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第7章
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しおりを挟む「ふわぁ~!!つっかれたあ!!」
家に着き、ソファに体を沈める。
買った花束もテーブルにとりあえず置く。
歩きながら色んな人にチラチラ見られてちょっと恥ずかしかったけど、同時にクリスマスを楽しんでる感じがして律は楽しかった。
時刻は18時。
家の中からカナが使っていた花瓶を探し、花をテーブルにいけた。
昔の記憶がほんの少し蘇る。
律がまだ幼稚園生で、カナがクリスマスローズを飾る時がクリスマスの合図だった。
テーブルにこの花が現れると、ドキドキして準備をするカナの後ろを着いて回った。
夜には文崇がケーキを買って必ず定時で帰ってきてくれた。
「おかえりなさい!」って抱きつけばケーキをガードしつつちゃんと大きな腕で受け止めて抱っこしてくれた。
カナが困ったように、けれどどこか嬉しそうにクスクス笑って文崇からケーキを受け取る。
父と母は昔から仲がいいから、帰ってくると必ず父は母に触れていた。
そんな二人の間に居るのが嬉しくて、楽しくて、幸せで、触れられて幸せそうな母に律はいつも引っ付いて、幸せを分けてもらっていた。
「……母さん、俺、母さんみたいにお花、飾れてるかな」
仏壇に手を合わせて、笑うカナの写真に語りかけた。
きっと文崇と二人のデートの時に撮ったであろう母の満面の笑みの写真。
快晴をバックに麦わら帽子を被っている
儚くて、光にまじって消えてしまいそうだ。
体が弱かった母は、寝ている時間や座っている時間が圧倒的に長かった。
律はワンパクだったけど、母と居る時間がとても好きだったので絵を描いたり本を読んだりして、母のそばに居た。
文崇が遊んでくれる時は思い切り外で体を動かした記憶がある。
虫を捕まえて母親を驚かせてしまった時は、凄く反省した。
母は怒らずに、いつもニコニコ笑って頭を撫でたり抱きしめてくれたり、暖かい腕で抱っこしてくれた。
─……いつまでも、律らしく居てね。
鈴のような母さんの優しい声が、時々脳内に響く。
俺らしく、ってなんだろう母さん。
もうあの時の、母さんが可愛がってくれた俺は居なくなっちゃったよ。
母さんの期待に答えられなかった。
……俺は、俺が分からないよ。
思い出は、素敵なものだけど、思い出すとやっぱり泣きたくなる。
本当は、父さんと母さんとずっと一緒に暮らしたかった。
出来る限り長く、笑い合いたかった。
幸せは、苦しい。
「……なぁんて、折角のクリスマスなんだし明るく明るく!」
写真の中で笑うカナに微笑み、ネガティブ思考を一掃する。
きっともうすぐ文崇が帰ってくる。
「さて、料理をあっためよ」
キッチンへと向かい、お鍋に弱火で火をかける。
ふと、袖を捲り出て来た自分の左腕が視界に入る。
そっと、袖を戻した。
「……今日だけは、忘れたい」
今日だけは何もかも忘れたい。
悲しい事も全て。
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