ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

文字の大きさ
77 / 114
第五章 ルキソミュフィア救援

第77話 ソラ・ルデ・ビアス

しおりを挟む
 レオルステイルが長考に入って皆が夕食を愉しんでいる頃、2階の扉のあるフロアから不穏な気配が漂うのをセレスは感じていた。

最初は気の所為だと思っていたのだが、どうにも気配が強いので、これは何者かが扉を使って書架に侵入しようとしているのだろうと想像しながら食事を続けた。

セレスの様子がオカシい事に最初に気付いたのがベルフォリスで、何かを気にする様にそわそわしているのでつい、

「何だセレス、もしかしてアレか?漏れる前に早く行った方がイイぞ?」

と、デリカシーの無い事を食事の席で言い放ったので、

「何言ってるんだ?ベル?お前の方こそ足元がお留守だぞ?」

と、ベルフォリスの座る椅子の足に魔法を放って、ベルフォリスを椅子ごと後方に転倒させた。

ガターーン!!と大きな音を立てて、ベルフォリスは食卓から強制離脱した。

急に視界に入っていた食卓の光景が天井に変わったベルフォリスは、一瞬何が何だか分からない様子だったが、自分が椅子ごと転倒した事実を知ると、「やっちまった」と呟いて目をつむる。

それを見ていたソフィアステイルは、

「二人とも、もう子供じゃないんだから悪ふざけは止めな!もう、10歳や20歳の子供の頃ならまだしも、数百歳を超える年齢になっても全く変わらないんだから・・・」

溜息混じりに昔の2人の子供時代を思い出しながら、愚痴る。

赤い月の魔界の住人であったベルフォリスとセレスなので、数百歳と言う単位が蒼壁の大陸時間で計算されているのだが、実際に赤い月の時間で換算するとまだ160歳ちょっと・・・と言う説明を前に聞いていたコレットは、今現在確認されている他の皆の年齢も記憶の中で確かめていた。

とは言え、記憶が徐々に戻ってきているコレット自身も相当な年齢になっている可能性があるので、自分だけが若いと言う錯覚はそろそろ無くなりそうだとも思っていた。

 コレットが、あれやこれや年齢について考えていると、不意にグレアラシルが立ち上がる。

そして、

「姐さん、何か2階から人影が見えたんすけど、泥棒ですかね?」

1階から吹き抜けている2階の書棚の方を見据えるグレアラシルは、何者かの影を見つけて凝視していた。

続けてソフィアステイルと、ベルフォリスも椅子から起き上がって2階を見据える。

「この気配・・・僕の知っているあの人の気配に似てるんだけど・・・・」

と呟く。

今、書架で食事をしていた面々の中では、怪しい人影に対しての明確な答えを出せている人が一人も居なかった事に腹を立てたのか、それとも自分の存在意義を再確認して悲しくなったのかは分からないが、謎の人物の影は悲しそうな雰囲気を漂わせながら1階に下りる階段の方に姿を現した。

「ああ!!」

最初に声を上げたのはミカゲだった。

そして、

「ああああああああああああああああーーーー!!!」

次に指をさしながら叫んだのはセレスだった。

ソフィアステイルに至っては、かなり呆れた顔でその姿を視認する。

ベルフォリスは?と言うと、尊敬する師匠を目の前にして感涙の嵐になっていたし、グレアラシルは、その気配と魔力の凄まじさに恐れ慄いて、満月でもないのに変幻しそうになっていた。

