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【短編 三千文字ちょっとくらい】魔法の花は婚約破棄と共に新しく咲き乱れる
前編
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春の空は晴れ渡り、柔らかな日差しが降り注ぐ。
伯爵令嬢であるアーシャは、庭で花の手入れをしていた。
「綺麗な花ですね」
「ありがとうございます。私の大好きな花なのです」
アーシャはニコニコと笑顔で答えた。
話しかけてきたのは宮廷魔法士であり伯爵でもあるルナルディだ。
キラキラと輝く銀髪が美しい美丈夫に自分の花を褒められて、アーシャは嬉しかった。
「こんな素敵な花を育てる貴女の婚約者さまは幸せものですね」
「ありがとうございます」
アーシャは、大好きな婚約者のために育てた花を褒められて嬉しかった。
この国には「恋の花」というものがある。
魔法花の一種で、恋心を糧のひとつとして育つ花だ。
「花弁が大きくて色合いも華やかだ。アーシャさまの心の有り様をも表す素晴らしい花ですね」
「あら、そんな……恥ずかしいですわ」
恋の花には魔力が宿る。
その効用は、想い人の魔力増強だ。
花が大きく立派になればなるほど、想い人への効果は高くなる。
「こんな素晴らしい花を捧げられた婚約者殿は、さぞかし感謝していることでしょう」
ルナルディはアーシャの婚約者が魔法騎士であることを知っていた。
魔法騎士にとって魔力増強は力強い援護となる。
こんな美しい花をもってして支えてくれる婚約者がいることは、宮廷魔法士であるルナルディには羨ましいことだ。
彼は心の底から思ったことを口にしただけだった。
だが、アーシャからの返事は意外なものだった。
「いえ、そんなことはありません」
アーシャの表情は曇った。
なぜなら婚約者であるニールは、アーシャの育てる花が好きではないからだ。
それは彼の愛情と比例していた。
「おや、こんなに美しい花なのに?」
「花弁そのものは好ましく思ってくれているようですが。この葉が嫌いなようです」
アーシャは恋の花の葉を指さした。
燃えるように赤い花びらに黄金を思わせる雌しべが輝く花弁は、奇妙な柄の入った茎と葉に支えられていた。
緑の茎と葉に走るひび割れのような模様は、雄しべと同じ闇色がかった茶色だ。
「おや、これは……」
見識ある彼には、これの表す事柄が瞬時に理解できた。
アーシャの恋心には嘘がない。
だが、婚約者の方は違うようだ。
ひび割れのような模様は伊達に入ったわけではない。
意味があるのだ。
政略結婚の多い世界では、それを知る者は限られる。
しかし宮廷魔法士である彼にとっては、簡単に読み解ける謎だ。
彼は、憐みと期待の入り混じる感情を忍ばせた視線で、彼女を見た。
溜息を吐いて花を見下ろしているアーシャは、気付いているのだろうか。
それが知りたくて探るように言う。
「婚約者さまとの仲は上手くいっていらっしゃるのですか?」
「そのはずなのですが……夏には結婚する予定ですし。私は婚約者のことが大好きなのです」
アーシャは言葉と共に溜息を吐いた。
彼女の言葉に嘘がないことは、ルナルディにも分かった。
しかし彼の見たところ、彼女に勝算はない。
だが彼女の負けは彼の勝ちに通ずる。
「アーシャさまの心が愛に満ち溢れていることは、花の美しさを見れば分かります。こんな美しい花を咲かせる貴女は幸せになってしかるべきだ」
「ありがとうございます、ルナルディさま」
輝くような笑顔を見せる美しい金髪と緑の目を持つ令嬢は、ルナルディの目にはとても可憐で可愛らしく映った。
彼は彼自身の幸せと可憐な令嬢の幸せが重なっていくことを願った。
そして彼女の婚約者が、相応にしてふさわしい罰を受けたらいいと思った。
伯爵令嬢であるアーシャは、庭で花の手入れをしていた。
「綺麗な花ですね」
「ありがとうございます。私の大好きな花なのです」
アーシャはニコニコと笑顔で答えた。
話しかけてきたのは宮廷魔法士であり伯爵でもあるルナルディだ。
キラキラと輝く銀髪が美しい美丈夫に自分の花を褒められて、アーシャは嬉しかった。
「こんな素敵な花を育てる貴女の婚約者さまは幸せものですね」
「ありがとうございます」
アーシャは、大好きな婚約者のために育てた花を褒められて嬉しかった。
この国には「恋の花」というものがある。
魔法花の一種で、恋心を糧のひとつとして育つ花だ。
「花弁が大きくて色合いも華やかだ。アーシャさまの心の有り様をも表す素晴らしい花ですね」
「あら、そんな……恥ずかしいですわ」
恋の花には魔力が宿る。
その効用は、想い人の魔力増強だ。
花が大きく立派になればなるほど、想い人への効果は高くなる。
「こんな素晴らしい花を捧げられた婚約者殿は、さぞかし感謝していることでしょう」
ルナルディはアーシャの婚約者が魔法騎士であることを知っていた。
魔法騎士にとって魔力増強は力強い援護となる。
こんな美しい花をもってして支えてくれる婚約者がいることは、宮廷魔法士であるルナルディには羨ましいことだ。
彼は心の底から思ったことを口にしただけだった。
だが、アーシャからの返事は意外なものだった。
「いえ、そんなことはありません」
アーシャの表情は曇った。
なぜなら婚約者であるニールは、アーシャの育てる花が好きではないからだ。
それは彼の愛情と比例していた。
「おや、こんなに美しい花なのに?」
「花弁そのものは好ましく思ってくれているようですが。この葉が嫌いなようです」
アーシャは恋の花の葉を指さした。
燃えるように赤い花びらに黄金を思わせる雌しべが輝く花弁は、奇妙な柄の入った茎と葉に支えられていた。
緑の茎と葉に走るひび割れのような模様は、雄しべと同じ闇色がかった茶色だ。
「おや、これは……」
見識ある彼には、これの表す事柄が瞬時に理解できた。
アーシャの恋心には嘘がない。
だが、婚約者の方は違うようだ。
ひび割れのような模様は伊達に入ったわけではない。
意味があるのだ。
政略結婚の多い世界では、それを知る者は限られる。
しかし宮廷魔法士である彼にとっては、簡単に読み解ける謎だ。
彼は、憐みと期待の入り混じる感情を忍ばせた視線で、彼女を見た。
溜息を吐いて花を見下ろしているアーシャは、気付いているのだろうか。
それが知りたくて探るように言う。
「婚約者さまとの仲は上手くいっていらっしゃるのですか?」
「そのはずなのですが……夏には結婚する予定ですし。私は婚約者のことが大好きなのです」
アーシャは言葉と共に溜息を吐いた。
彼女の言葉に嘘がないことは、ルナルディにも分かった。
しかし彼の見たところ、彼女に勝算はない。
だが彼女の負けは彼の勝ちに通ずる。
「アーシャさまの心が愛に満ち溢れていることは、花の美しさを見れば分かります。こんな美しい花を咲かせる貴女は幸せになってしかるべきだ」
「ありがとうございます、ルナルディさま」
輝くような笑顔を見せる美しい金髪と緑の目を持つ令嬢は、ルナルディの目にはとても可憐で可愛らしく映った。
彼は彼自身の幸せと可憐な令嬢の幸せが重なっていくことを願った。
そして彼女の婚約者が、相応にしてふさわしい罰を受けたらいいと思った。
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