ai -Iと蛇-

みやの

文字の大きさ
76 / 101
第7章

2

しおりを挟む



「ふわぁ~!!つっかれたあ!!」

家に着き、ソファに体を沈める。
買った花束もテーブルにとりあえず置く。
歩きながら色んな人にチラチラ見られてちょっと恥ずかしかったけど、同時にクリスマスを楽しんでる感じがして律は楽しかった。

時刻は18時。
家の中からカナが使っていた花瓶を探し、花をテーブルにいけた。

昔の記憶がほんの少し蘇る。

律がまだ幼稚園生で、カナがクリスマスローズを飾る時がクリスマスの合図だった。
テーブルにこの花が現れると、ドキドキして準備をするカナの後ろを着いて回った。
夜には文崇がケーキを買って必ず定時で帰ってきてくれた。

「おかえりなさい!」って抱きつけばケーキをガードしつつちゃんと大きな腕で受け止めて抱っこしてくれた。
カナが困ったように、けれどどこか嬉しそうにクスクス笑って文崇からケーキを受け取る。

父と母は昔から仲がいいから、帰ってくると必ず父は母に触れていた。

そんな二人の間に居るのが嬉しくて、楽しくて、幸せで、触れられて幸せそうな母に律はいつも引っ付いて、幸せを分けてもらっていた。 

「……母さん、俺、母さんみたいにお花、飾れてるかな」

仏壇に手を合わせて、笑うカナの写真に語りかけた。
きっと文崇と二人のデートの時に撮ったであろう母の満面の笑みの写真。

快晴をバックに麦わら帽子を被っている
儚くて、光にまじって消えてしまいそうだ。
体が弱かった母は、寝ている時間や座っている時間が圧倒的に長かった。

律はワンパクだったけど、母と居る時間がとても好きだったので絵を描いたり本を読んだりして、母のそばに居た。
文崇が遊んでくれる時は思い切り外で体を動かした記憶がある。
虫を捕まえて母親を驚かせてしまった時は、凄く反省した。

母は怒らずに、いつもニコニコ笑って頭を撫でたり抱きしめてくれたり、暖かい腕で抱っこしてくれた。 

─……いつまでも、律らしく居てね。

鈴のような母さんの優しい声が、時々脳内に響く。
俺らしく、ってなんだろう母さん。
もうあの時の、母さんが可愛がってくれた俺は居なくなっちゃったよ。

母さんの期待に答えられなかった。

……俺は、俺が分からないよ。

思い出は、素敵なものだけど、思い出すとやっぱり泣きたくなる。

本当は、父さんと母さんとずっと一緒に暮らしたかった。

出来る限り長く、笑い合いたかった。
幸せは、苦しい。

「……なぁんて、折角のクリスマスなんだし明るく明るく!」

写真の中で笑うカナに微笑み、ネガティブ思考を一掃する。
きっともうすぐ文崇が帰ってくる。

「さて、料理をあっためよ」

キッチンへと向かい、お鍋に弱火で火をかける。
ふと、袖を捲り出て来た自分の左腕が視界に入る。
そっと、袖を戻した。


「……今日だけは、忘れたい」



今日だけは何もかも忘れたい。
悲しい事も全て。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ナイショな家庭訪問

石月煤子
BL
■美形先生×平凡パパ■ 「いい加減、おわかりになりませんか、進藤さん」 「俺、中卒なんで、キビとかカテとか、わかんないです」 「貴方が好きです」 ■イケメンわんこ先生×ツンデレ美人パパ■ 「前のお宅でもこんな粗相を?」 「まさか。そんなわけありませんって。知永さんだから……です」 ◆我が子の担任×シングルファーザー/すけべmain◆ 表紙イラストは[ジュエルセイバーFREE]様のフリーコンテンツを利用しています http://www.jewel-s.jp/

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】SNSで出会ったイケメンに捕まるまで

久遠院 純
BL
タイトル通りの内容です。 自称平凡モブ顔の主人公が、イケメンに捕まるまでのお話。 他サイトでも公開しています。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...