ただ一人、コレットだけはキョトンとした状態でその人物を見つめている。

その人物は、身長2m近くはある長身で、鍛え上げられた筋肉の巨躯を礼服で包んでいるのだが、全くもって見苦しさが半端無い。

そして、特徴的なのが燃えるような赤い髪と緑色の瞳が、セレスと同じ様に輝いていた。

グレアラシルも結構な巨躯だが、それ以上に身体も魔力も相当に大きかった。

ずっとキョトンとした状態で呆けていたコレットだったが、前に聞いた話を思い出す。

確かセレスの父はこんな感じの風貌で・・・・・・

 皆が色んなスタイルで驚きを隠せなくなっている中、やっとその人物は口を開いた。

「や、やあ皆、初めましてとお久しぶり・・・・」

食卓を囲む面々に睨まれる様に見つけられていた人物は、半分悲しそうな複雑な声で軽い挨拶をしたが、

「やあ?お久しぶり??一体何年経ってると思ってんだぁーーー!!!このボケオヤジ!!」

挨拶の言葉が終わるや否や、セレスは短時間で掌に仕込んだ火球を『ボケオヤジ』に炸裂させる。

 ドッカーーーン!!

と、かなり派手な音を立てて『ボケオヤジ』にぶつかったが、当の当てられた本人は全くの無傷で、書架の建物にも傷一つ付いていなかった。

「ああ、もうセレスは乱暴だな~。そんなに父さんが憎いのか・・・いや、憎まれても仕方が無いな。」

『ボケオヤジ』と言われた人物は、観念した様子で1階まで降りてきた。

そして、

「初めましての人にちゃんと挨拶をしなければね。拙者はソラ・ルデ・ビアス。正式名称はもっと長いんだけど、聞いていると皆眠くなっちゃうから、これで。この書架の主をやっているよ。」

と、割とちゃんとした挨拶をした。

「え?ええ?セレスさんのお父さん??」

コレットは、良く分からないものを見たような顔でソラ・ルデ・ビアスと名乗った男を凝視した。

「そうそう、それがアタシの親父でこの書架の本当の店長。」

セレスは、手をひらひらと動かしながらコレットに説明する。

当のソラ・ルデ・ビアス本人はその光景を見て、微笑ましそうな笑顔を見せた。






 それにしても・・・・

セレスはそう言いそうになって口ごもる。

もっと先に言いたい事があっただろう?と自分を戒めたのだ。

セレスが口ごもって何も言わないのを確認したソフィアステイルが、先にソラ・ルデ・ビアスに畳みかける。

「あらあらお久しぶりですね、お義兄さん。今まで、この120年間どこをほっつき歩いていたんでしょうね?」

「120年?!」

ソフィアステイルの言葉に驚いたコレットとグレアラシルは、同時に叫ぶ。

「確かに120年は人間の寿命を考えると長いよね。」

ベルフォリスがその年数に更に追い打ちをかけた。

「あ、あああ~本当長い間だよね、申し訳ない。説明すると凄く長くなるけど、結構大変な目に遭ってたんだよね~。」

と言って、ソラ・ルデ・ビアスは頭をポリポリと掻く。

それを見たセレスは、

「本当に・・・・特にこの100年間は!と言うか100年前のソルフゲイル侵攻の時に帰って来てくれれば!!銀狼族は攫われなかったし!!あと!!もう本当に色々あって!!トトアトエ・テルニアを維持できなくなってて!!」

と、積年の恨みつらみをぶつける様に、久しぶりに帰宅した父親に叫ぶ。

「そうだち!ソラ!!あちしが付いていたからセレスは結構頑張ってこれたんだち!!あちしも結構堪忍袋の緒ってのが切れまくってて、何個目の堪忍袋か分からないんだち!!」

続けてミカゲもセレスの父親に畳みかけた。

「ミカゲ、本当ありがとうね~セレスの事面倒見ててくれて。魔王の御影だったお前を引き取ってからは、ずっとお世話になりっぱなしだったよね~・・・・」

まるで孫でも見るかのような眼差しでミカゲの言葉に返答するセレスの父親は、まったくもって腑抜けた親父の様にセレスの目には映った。

 そんな中、3日は長考しているであろうと予測されていたレオルステイルが長考から覚める。

周囲の賑やかしい声を五月蠅く感じたのかまたは、夫であるソラ・ルデ・ビアスの帰還を察知したのかは分からないが、とにかく覚醒したレオルステイルが最初に放った一言は、

「こんの、やかましいわ!!」

だった。

周囲が五月蠅くて長考が不可能になった様だった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...