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あーたーらしーいー朝がきた。
きーぼーうーのあーさーが。
「部長、近いうち、日光に出張の予定とかありませんか」
「……君の言いたいことはわかった。だが俺は桃太郎じゃない」
いやいやいや。
「雉の次に犬ときたら後は猿でコンプでしょ!!」
「そんな予定はない!」
何をおっしゃるうさぎさん。
「またえらく強そうなお顔のワンちゃんを連れてきましたねぇ…。土佐犬ですか?」
「…らしいな」
「鬼退治にもってこいですね!」
「………」
そんな顔をしないで欲しい。
こちらはフラレたボケに全力で突っ込んでいる最中なのだから。
部長のそばできちんとおすわりをしているのは、首にしめ縄のついた立派なお犬様。
「戌年だし…しばらくこのままでもいいんじゃないですかね」
「おい」
「いや、これは本気で。その子、ちゃんと部長の事守ってますよ?部長に取り付こうとするその他の悪霊はちゃんと払ってくれてるみたい」
いいこだね~さすがだね~としゃがみこんで犬を褒め称える。
「ハム太郎といいあの2羽といい、部長って優秀な動物霊を集めるのが得意ですよね。これからはムツゴロウ改トップブリーダーと…」
「呼ぶな」
苦々しい顔で断言し、お犬様を見下ろす部長。
「……守ってるのか……?俺を……」
「そうですよ。義理堅いですね。どこで拾ってきたんです?」
「取引先の趣味が土佐犬のブリーダーだったんだ。
……写真を見せてもらったが、恐らく一番優秀だったと言っていた初代のチャンピオン犬…だと思う」
「さすがの個体認識能力ですね」
ハム太郎を見抜いただけのことはある。
「顔が違うだろう、顔が」
「私にはわかりません」
愛着がわいた今となっては別だが、初対面で見分ける自信は皆無だ。
「………まぁいい」
「それはこっちのセリフですが……。ところで部長」
「なんだ」
「口調、崩れてますけどいいんですか?私から俺になってますよ」
気づいていたが、今まであえて突っ込まなかった。
「……君に取り繕っても仕方ないと思ってね」
「そんなこと言って実はただのうっかりでしょ」
「……」
あ、図星だ。
「そういえば、ずいぶん前から言いたいことがあったんですけど…」
「…なんだ」
「…なんですかその嫌そうな声…。ただ名前を聞こうと思っただけなのに……」
思い切り眉をひそめられ、流石に気分を害する。
「名前…?」
「はい。実は私、部長の名前がどうしても読めなくて……」
知らないわけではない。
読めないのだ。
何しろ彼の名前は”崇敬”。
どう読めばいい。誰か教えてくれ。
誰も教えてくれないから本人に今聞いた。
「タカトシだ…」
「…え?お笑い芸人ですか」
「違うっ!俺の名前は、あの字で「たかとし」と読むんだ!」
「なるほど。”たたるうやまう”さんではなかったんですね!」
「それを人名とは呼ばん」
「いや、強そうな名前だなぁとは常々思ってたんですが…」
そうか、タカトシと読むのか。勉強になった。
「まさか……苗字まで知らないなんて…」
「そりゃ言いませんよ~さすがに。え~っと…山崎部長?」
「谷崎だ」
「ほとんど正解みたいなもんじゃないですか」
大目に見てくださいよ、と言えばじろりと睨まれた。
「了解です、谷崎部長!」
谷崎崇敬か、なるほど。
「ついでに言えば俺の名前の”たか”の部分は祟るじゃない、崇めるだ」
「おぉ」
さすが部長。
「つまり後光が差してるって意味でのキラキラネームですね!?」
「……何故嬉しそうなんだ……」
「仏像部長…ぷっ」
「……君は俺を一体どうしたいんだっ!!」
とうとう部長がキレた。
さすがにからかいすぎただろうか?
