ai -Iと蛇-

みやの

文字の大きさ
18 / 101
第2章

1

しおりを挟む


今日は月曜日。

体の傷はだいぶ良くなり、微熱も下がった。
顔の傷が先に治りかけ、手当ても不器用ながら風呂から上がる度にちゃんと自分でやった。

学校に行くのは少し憂鬱だとは思っていたが、あれから律の携帯に動画が送られてくることは無くなり、呼び出しもない。

本当に由伊が何とかしてしまったのだろうか、と律は朝ごはんを食べながらのんびり考えていた。

彼の怒った顔を過去に一度だけ見た事がある律は、何しでかすか怖いな、なんて思ったけれど犯人にかける情けは無いので、すぐに思考を切り替えた。

食器を片し、誰も居ない家に向かって静かに「行ってきます」と声を掛け、学校へ向かった。











    今日からは平穏に過ごしたいなぁ。
そんな小さな願いを胸に秘めつつ、律は教室に入る。

いつも通りのがやがやとした雰囲気にほっとする。
もしかしたら、あの動画が流出されているのでは無いかと少しだけ不安だったのだ。
けれど、生徒達はいつも通り友人同士で話していた。
由伊も、いつも通り女の子たちに囲まれてニコニコ話していた。

ちょっと話かけに来てくれるかな、なんて馬鹿げた事を思ったがそんな訳ないか─……

「あ、宮村!おはよ」
「ゆ、由伊、お、はよ……!」
「んー?何そんな動揺してんのー?」

由伊がキョトンとしつつ、律の顔を覗き込んでくる。
考えていたことが伝わ
ったのかと思うほどのタイミングで声をかけられ、慌ててしまった。

「あ、いやその……」
「今日はご飯食べた?」
「……へ?」

律儀に答えようとした矢先、意図の分からぬ質問に遮られ、律は間抜けな声を出してしまう。

「ご飯は食べましたかー?」

再び同じ質問をされ、戸惑いつつ「は、はい……」と答えた。
すると由伊はにっこり笑って、「ならよろしい!」と律の頭を少し撫でてまた女の子たちの元へ戻って行く。

……な、何だったんだ?今の……。 
ご飯?ご飯食べたけど、食べたのと何が関係あるんだ?

その後の由伊をチラチラ見たけど、よく分からないので考える事をやめにした。まぁ、いっか。



  お昼のチャイムが鳴り、律はいつも通り中庭に向かった。

菓子パンはコンビニで調達してきていたので、ビニール袋を持って特等席に体育座りする。
携帯でピコピコしつつ、菓子パンを食べていると急に視界が暗くなり、ぎゅっと後ろから誰かに抱き着かれた。

吃驚して、「ひっ!」と声を上げパンを
落としてしまった。

「3秒ルール!ほれ、セーフ!」

そう言ってパンを差し出してきた男の顔を見て、律は「あ!」と声を出した。

たちばな!」
「久しぶりやなぁ~、りっちゃん~」

関西弁を携えて、にこにこ細い目で律を見る。
律の唯一の友人、橘 宇巳たちばな うみ

滅多に学校に来ないサボり魔だ。

「今日は来たんだ」
「さすがに、担任から泣きの鬼電かかってきたら、来なあかんやん~。も、めーちゃしばかれたわ」

橘は疲れたように律の隣にぐでぇ、と腰掛けた。

「そりゃそうでしょ」
「なぁ~りっちゃん~腹減ったぁ~」

「……食べる?」
「りっちゃんと半分こ?」

「……うん」

ぎゅるるる、と橘の腹の虫がタイミングよく鳴る。
律はクスクス笑って、食べかけを丸ごと橘に差し出した。

「え、全部?」
「うん、早くその虫に食わしてやりなよ」

橘は何かを考えた顔をした後、律のパンを手に取って言った。

「あかん。あかんでりっちゃん」
「……え、な、何が?」

急に真剣な顔で、あかん、と言われたら何かいけないことをしてしまったかとちょっと吃驚するではないか。

「りっちゃん、前より細なった気ぃすんもん。あかんよ、これはりっちゃんが食べ。俺は他の買うてくるわ!」

なぁんだ、そんなことか。
律は安堵し肩の力を抜いて、「はいはい」と返した。

「待っとってな!星より速う帰ってくんで!」
「何言ってっか分かんないけど、行ってらっしゃい」

呆れながらも、久しぶりの友人の姿に少し頬が緩んだ。


いつも食べている菓子パンが、より甘く感じた。

 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ナイショな家庭訪問

石月煤子
BL
■美形先生×平凡パパ■ 「いい加減、おわかりになりませんか、進藤さん」 「俺、中卒なんで、キビとかカテとか、わかんないです」 「貴方が好きです」 ■イケメンわんこ先生×ツンデレ美人パパ■ 「前のお宅でもこんな粗相を?」 「まさか。そんなわけありませんって。知永さんだから……です」 ◆我が子の担任×シングルファーザー/すけべmain◆ 表紙イラストは[ジュエルセイバーFREE]様のフリーコンテンツを利用しています http://www.jewel-s.jp/

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...