6 / 21
ヒーロー登場!
しおりを挟む
「父上! これは何の騒ぎですか⁈」
アーサー王子は金色の髪を靡かせて学園の大広間へと入ってきた。
大広間には人間と動物とか入り交じり、羽やら何やらも飛び交っていて酷い騒ぎである。
「おお、アーサー。留学から戻ったか」
国王は救世主を見るように嬉々とした表情を浮かべた。
「ただいま戻りました、父上」
礼儀正しく父の前で片膝をつき頭を下げるアーサーは、第一王子にして王太子の22歳。
金髪碧眼でスラッと背の高い細マッチョな正妃の息子は、海外留学から戻ったところだった。
「なんですか? この騒ぎは」
大広間には、まだ動物の姿をしたまま逃げ回っている令嬢や令息、衛兵たちがいた。
その後ろを宮廷魔法士たちが追いかけては魔法を解いている。
「今日は卒業式典のはずでは? こんな道化たお祭り騒ぎをするような日ではないでしょう?」
「いや、そうなんだが……」
アーサーに詰め寄られ、国王は困った様子で視線を逸らした。
「クラウスさまが魔女との婚約を破棄したせいで、魔法契約が解けたのです。そして魔女は皆に魔法をかけて逃げました」
「なんだって⁈」
宰相が冷静に説明をすると、アーサーは怒気を含んだ驚きの叫びをあげた。
「どうしてそんなことになったんだ?」
もともとボニータと魔法契約を交わすはずだったのはアーサーだ。
それを「次期王妃が魔女では外聞が悪い」と無理やり引き離し、弟であるクラウスと婚約させたのは国王と宰相ではないか。
ボニータと結ばれなかったアーサーは涙を呑み、それでも彼女は大切にされて幸せにやっているという話を聞かされ、自分を無理矢理に納得させて遠い異国で勉学に励んでいたというのに。
それがクラウスから婚約を破棄したとは何事だ。
魔法で皆を動物に変え逃げたということは、ボニータはココでの暮らしを嫌がっていた証ではないのか。
それともクラウスに裏切られた心の痛みに堪えかねて……。
そこまで考えたアーサーは、自身の胸元辺りを右手でつかんだ。
青に金モールのついた華やかな衣装には張りのある固い生地が使われていたが、ギュウと力のこもったアーサーの指先で見事なシワを作っていた。
父や宰相たちに説得されて引き下がったものの、アーサーはボニータのことがまだ好きだった。
クラウスとボニータは年が近く意気投合して仲が良い、そんな風に聞いていたが嘘だったのか。
「ボニータは……本当に幸せだったのか?」
まだ静まらぬ大広間の騒ぎを見ながらアーサーは独り言ちる。
(私だったらボニータと婚約破棄などしないし、彼女が幸せになれるよう精一杯の努力をしたのに)
さざ波のように押し寄せていた後悔は、やがて大波になって彼を飲み込んだ。
そしてアーサーは気付いた時には叫んでいた。
「私がボニータと結婚するっ!」
「アーサー⁈」
「王太子殿下⁈」
国王と宰相は驚いて目を剥いた。
王妃が魔女など外聞が悪いと幼い王子に言って聞かせた十年前は、大人にとっては昨日に等しい。
今現在もボニータが王妃にふさわしくないことは変わらないのだ。
「いいですね、父上っ!」
しかし、アーサーに挑むように宣言されては反論の余地はない。
事ここに至っては、それもやむなしである。
私たちは失敗したのだ。
国王は苦渋の表情を浮かべて、アーサーの言葉にうなずいた。
アーサー王子は金色の髪を靡かせて学園の大広間へと入ってきた。
大広間には人間と動物とか入り交じり、羽やら何やらも飛び交っていて酷い騒ぎである。
「おお、アーサー。留学から戻ったか」
国王は救世主を見るように嬉々とした表情を浮かべた。
「ただいま戻りました、父上」
礼儀正しく父の前で片膝をつき頭を下げるアーサーは、第一王子にして王太子の22歳。
金髪碧眼でスラッと背の高い細マッチョな正妃の息子は、海外留学から戻ったところだった。
「なんですか? この騒ぎは」
大広間には、まだ動物の姿をしたまま逃げ回っている令嬢や令息、衛兵たちがいた。
その後ろを宮廷魔法士たちが追いかけては魔法を解いている。
「今日は卒業式典のはずでは? こんな道化たお祭り騒ぎをするような日ではないでしょう?」
「いや、そうなんだが……」
アーサーに詰め寄られ、国王は困った様子で視線を逸らした。
「クラウスさまが魔女との婚約を破棄したせいで、魔法契約が解けたのです。そして魔女は皆に魔法をかけて逃げました」
「なんだって⁈」
宰相が冷静に説明をすると、アーサーは怒気を含んだ驚きの叫びをあげた。
「どうしてそんなことになったんだ?」
もともとボニータと魔法契約を交わすはずだったのはアーサーだ。
それを「次期王妃が魔女では外聞が悪い」と無理やり引き離し、弟であるクラウスと婚約させたのは国王と宰相ではないか。
ボニータと結ばれなかったアーサーは涙を呑み、それでも彼女は大切にされて幸せにやっているという話を聞かされ、自分を無理矢理に納得させて遠い異国で勉学に励んでいたというのに。
それがクラウスから婚約を破棄したとは何事だ。
魔法で皆を動物に変え逃げたということは、ボニータはココでの暮らしを嫌がっていた証ではないのか。
それともクラウスに裏切られた心の痛みに堪えかねて……。
そこまで考えたアーサーは、自身の胸元辺りを右手でつかんだ。
青に金モールのついた華やかな衣装には張りのある固い生地が使われていたが、ギュウと力のこもったアーサーの指先で見事なシワを作っていた。
父や宰相たちに説得されて引き下がったものの、アーサーはボニータのことがまだ好きだった。
クラウスとボニータは年が近く意気投合して仲が良い、そんな風に聞いていたが嘘だったのか。
「ボニータは……本当に幸せだったのか?」
まだ静まらぬ大広間の騒ぎを見ながらアーサーは独り言ちる。
(私だったらボニータと婚約破棄などしないし、彼女が幸せになれるよう精一杯の努力をしたのに)
さざ波のように押し寄せていた後悔は、やがて大波になって彼を飲み込んだ。
そしてアーサーは気付いた時には叫んでいた。
「私がボニータと結婚するっ!」
「アーサー⁈」
「王太子殿下⁈」
国王と宰相は驚いて目を剥いた。
王妃が魔女など外聞が悪いと幼い王子に言って聞かせた十年前は、大人にとっては昨日に等しい。
今現在もボニータが王妃にふさわしくないことは変わらないのだ。
「いいですね、父上っ!」
しかし、アーサーに挑むように宣言されては反論の余地はない。
事ここに至っては、それもやむなしである。
私たちは失敗したのだ。
国王は苦渋の表情を浮かべて、アーサーの言葉にうなずいた。
169
あなたにおすすめの小説
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました
おりあ
恋愛
アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。
だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。
失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。
赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。
そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。
一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。
静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。
これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる