腹を思い切り蹴り上げた。男は呻き声をあげて動きが鈍る。

次はどうしてやろうか、と思いながら近づいたその時、視界の端でぶるぶると震える律が目に入り、由伊はハッと我に返る。

「宮村!」

慌てて駆け寄り、自分を抱き締めて震える律を抱き起こそうと手を伸ばすと、バシンッと思い切り振り払われた。

「……宮村?」

彼の様子がおかしい。

「ねぇ、宮む……」
「こないで……!」

びくり、と身体を震わせて由伊から離れようとする。
脱がされた服を抱き締めて、怯えている。
由伊は努めて優しく声を出した。

「……宮村、俺だよ、由伊だよ」
「……しらない」

「……律くん、由伊だよ」
「やだ……」

律は、幼い子供のようにいやいやと首を横に振る。
既にカツラギは逃げ帰っていた。まあアイツのあとで絞めるから良いとして。

どうしたものかと、律にゆっくりと近づく。

「律くん、由伊だよ、もう律くんを傷つける人はいないよ」

律は、自分の耳を抑えて震える。
顔を覗き込むと、その両目からはボタボタと涙が溢れていて呼吸もかなり乱れていた。

やばいな、このままじゃ過呼吸になるかも……。
少々荒療治だとは思ったが、由伊は律の腕を掴み無理矢理抱き寄せた。

「や、やだっ!!はなして!!いやっ!!」

愚図る子供のように嫌だ嫌だ、と泣き喚く。

「いやっ、ひゅっ、ゲホッゲホッ」
「律くん、大丈夫。ぎゅってするだけだよ、ほら、あったかいでしょ?」

ぎゅうっと、力強く抱き締めて背中を撫でてやる。
辛うじてワイシャツは来ていた為、シャツ越しに背中を撫でた。
撫でる度に、背骨がボコボコしているのが分かる。

骨と皮じゃん。
こんな体でずっと耐えていたなんて……。

持っと早く気づけなかった自分と、愛おしいものを穢された事に腸が煮えくり返る思いだった。

だが今は腕の中で震える彼を、何とかしなくてはいけない。

「律くん、律くん」
「……ひぐっ」

混乱しているのかぐすぐすと泣き続ける律に、由伊は話し掛けた。

「律くん、俺、オムライス好きなんだよ」
「……ひゅ、けほっ、けほっ」
「お腹空かない?」

優しく話しかけると、恐る恐る律が顔を上げた。
くりくりの黒目がちの瞳が、由伊をしっかりと捉える。

涙でキラキラしている。泣いたから鼻がちょっと赤い。

赤くなった唇が、遠慮がちに小さく動いた。

「………………ぃ」

声が小さくて聞こえない。
優しく微笑んで「ごめん、もっかい言って?」と言うと律は、顔を歪めてまたボロボロと泣き出してしまった。

「こわいぃ……!いたい、いたい、やだぁっ!!」

わんわんと泣き出す律を、よしよしと宥める。

「律くん、何が怖いの?どこが痛い?教えて?」
「……ひぐっ、くらい、こわい、ぜんぶ、……っ、いたい、……ぐすっ」

由伊は自分に縋りついてえぐえぐ泣きじゃくる律の小さな頭をゆっくりと撫でて、優しく声をかける。 

「大丈夫。そうだよね、怖いよね。痛かったよね。じゃあ、こんな所出て俺ん家に行こうか、ね?」
「……ぐすっ、ゆい、のいえ……?」

律はぽろぽろ涙をこぼしながらも、その存在が自分を傷つけない人間だと認識する為なのか、しっかりと由伊を見上げていた。

「……うん。俺の家。来たことあるから、怖くないでしょ?」

律は、ずび、と鼻を啜りながら、こくん、と小さく頷く。

由伊は安堵したようににっこり笑って、「よし、じゃあ服着ようね」と話しかけ、律の服を着せてあげた。

律が縋ってくる姿が可愛くて可愛すぎて、理性が爆発しそうだったが、下唇を噛み切って何とか抑えた。

血の味がしたがまぁそのうち止まるだろう。
不安げに自分を見上げてくる彼が、可愛い。


嗚呼、愛おし過ぎて吐きそうだ。
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