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第5章
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しおりを挟む由伊との関係が修復して、はや1週間が経った。
明日からは待ちに待った冬休み。
今は、全校集会で校長や生徒指導、学年主任の話に耳を傾けている。律は立ちっぱなしだと貧血を起こしてしまうので、座りながら聞いて良いというこの制度は非常に有難いなと体育座りをしながら、律に肩を乗せ眠る橘を見て苦笑する。
橘の頭が重い。カップルか、と突っ込みたくなるような肩の乗せ方に、どうせ怒られるんだろうなと思いながら放置していた。
全校集会が終わり、案の定橘は呼び出されこっぴどく絞られていた。
*
「冬休みやなぁ~!!」
ぐいーっと背を伸ばした橘を見つつ、「そだね」と返す。
HRが終わって、皆は帰らずにまだ教室に残り友人達との会話を楽しんでいた。律はカバンに荷物を詰めながら橘と話していると、トントンと後ろから肩を叩かれ振り向いた。
「仲野さん、どした?」
今日は、ツインテールにしている仲野がニッコリ笑ってそこに立っていた。
「ねぇねぇ、宮村くんと宇己くんさ冬休み一緒に遊びに行かない?」
「遊び?」
まさかのお誘いに律は驚いて首を傾げる。
生まれてこの方、遊びの誘いを受けた事がない。
律が友達作りに積極的でなかったのも相まって、学校でも友達と過ごす事は橘と友達になるまで一度もなかった。
「そうそう! 私のおばあちゃん家が海辺の旅館なの! 都内の外れなんだけど、来年は受験になっちゃうし、クラスも離れちゃうかもしれないじゃない? 冬休み明けはすぐ期末あるし、今のうちに遊んどきたいなーと思って!」
楽しそうに話す仲野に、律はどうしようか、と考える。すると話を聞いていた橘が、「行きたい行きたい!」と大はしゃぎし始めた。
「俺、海めっちゃ好きやねん!! なんでか分かるか?! 俺の名前やからやー!!」
「意味分かんないけど、じゃあ行く?」
「行く!! りっちゃんも行くやろ?!」
キラッキラした瞳で見つめてくる橘に「う、うん」と頷く。
「ほな日にち合わせなな~!」
ルンルンで携帯を弄り出した橘を見つつ、律も携帯を取り出したその時、ふわり、と嗅いだことのある香りに包まれ、背中が温かくなった。
「俺もいきたいなぁ、ねぇ律くん」
穏やかで優しい声が頭上から聞こえ、律はパッと振り返った。
「ゆい.......!」
そう呼ぶと、由伊は一瞬驚いた顔をしたけど直ぐにいつもの由伊に戻って、頭を撫でてくれた。
「仲野さん、ダメ?」
こてん、と首を傾げた由伊に仲野は些か気まずそうにしていたが、「いやいいよ、大勢の方が楽しいし」と了承していた。
「ありがとう、楽しみだな。ね、律くん」
ニコリと優しい笑顔に、自分も何だか嬉しくなってさっきまで行くか迷っていたのに、そんな不安も迷いも一気に吹き飛んだ。
他人と遊ぶのなんて、由伊しか無かったし橘とも何だかんだ遊んだこと無かったから緊張するけど、由伊が居るから安心だな.......!
旅館すごく楽しみだな。詳しい話は追って連絡する、と仲野が言ってくれたので行くメンバーで連絡先を交換してグループを作る事にした。由伊は少し面倒くさそうな顔をしていたが一瞬で顔を作り直し、「楽しみだね」と言ってくれた。
実を言うと律は楽しみどころではないのだ。友達と遊んだことなんて何年ぶりというくらい久々で、それだけでも舞い上がってドキドキするのに、ましてや由伊も一緒だなんてもう命日が来てもおかしくないと思う。
あれから律の由伊への想いは着実に変わっていっている。それが悪いのか良いのか分からないけれど、この胸の高鳴りは決して悪い方では無いと思う。
体調の面や心配な事が多々あるけれど、ちゃんと元気にみんなと遊びた。
冬休みはいつもだらだら勉強だけして終わってたからこんなに楽しみな気分は人生初な気がする。父親はあと半月程は帰って来ないからその間家が空になってしまう。
旅行前に全部掃除して手紙残して出よう!
こういう時何を持っていけばいいのかな? お菓子とか持ってってもいいのかな? それとも、邪魔になるかな?
皆と遠足みたいなことするのは小学生以来だ。楽しみで仕方がない。
ワクワクする気持ちを抑えたいが、家に1人になった時自然と顔がニヤけてしまう自分がいた。
こんな時、親がそばに居なくて心底良かった思った。
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