「え~とですね……。結論から言いますと、そのお犬様は部長の番犬として気の済むまでそこにいてもらうとうことで」
「……それで本当に大丈夫なのか…?」
「問題ないと思いますよ。部長に対する悪意はまったくありませんし。生霊も退治してくれます」
「よしわかった。このままでいよう」
「さすが部長……」
パチパチと拍手を送る。
そうか、それほど生霊が嫌だったか。
ご愁傷様です。
きーぼーうーのあーさーが。
「部長、近いうち、日光に出張の予定とかありませんか」
「……君の言いたいことはわかった。だが俺は桃太郎じゃない」
いやいやいや。
「雉の次に犬ときたら後は猿でコンプでしょ!!」
「そんな予定はない!」
何をおっしゃるうさぎさん。
「またえらく強そうなお顔のワンちゃんを連れてきましたねぇ…。土佐犬ですか?」
「…らしいな」
「鬼退治にもってこいですね!」
「………」
そんな顔をしないで欲しい。
こちらはフラレたボケに全力で突っ込んでいる最中なのだから。
部長のそばできちんとおすわりをしているのは、首にしめ縄のついた立派なお犬様。
「戌年だし…しばらくこのままでもいいんじゃないですかね」
「おい」
「いや、これは本気で。その子、ちゃんと部長の事守ってますよ?部長に取り付こうとするその他の悪霊はちゃんと払ってくれてるみたい」
いいこだね~さすがだね~としゃがみこんで犬を褒め称える。
「ハム太郎といいあの2羽といい、部長って優秀な動物霊を集めるのが得意ですよね。これからはムツゴロウ改トップブリーダーと…」
「呼ぶな」
苦々しい顔で断言し、お犬様を見下ろす部長。
「……守ってるのか……?俺を……」
「そうですよ。義理堅いですね。どこで拾ってきたんです?」
「取引先の趣味が土佐犬のブリーダーだったんだ。
……写真を見せてもらったが、恐らく一番優秀だったと言っていた初代のチャンピオン犬…だと思う」
「さすがの個体認識能力ですね」
ハム太郎を見抜いただけのことはある。
「顔が違うだろう、顔が」
「私にはわかりません」
愛着がわいた今となっては別だが、初対面で見分ける自信は皆無だ。
「………まぁいい」
「それはこっちのセリフですが……。ところで部長」
「なんだ」
「口調、崩れてますけどいいんですか?私から俺になってますよ」
気づいていたが、今まであえて突っ込まなかった。
「……君に取り繕っても仕方ないと思ってね」
「そんなこと言って実はただのうっかりでしょ」
「……」
あ、図星だ。
「そういえば、ずいぶん前から言いたいことがあったんですけど…」
「…なんだ」
「…なんですかその嫌そうな声…。ただ名前を聞こうと思っただけなのに……」
思い切り眉をひそめられ、流石に気分を害する。
「名前…?」
「はい。実は私、部長の名前がどうしても読めなくて……」
知らないわけではない。
読めないのだ。
何しろ彼の名前は”崇敬”。
どう読めばいい。誰か教えてくれ。
誰も教えてくれないから本人に今聞いた。
「タカトシだ…」
「…え?お笑い芸人ですか」
「違うっ!俺の名前は、あの字で「たかとし」と読むんだ!」
「なるほど。”たたるうやまう”さんではなかったんですね!」
「それを人名とは呼ばん」
「いや、強そうな名前だなぁとは常々思ってたんですが…」
そうか、タカトシと読むのか。勉強になった。
「まさか……苗字まで知らないなんて…」
「そりゃ言いませんよ~さすがに。え~っと…山崎部長?」
「谷崎だ」
「ほとんど正解みたいなもんじゃないですか」
大目に見てくださいよ、と言えばじろりと睨まれた。
「了解です、谷崎部長!」
谷崎崇敬か、なるほど。
「ついでに言えば俺の名前の”たか”の部分は祟るじゃない、崇めるだ」
「おぉ」
さすが部長。
「つまり後光が差してるって意味でのキラキラネームですね!?」
「……何故嬉しそうなんだ……」
「仏像部長…ぷっ」
「……君は俺を一体どうしたいんだっ!!」
とうとう部長がキレた。
さすがにからかいすぎただろうか?
「え~とですね……。結論から言いますと、そのお犬様は部長の番犬として気の済むまでそこにいてもらうとうことで」
「……それで本当に大丈夫なのか…?」
「問題ないと思いますよ。部長に対する悪意はまったくありませんし。生霊も退治してくれます」
「よしわかった。このままでいよう」
「さすが部長……」
パチパチと拍手を送る。
そうか、それほど生霊が嫌だったか。
ご愁傷様です。
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