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第2章
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しおりを挟む今日は月曜日。
体の傷はだいぶ良くなり、微熱も下がった。
顔の傷が先に治りかけ、手当ても不器用ながら風呂から上がる度にちゃんと自分でやった。
学校に行くのは少し憂鬱だとは思っていたが、あれから律の携帯に動画が送られてくることは無くなり、呼び出しもない。
本当に由伊が何とかしてしまったのだろうか、と律は朝ごはんを食べながらのんびり考えていた。
彼の怒った顔を過去に一度だけ見た事がある律は、何しでかすか怖いな、なんて思ったけれど犯人にかける情けは無いので、すぐに思考を切り替えた。
食器を片し、誰も居ない家に向かって静かに「行ってきます」と声を掛け、学校へ向かった。
*
今日からは平穏に過ごしたいなぁ。
そんな小さな願いを胸に秘めつつ、律は教室に入る。
いつも通りのがやがやとした雰囲気にほっとする。
もしかしたら、あの動画が流出されているのでは無いかと少しだけ不安だったのだ。
けれど、生徒達はいつも通り友人同士で話していた。
由伊も、いつも通り女の子たちに囲まれてニコニコ話していた。
ちょっと話かけに来てくれるかな、なんて馬鹿げた事を思ったがそんな訳ないか─……
「あ、宮村!おはよ」
「ゆ、由伊、お、はよ……!」
「んー?何そんな動揺してんのー?」
由伊がキョトンとしつつ、律の顔を覗き込んでくる。
考えていたことが伝わ
ったのかと思うほどのタイミングで声をかけられ、慌ててしまった。
「あ、いやその……」
「今日はご飯食べた?」
「……へ?」
律儀に答えようとした矢先、意図の分からぬ質問に遮られ、律は間抜けな声を出してしまう。
「ご飯は食べましたかー?」
再び同じ質問をされ、戸惑いつつ「は、はい……」と答えた。
すると由伊はにっこり笑って、「ならよろしい!」と律の頭を少し撫でてまた女の子たちの元へ戻って行く。
……な、何だったんだ?今の……。
ご飯?ご飯食べたけど、食べたのと何が関係あるんだ?
その後の由伊をチラチラ見たけど、よく分からないので考える事をやめにした。まぁ、いっか。
お昼のチャイムが鳴り、律はいつも通り中庭に向かった。
菓子パンはコンビニで調達してきていたので、ビニール袋を持って特等席に体育座りする。
携帯でピコピコしつつ、菓子パンを食べていると急に視界が暗くなり、ぎゅっと後ろから誰かに抱き着かれた。
吃驚して、「ひっ!」と声を上げパンを
落としてしまった。
「3秒ルール!ほれ、セーフ!」
そう言ってパンを差し出してきた男の顔を見て、律は「あ!」と声を出した。
「橘!」
「久しぶりやなぁ~、りっちゃん~」
関西弁を携えて、にこにこ細い目で律を見る。
律の唯一の友人、橘 宇巳。
滅多に学校に来ないサボり魔だ。
「今日は来たんだ」
「さすがに、担任から泣きの鬼電かかってきたら、来なあかんやん~。も、めーちゃしばかれたわ」
橘は疲れたように律の隣にぐでぇ、と腰掛けた。
「そりゃそうでしょ」
「なぁ~りっちゃん~腹減ったぁ~」
「……食べる?」
「りっちゃんと半分こ?」
「……うん」
ぎゅるるる、と橘の腹の虫がタイミングよく鳴る。
律はクスクス笑って、食べかけを丸ごと橘に差し出した。
「え、全部?」
「うん、早くその虫に食わしてやりなよ」
橘は何かを考えた顔をした後、律のパンを手に取って言った。
「あかん。あかんでりっちゃん」
「……え、な、何が?」
急に真剣な顔で、あかん、と言われたら何かいけないことをしてしまったかとちょっと吃驚するではないか。
「りっちゃん、前より細なった気ぃすんもん。あかんよ、これはりっちゃんが食べ。俺は他の買うてくるわ!」
なぁんだ、そんなことか。
律は安堵し肩の力を抜いて、「はいはい」と返した。
「待っとってな!星より速う帰ってくんで!」
「何言ってっか分かんないけど、行ってらっしゃい」
呆れながらも、久しぶりの友人の姿に少し頬が緩んだ。
いつも食べている菓子パンが、より甘く感じた。
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