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魔女は過去と今とを彷徨う
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そこが夢の中だとボニータには分かっていた。
懐かしい姿が浮かんでは消える。
『まるで森から生まれたみたいに見えたんだよ――――』
師匠はいつも、そう言って笑っていた。
(お師匠さまに会いたい……)
楽しかった過去の出来事が、まるで今この瞬間、起きていることのように感じられる夢のなかにボニータはいた。
痛い、痛い、痛い。
毒に蝕まれた体は、頭も痛いし、腹も痛いし、節々も痛い。
どこが痛いのかも判然としないまま、ボニータは全身を包む痛みに苦しみながら夢の中をさまよっていた。
何があったのか、体だけでなく心も痛い。
まるで森から生まれたみたいだった、と師匠は語っていたが、ボニータは捨て子だ。
森に捨てられた幼子は、森の魔女と呼ばれる一人の女性によって救われた。
彼女は結界を盾に法外な報酬を王国に求める悪女のように言われていたが、ボニータにとっては命の恩人だ。
尊敬すべき師匠でもあり、愛すべき養い親でもあった。
(お師匠さまは何でも教えてくれたし、お茶目で面白い人だったし、何より私を愛してくれた)
師匠が報酬を何に使っていたのかは知らない。
だが、王都で噂されているように悪い魔女ではなかったことは確かだ。
思い出の中の師匠は、いつも笑っている。
長くてウェーブの強い黒髪に、いつも笑っているような黒い瞳。
スラリと背が高く、スタイル抜群の体をフード付きのマントで覆っていた師匠。
数々の魔法は難なく使いこなすのに料理道具の扱いは下手で、どんな食材もシチューにして煮込んでしまう女性だった。
『可愛い、可愛いボニータ。食べてしまいたいくらいだけど、食べてしまったらなくなってしまうからね』そう言っては笑う師匠。
『ほら、いつまでも泣いてないで、もう一度やってごらん』厳しくも優しい師匠の教えてくれる魔法は、乾いた土に水が染み込むように次から次へとボニータの体に染みついていった。
だから急に師匠が亡くなった時。
ボニータは八歳だったが、既に一人で生きていける術は身につけていた。
誰に頼る必要もなかった。
ボニータは森で生きていけた。
実際、ボニータは一人で生きていた。
師匠の言いつけを守り、瘴気から国を守る結界を守りつつ、キチンと生活していた。
背は低くて痩せっぽちだったけれど、生きていくのには困らなかった。
だが、楽しかった毎日が、心細くて寂しい日々に変わっていくのを彼女は感じていた。
ご飯はしっかり食べている。
森の動物たちはボニータと一緒に遊んでくれる。
なのに、どうしてこんなに心がひもじいのだろう?
そんな風に思いながら生きていたボニータの前に突然、光のように現れたのがアーサーだった。
あの日。
ボニータしか暮らしていない森に、ドタバタと人の入り込む気配がした。
師匠はいつも『可愛いボニータ。人間には注意しなさい。アレを自分と同じ生き物だと思ったら危険だ。狡猾で欲張りなうえ、偽善者だからね。森の生き物とは違う用心が必要なんだよ』といっていた。
だから警戒した。
なのに……。
お日さまみたいに輝く髪を持った少年は、心の底からボニータのことを慮るように言った。
『君、一人なの? お父さんかお母さんは? こんな所に一人でいたら危ないよ』
だからこの人はいい人だ、とボニータは思ってしまったのだ。
『私が側にいてあげるから、一緒に行こう?』
あの言葉を、ボニータは信じてしまったのだ。
とてもとても簡単に、ボニータは人間社会の嫌な部分に捕まった。
痛い、痛い、痛い。
(あの日に戻れたら、同じ過ちはしないのに)
毒に蝕まれた体は、頭も痛いし、腹も痛いし、節々も痛い。
なによりも、繰り返し夢に現れる過去が、今のボニータを苛むのだった。
懐かしい姿が浮かんでは消える。
『まるで森から生まれたみたいに見えたんだよ――――』
師匠はいつも、そう言って笑っていた。
(お師匠さまに会いたい……)
楽しかった過去の出来事が、まるで今この瞬間、起きていることのように感じられる夢のなかにボニータはいた。
痛い、痛い、痛い。
毒に蝕まれた体は、頭も痛いし、腹も痛いし、節々も痛い。
どこが痛いのかも判然としないまま、ボニータは全身を包む痛みに苦しみながら夢の中をさまよっていた。
何があったのか、体だけでなく心も痛い。
まるで森から生まれたみたいだった、と師匠は語っていたが、ボニータは捨て子だ。
森に捨てられた幼子は、森の魔女と呼ばれる一人の女性によって救われた。
彼女は結界を盾に法外な報酬を王国に求める悪女のように言われていたが、ボニータにとっては命の恩人だ。
尊敬すべき師匠でもあり、愛すべき養い親でもあった。
(お師匠さまは何でも教えてくれたし、お茶目で面白い人だったし、何より私を愛してくれた)
師匠が報酬を何に使っていたのかは知らない。
だが、王都で噂されているように悪い魔女ではなかったことは確かだ。
思い出の中の師匠は、いつも笑っている。
長くてウェーブの強い黒髪に、いつも笑っているような黒い瞳。
スラリと背が高く、スタイル抜群の体をフード付きのマントで覆っていた師匠。
数々の魔法は難なく使いこなすのに料理道具の扱いは下手で、どんな食材もシチューにして煮込んでしまう女性だった。
『可愛い、可愛いボニータ。食べてしまいたいくらいだけど、食べてしまったらなくなってしまうからね』そう言っては笑う師匠。
『ほら、いつまでも泣いてないで、もう一度やってごらん』厳しくも優しい師匠の教えてくれる魔法は、乾いた土に水が染み込むように次から次へとボニータの体に染みついていった。
だから急に師匠が亡くなった時。
ボニータは八歳だったが、既に一人で生きていける術は身につけていた。
誰に頼る必要もなかった。
ボニータは森で生きていけた。
実際、ボニータは一人で生きていた。
師匠の言いつけを守り、瘴気から国を守る結界を守りつつ、キチンと生活していた。
背は低くて痩せっぽちだったけれど、生きていくのには困らなかった。
だが、楽しかった毎日が、心細くて寂しい日々に変わっていくのを彼女は感じていた。
ご飯はしっかり食べている。
森の動物たちはボニータと一緒に遊んでくれる。
なのに、どうしてこんなに心がひもじいのだろう?
そんな風に思いながら生きていたボニータの前に突然、光のように現れたのがアーサーだった。
あの日。
ボニータしか暮らしていない森に、ドタバタと人の入り込む気配がした。
師匠はいつも『可愛いボニータ。人間には注意しなさい。アレを自分と同じ生き物だと思ったら危険だ。狡猾で欲張りなうえ、偽善者だからね。森の生き物とは違う用心が必要なんだよ』といっていた。
だから警戒した。
なのに……。
お日さまみたいに輝く髪を持った少年は、心の底からボニータのことを慮るように言った。
『君、一人なの? お父さんかお母さんは? こんな所に一人でいたら危ないよ』
だからこの人はいい人だ、とボニータは思ってしまったのだ。
『私が側にいてあげるから、一緒に行こう?』
あの言葉を、ボニータは信じてしまったのだ。
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痛い、痛い、痛い。
(あの日に戻れたら、同じ過ちはしないのに)
毒に蝕まれた体は、頭も痛いし、腹も痛いし、節々も痛い。
なによりも、繰り返し夢に現れる過去が、今のボニータを苛むのだった。
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