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第5章
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しおりを挟む由伊は急いで立ち上がり、律を振り返ると、そこにはもう律が居なかった。
あれ? 部屋戻ったのかな。
由伊は特に何も気にせずそんな呑気な事を思いながら女を置いて、部屋へと向かう。
あ、戻る前に自販機で飲み物でも買って行こう。
律くんわざわざ来てくれたし、お礼に.......。
甘い物なら好きだよね? ココアとか好きかな。
ピピッと電子音が鳴り、2人分の缶のココアとコーヒーを買った。ガチャリ、と扉を開けると中から賑やかな話し声が聞こえてくる。
「あー! 由伊やん! もうどこ行っとったん!? あれ? 笹原ちゃんは?」
橘の問いかけに「ロビーで休んでる」と適当な事を言い、由伊は足早に律の元へと向かった。
「律くん! あったかいココア買ってきたけど飲む?」
「要らない」
「.......え?」
ココアを差し出すと、律はぷいっとそっぽを向いて由伊を拒絶する。
.......あれ? ココア嫌いだった? .......いや、てかなんか機嫌悪くね.......?
由伊は予想外の事に固まっていると、橘がこっそり近づいてきて耳打ちしてくる。
「.......りっちゃんな、お前の事呼びに戻って来た後からずーっとあんな調子やねん。お前何したん?」
橘に困ったように言われるが、由伊の方が困っている。
え? 何それ俺のせいなの? 俺なんかした?
思い返しても、夕飯の時に勝手に抜け出したことしか思い浮かばない。
それより、ずーっと女とイチャイチャ話してたのは律くんだしそのせいでイラついてたのは俺の方だ。
せっかく頭冷やして戻ってきたのに、なんで機嫌悪いんだ。
「律くん、どうしたの? なんかあった?」
「はあ? あるわけねーじゃん。ていうか、笹原さんは? なんで一緒に連れて帰ってあげないの?」
ジトリと睨まれ、由伊は驚いた。彼からこんな敵意向けられたの初めてだ。
「.......いや、あの人はなんか、このままロビーで休むっていうから.......」
「はあ? ロビーなんて寒いとこで女の子一人にさせてんの? 有り得ない」
「いや、あの子がそうしたいって言ってんだから関係ないでしょ」
律くんあの女のことばっかり心配してる.......なんで? 何が気に食わないの? 律くん、あの子の事が好きなの?
だから一緒にいた俺のことがこんなにも気に食わないの? そういうこと? .......ムカつく。
「なぁ2人とも落ち着けや。部屋の雰囲気最悪やで? そんな笹原さん気になんなら俺迎えいったるわ、な?」
橘が気を利かせてそんな事を言ってくる。
「どうしたの? 宮村くんも由伊くんも.......。喧嘩したの?」
仲野も困ったように聞いてくる。
「別にしてない」
拗ねたような律の態度に由伊は「はぁ.......」とため息を吐いて体育座りで顔をこちらに向けない律を見つめる。
「ねぇ律くん、どうしたの? 俺なんかした? どっちにしろここじゃ喧嘩出来ないから隣の部屋行こう」
流石の由伊もこんなにギャラリーのいる所で喧嘩する程モラルが無いわけではない。それに、何が彼の気分を害したのかゆっくり聞きたい。
俺が原因なら謝るし.......てか、確実に俺が原因だなこれは。
一体、どうしてしまったのだろうか。
由伊は悶々とした思いを抱えつつ、律の肩を抱き隣の寝室へと律を連れた。
5
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